●平成19(ワ)2076損害賠償請求事件 特許権「組合せ計量装置」(4)

 本日も、『平成19(ワ)2076 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟「組合せ計量装置」平成22年01月28日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100212102033.pdf)について取り上げます。


 本件では、 争点6−2(原告の損害の額)についての判断も参考になるかと思います。


『8 争点6−2(原告の損害の額)について

(1) 被告が本件特許権を侵害したことにより得た利益の額

ア証拠(乙82,181)及び弁論の全趣旨によれば,被告が,本件特許の存続期間中の平成9年9月1日から平成18年11月15日までの間,被告物件を国内向けに236台製造して販売し,外国向けに4562台製造して販売したこと,上記期間中の国内向け被告物件の売上額は9億1559万8000円,外国向けの被告物件の売上額は255億3785万9000円であること,国内向けの被告物件の売上額から売上原価を控除した粗利額は8593万8000円であり,外国向けの被告物件の粗利額は69億6541万6000円であること,被告物件の販売に係る営業費(販売費と一般管理費の合計)は国内向けの分が4億5575万9000円であり,外国向けの分が48億2903万1000円であることが認められる。


ところで,原告は,特許法102条2項に基づき,被告が本件特許権を侵害した行為により得た利益の額の賠償を求めているところ,ここでいう被告が得た利益とは,被告物件の売上高から被告物件の製造販売のために直接的に要した費用を控除した額(限界利益)をいうと解するのが相当である。


 被告の上記営業費(販売費と一般管理費の合計)の中には被告物件の製造販売の有無にかかわらず必要であった費用も含まれていることは明らかであるから,損害の基礎となる被告の限界利益を算出するに当たり,被告物件の販売に係る粗利額の合計から被告が支出した営業費の全額を控除することは相当でなく,粗利額から控除することができるのは営業費のうち被告物件の製造販売に直接的に要したと認められる部分に限られるというべきである。


 この点,原告は,被告が粗利額から控除すべき変動経費の額について具体的に主張していない以上,被告物件の販売に係る粗利額をもって被告が得た利益の額とすべきであると主張するが,被告の上記営業費の中に被告物件の販売に直接的に必要となった費用が含まれていることも否定することはできないから,被告が支出した営業費を一切考慮しないとするのは相当でない。


 もっとも,被告は,上記営業費の内訳を明らかにする資料を開示していないから,原告において,被告の限界利益の額を直接立証することは極めて困難というべきである。


 したがって,本件においては,特許法105条の3の趣旨に照らし,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,被告の営業費のうち粗利額から控除すべき金額を認定するのが相当であり,その際には,被告と競合する原告における産機部門の販売管理費・一般管理費の内訳を参考にするのが合理的である。

 ・・・省略・・・


 そうすると,販売費・一般管理費のうち被告物件の製造販売のために直接要した費用の額は,外国向け販売分及び国内販売分に区分し,上記に算定したとおり,販売費・一般管理費に占める直接部門費の割合をもって算出するのが相当である(なお,人件費は通常は製品の販売の多寡にかかわらず支払われるものであるから,限界利益の算出に当たって粗利額から人件費を一律に控除することは相当ではないが,原告は,直接部門費のうちに人件費が占める割合を明らかにしておらず,原告における人件費を含む直接部門費が販売費・一般管理費に占める割合に基づいて被告の限界利益を算出しているから,本件では,原告の主張する計算方法に基づいて被告の限界利益を算出することとする。このような計算方法は被告に有利ではあっても不利な計算方法ではない。)。


 ・・・省略・・・


ウ代替技術の有無について

 被告は,テーブルデータとしてではなく本件明細書の第2図に示されるようなゲートの時間変化を関数やグラフ図形として入力するという方法でも本件特許発明と全く同様の作用効果を奏することができるから,本件特許発明の技術的価値は相応に低いものにならざるを得ないと主張する。


 しかしながら,ゲートの時間変化を関数やグラフ図形として入力する方法により本件特許発明と同じ作用効果を奏することが可能であるとしても,実際にそのような入力方法を採用した製品があるとは認められず,また,製品化することの容易性について具体的な立証まではされていないから,本件特許発明に容易に取って代わるような代替技術であると認めることはできない。


エ米国125特許発明の実施許諾について

 被告は,本件和解により本件特許発明に対応する米国125特許発明の実施許諾を受けたことを,米国向け被告物件の販売利益に対する本件特許発明の寄与度を評価するに当たって考慮すべきであると主張する。


 確かに,被告は,本件和解により本件特許発明と同一の技術内容を対象とする米国125特許権について実施許諾を受けており,米国内で被告物件を製造販売することはできたのであるから,本件特許権を侵害せずに米国向けの被告物件を製造販売して利益を得る方法があったといえる。


 しかし,被告は,米国に製造拠点を設けることなく,日本国内で被告物件を製造して米国に向けて販売するという経営戦略をとり,その結果,本件特許権を侵害し,かかる侵害行為により被告物件の販売利益を得たのであるから,被告が米国125特許発明の実施許諾を受けていることを理由に,被告物件の販売利益に対する本件特許発明の寄与度を減殺するのは相当でない。被告の上記主張は採用できない。


 ・・・省略・・・


 したがって,本件においては,特許法102条2項本文による原告の損害額の推定を覆滅するに足りる事実が具体的に立証されているとはいえないから,上記(3)で算出した原告の損害額を減額するのは相当でない。


第5 結語

 以上によれば,原告の本件請求は,特許権侵害の不法行為に基づき,損害賠償金14億9847万9183円及びこれに対する不法行為の日の後である平成19年1月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。