●平成19(ネ)10056 不当利得返還等請求控訴事件 特許権 知財高裁

 本日は、一昨日に続き、『平成19(ネ)10056 不当利得返還等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成21年06月25日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090728114234.pdf)について取り上げます。


 本件では、特許法旧35条4項の「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」における「自己実施分」と、「第三者実施分」とについての判断等が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 森義之、裁判官 澁谷勝海)は、

3 本件各発明により一審被告が受けるべき利益──自己実施分

(1) 総論

ア 一審原告らの本訴請求は,前記のとおり,特許法旧35条3,4項に基づき(ただし,海外特許についてはその類推適用),本件各発明の譲渡対価としての「相当額」の支払等を求めるものであるが,そのうち,まず使用者たる一審被告が自らその発明を実施した分(自己実施分)について検討する。


イ 特許法旧35条4項の「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」は,特許を受ける権利が将来特許を受けることができるか否かも不確実な権利であり,その発明により使用者等が将来得ることができる独占的実施による利益の額をその承継時に算定することが極めて困難であることからすると,当該発明の独占的実施による利益を得た後の時点において,これらの独占的実施による利益をみてその法的独占権に由来する利益の額を認定することも,同条項の文言解釈として許容されると解する。


 そして使用者等は,職務発明について特許を受ける権利又は特許権を承継することがなくとも当然に当該発明について同条1項が規定する通常実施権を有することに鑑みれば,同条4項にいう「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」は,自己実施の場合は,通常実施権(法定通常実施権)の行使による利益を超えたものより得た利益と解すべきである。


 したがって,ここでいう「独占的実施による利益」ないし「独占の利益」とは,一般的には,特許権者が他社に実施許諾をせずに当該特許発明を独占的に実施している場合(自己実施の場合)における,他社に当該特許発明の実施を禁止したことに基づいて使用者が挙げた利益,すなわち,他社に対する禁止権の効果として,他社に実施許諾していた場合に予想される売上高と比較してこれを上回る売上高(以下,売上げの差額を「超過売上げ」という。)を得たことに基づく利益(法定通常実施権による減額後のもの)が,これに相当するものということができる。


 また,特許権者が,当該特許発明を実施しつつ,他社に実施許諾もしている場合において,当該特許発明の自己実施分について,実施許諾を得ていない他社に対する特許権による禁止権を行使したことにより超過売上げが生じているとみるべきかどうかについては,事案により異なるものということができる。


 すなわち,?特許権者は特許法旧35条1項により,自己実施分については当然に無償で当該特許発明を実施することができ(法定通常実施権),それを超える実施分についてのみ「超過売上げを得たことに基づく利益」を算定することができるのであり,通常は50〜60%程度の減額をすべきであること,?当該特許発明が他社においてどの程度実施されているか,当該特許発明の代替技術又は競合技術としてどのようなものがあり,それらが実施されているか,?特許権者が当該特許について有償実施許諾を求める者にはすべて合理的な実施料率でこれを許諾する方針を採用しているか,あるいは,特定の企業にのみ実施許諾をする方針を採用しているか,などの事情を総合的に考慮して,特許権者が当該特許権の禁止権による超過売上げを得ているかどうかを判断すべきである。


エ そこで,自己実施の場合における特許法旧35条4項の「その発明により使用者等が受けるべき利益」の額を本件の場合に即して検討すると,次のような手順になると考えられる。すなわち,?一審被告が販売している一審被告製品のうちで一審被告が本件各発明を実施している製品はどれか,?上記?が肯定された商品の具体的な売上高はどれくらいか,?上記?が肯定された売上高の中で法定通常実施権の行使による売上高を超える売上高(超過売上高)の割合,?利益率又は仮想実施料率,?一審被告製品の中に使用されている発明の中における本件各発明の寄与度。


 なお,法定通常実施権について定めた特許法35条1項は日本国特許権についての規定であり,外国特許たる海外特許1〜3については同旨の規定を置いていない国(例えば米国)もあるが,外国特許についても職務発明報酬請求という債権関係の処理においては日本国特許法旧35条3,4項が類推適用されるとする当裁判所の見解に立てば,日本人たる一審原告らが日本法人たる一審被告に対し,社会的事実としては実質的に一個と評価される本件各発明から生じる職務発明報酬請求という場面においては,海外特許1〜3に関する部分についても,日本国特許たる第1発明以下と同じく日本国特許法35条1項を類推適用し,法定通常実施権の存在を前提とした減額をすべきものと解される。


 ・・・省略・・・


4 本件各発明により一審被告が受けるべき利益──第三者実施分

(1) 総論

 前記3(1)でも述べたように,特許法旧35条4項の「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」は,特許を受ける権利が将来特許を受けることができるか否かも不確実な権利であり,その発明により使用者等が将来得ることができる第三者からの実施料収入による利益の額をその承継時に算定することは極めて困難であることからすると,三者に当該発明の実施許諾をし,実施料収入を得た後の時点において,これらの実施料収入額をみてその法的独占権に由来する利益の額を認定することも,同条項の文言解釈として許容されると解する。


 そして,特許法旧35条3,4項に基づき従業者たる一審原告らが,使用者である一審被告に対し第三者実施分につき本件各発明の譲渡対価を求める場合,その算定方法は,上記3で述べた自己実施分の場合と異なり,同条1項にいわゆる法定通常実施権による減額をする必要はなく,端的に本件各発明につき一審被告が第三者から取得した実施料収入を基準とすべきである。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。