●平成19(ワ)2076損害賠償請求事件 特許権「組合せ計量装置」(2)

 本日も、『平成19(ワ)2076 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟「組合せ計量装置」平成22年01月28日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100212102033.pdf)について取り上げます。


 本件は、損害賠償請求事件でその請求が認容された事案です。


 本件では、争点5(消滅時効の成否)についての判断も参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第21民事部 裁判長裁判官 田中俊次、裁判官 北岡裕章、裁判官 山下隼人)は、


『6 争点5(消滅時効の成否)について

(1) 被告は,原告において,被告物件のカタログの記載内容を知った時点をもって,被告による本件特許権侵害の事実を知った時と推認するのが相当であるとして,?原告が,平成6年1月,「SIGMA」のカタログを入手した上,実際に「SIGMA」の中古機を購入してその構造を分析していること,?原告が,平成9年7月「ALPHA, 」のカタログを入手した上,株式会社マツヤに納入されていた「ALPHA」の実機を見学していること,?遅くとも「JAPAN PACK 2003」の最終日である平成15年10月25日までには,原告において,被告が多数の展示会で配布した被告物件のカタログを入手していると考えられることからすれば,本件特許権の登録がなされた平成9年8月8日,あるいは遅くとも「JAPAN PACK2003」の最終日である平成15年10月25日には,原告において,被告による本件特許権侵害の事実を知っていたので,その時期をもって本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点とすべきであると主張する。


(2) 証拠(各項末尾に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。


 ・・・省略・・・


(3) 検討

ア 以上に基づいて検討するに,民法724条は,不法行為による損害賠償請求権の期間制限(消滅時効)を定めたものであり,不法行為に基づく法律関係が,未知の当事者間に予期しない事情に基づいて発生することがあることにかんがみ,被害者による損害賠償請求権の行使を念頭に置いて,消滅時効の起算点に関して特則を設けたものである。


 したがって,同条にいう「損害及び加害者を知った時」とは,被害者において,加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に,その可能な程度にこれらを知った時を意味するものと解するのが相当であり,同条にいう被害者が損害を知った時とは,被害者が損害の発生を現実に認識した時をいうと解すべきである(最高裁判所平成14年1月29日第三小法廷判決・民集56巻1号218頁参照)。


 そして,本件のような特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権については,被害者としては,加害者による物件の製造販売等を認識していたとしても,当該物件が自己の特許発明と対比してその技術的範囲に属し,当該加害者の行為が被害者の有する特許権を侵害する行為であることを現実に認識していなければ,これによる損害の発生を現実に認識し得ず,加害者に対して損害賠償請求権を行使することができないから,「損害及び加害者を知った」というためには,加害者の行為が被害者の特許権を侵害する行為であることを現実に認識することを要するものと解するのが相当である。


イこれを本件についてみるに,上記のとおり,原告の関係会社であるイシダ・ヨーロッパが,平成6年1月に「SIGMA」の中古機を購入して原告の計量装置との比較を行い,「SIGMA」と原告の計量装置の性能等を比較した結果を記した「ISHIDA TRAINING SESSION」と題する文書を作成したこと,原告(開発部制御技術グループ)自身,平成9年7月には,株式会社マツヤが使用する「ALPHA」を見学して「Technical Report 大和製衡コンピュータスケール(Data weigh α)の見学」と題する文書を作成したことが認められる。


 そして,イシダ・ヨーロッパが作成した「ISHIDA TRAINING SESSION」には原告の計量装置の問題点に関して「日本側はこの点について調査研究を行うことに合意している。」と記載されていることからすると,イシダ・ヨーロッパが「SIGMA」と原告の計量装置とを比較検討した内容については原告も把握しているものと推認される。


 また,原告は,上記のとおり,被告物件を実際に購入してその性能を調査したり,他社の使用する被告物件を見学するなどしていたのであるから,被告が展示会等で配布していた被告物件のパンフレットについては,随時収集して被告物件を調査していたことは容易に推認されるところであり,このことは,原告作成に係る「Technical Report 大和製衡コンピュータスケール(Data weigh α)の見学」の中に「今回,写真撮影も行った。ポケットカメラによる撮影のため,少しピントがぼけているが,参考のため,付記する。なお,データウェイアルファのカタログも付記しておく。」と記載されていることからも明らかである。


 そして,「SIGMA」のカタログ(甲3)には「ステッピングモーターで,ホッパーの開口時,開閉時における駆動,制御を行っています。」との記載が,「ALPHA」のカタログ(甲4)には「ステッピングモータによる駆動方式を採用している為,静かな運転音で長寿命の安定した動きを約束します。」,「計量物の性質に合わせてホッパーゲートの開閉速度を細かく調整することができ,欠けを防ぎます。」との記載が,「SIGMA PLUS」のカタログ(甲5)には「先進技術…調整可能なドア開閉角度」,「最先端のソフトウェア…きめ細かい運転条件の変更も可能」との記載が,「ALPHA PLUS」のカタログ(甲7)には「アルファシリーズは,ホッパードアの開閉用駆動源にステッピングモータを使用していますので,商品に合わせてホッパドア開閉のパターンを細かく調整し,登録することができます。これにより高速運転が可能です。」との記載がそれぞれあるから,これらの記載を見た上で本件特許発明と対比すれば,被告物件が本件特許発明の技術的範囲に属するのではないかとの疑念を抱くことは十分に可能であるとはいえる(実際,原告は,被告物件が本件特許発明の技術的範囲に属することを立証するため,被告物件のカタログを証拠として提出している。)。


 しかも,原告が,被告物件のカタログ収集による調査に加えて,被告物件の実機を購入して運転稼働させたり,他社が使用する被告物件の運転稼働状況を見学していることからしても,原告において,本件特許発明と対比するに必要な程度の被告物件の構成については把握していたものと推認される。


ウしかしながら,「ISHIDA TRAINING SESSION」及び「Technical Report 大和製衡コンピュータスケール(Data weigh α)の見学」と題する各書面には,原告において,被告物件が本件特許発明(当時は登録前の発明)の技術的範囲に属するか否かの調査をしたことをうかがわせるような記載は一切なく,かえって,「ISHIDA TRAINING SESSION」の「Atoma及び大和製衡の計量機のいずれも,(0〜9)の物品名,目標重量,要求速度,物品の種類を入力できる。計量機は自動的にプリセットパラメータを計算する。我々はこの点に対する対抗技術を持たないが,日本側はこの点について調査研究を行うことに合意している。」との記載や,「Technical Report 大和製衡コンピュータスケール(Data weigh α)の見学」の「今回,他社製のコンピュータスケールを見学する機械を得,大変参考になった。今後の設計に活かしたい。次回,大和の最新高級機種シグマを見学したいと思った。」との記載等からすれば,原告は,あくまで競業会社である被告が製造する被告物件と原告の計量装置とを比較し,原告の計量装置の優位性や改善点を調査することを目的として被告物件の調査を行っていたことが明らかである。


 このことからすれば,原告が被告物件のカタログを随時収集していた点についても,同様の目的で被告物件の調査をしていたものと推認されるのであって,そのことを超えて,本件特許権侵害の有無の調査を目的とし,被告物件と本件特許発明とを対比し,被告物件が本件特許発明の技術的範囲に属するか否かについての調査をしていたものと認めることはできない。


 以上のとおり,原告としては,カタログの収集や実機の分析等により被告物件の構成・性能等を継続的に調査し,被告物件の構成を相当程度詳細に把握していたものと認められるが,上記(2)で認定した事実からは,原告において,本件訴訟提起の3年以上前の時点で,被告物件と本件特許発明とを対比し,被告物件が本件特許発明の技術的範囲に属するものであって,これを製造販売する被告の行為が本件特許権を侵害することを現実に認識していたとまでは認められず,他にこれを認めるに足りる証拠もない。


 したがって,原告が本件訴訟を提起した平成19年2月26日の時点では,原告の被告に対する損害賠償請求権のうち消滅時効期間の3年が経過したと認められるものはないから,被告の消滅時効の主張は採用することができない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。