●平成2(ネ)2733 著作権 民事訴訟「木目化粧紙原画事件」東京高裁

Nbenrishi2009-06-13

 本日は、昨日まで取り上げていた、『平成19(ワ)8262 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟 平成21年06月09日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090610133453.pdf)の中で引用されていた、著名な著作権事件である、
 ●『平成2(ネ)2733 著作権 民事訴訟「木目化粧紙原画事件」平成3年12月17日 東京高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/3AE997AD4325806049256A7600272B9E.pdf)について取り上げます。


 つまり、本判決の内容は以下の通りです。


『二 控訴人は、本件原画が著作物性を有することを前提として、請求の原因4記載の被控訴人の行為(被控訴人が昭和五九年一一月中旬ころから、原告製品をそのまま写真撮影し、製版印刷して被告製品を製作し、これに「カジアルウッド」という商品名を付して販売している行為)は控訴人が本件原画に対して有する複製権を侵害するものであり、仮に右権利侵害が認められないとしても、被控訴人の右行為は控訴人の本件原版の所有権に含まれる無体物としての側面から生じる間接的排他的な支配権能を侵害する旨主張し、主位的に著作権侵害に基づき、予備的に本件原版の所有権に基づき、被告製品の製造、販売及び頒布の差止め並びに損害賠償を請求する。


 しかしながら、当裁判所も、本件原画は、産業用に量産される実用品の模様であって、著作権法第二条第一号にいう「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」とはいえないから著作物性を有しないこと、有体物である本件原画に対する所有権は、有体物としての排他的な支配権能にとどまるものであり、被控訴人の しかしながら、当裁判所も、本件原画は、産業用に量産される実用品の模様であって、著作権法第二条第一号にいう「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」とはいえないから著作物性を有しないこと、有体物である本件原画に対する所有権は、有体物としての排他的な支配権能にとどまるものであり、被控訴人の前記行為は所有権侵害に当たらないから、控訴人の前記請求はいずれも理由がないと判断するものであり、その点に関する認定、判断は次のとおり付加するほか、原判決理由説示と同一であるから、ここに原判決第一一丁表第八行ないし第一六丁裏第九行の記載を引用する。


 著作権法は、第二条第一項第一号において著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と規定した上、同条第二項において「この法律にいう美術の著作物には、美術工芸品を含むものとする。」と規定している。


 右第二項の規定は、いわゆる応用美術、すなわち実用品に純粋美術(専ら鑑賞を目的とする美の表現)の技法感覚などを応用した美術のうち、それ自体が実用品であって、極少量製作される美術工芸品を著作権法による保護の対象とする趣旨を明らかにしたものである。


 著作権法は、応用美術のうち美術工芸品以外のものについては、それが著作権法による保護の対象となるか否かを何ら明らかにしていないが、応用美術のうち、例えば実用品の模様などとして用いられることのみを目的として製作されたものは、本来、工業上利用することができる意匠、すなわち工業的生産手段を用いて技術的に同一のものを多量に生産することができる意匠として意匠法によって保護されるべきであると考えられる。


 けだし、意匠法はこのような意匠の創作を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする(同法第一条)ものであり、前記の品の形状、模様、色彩又はそれらの結合は正に同法にいう意匠(同法第二条)として意匠権の対象となるのに適しているからである。


 もっとも、実用品の模様などとして用いられることのみを目的として製作されたものであっても、例えば著名な画家によって製作されたもののように、高度の芸術性(すなわち、思想又は感情の高度に創作的な表現)を有し、純粋美術としての性質をも肯認するのが社会通念に沿うものであるときは、これを著作権法にいう美術の著作物に該当すると解することもできるであろう。


 この点に関連して、控訴人は、木目化粧紙は実用的機能は求められておらず、専ら高級感のある美感を与えることを企図して製作されるのであり、同一天然木目材料を使用してもデザイナーの個性によって全く異なる原画が製作されるから、原判決が実用品特有の制約があることを理由に本件原画の著作物性を否定したのは誤りである旨主張する。


 しかしながら、本件原画の製作過程は原判決第一一丁裏第七行ないし第一四丁表第八行記載のとおりであって、これらの工程には、実用品の模様として用いられることのみを目的とする図案(デザイン)の創作のために工業上普通に行われている工程との間に何ら本質的な差異を見いだすことができず、その結果として得られた本件原画(検甲第二号証)の模様は、まさしく工業上利用することができる、物品に付せられた模様というべきものである。


 そして、検甲第二号証を子細に検討しても、本件原画に見られる天然木部分のパターンの組合わせに、通常の工業上の図案(デザイン)とは質的に異なった高度の芸術性を感得し、純粋美術としての性質を肯認する者は極めて稀であろうと考えざるを得ず、これをもって社会通念上純粋美術と同視し得るものと認めることはできない。


 したがって、本件原画に著作物性を肯認することは、著作権法の予定していないところというべきである。


 以上のとおりであるから、本件原画は著作物性を有するという控訴人の主張は採用できない。


三 控訴人は、本件原画について著作権が認められず、かつ、本件原版の所有権に含まれる無体物の側面から生ずる間接的排他的な支配権能が認められないとしても、原告製品を写真撮影しそのまま製版印刷して製造された被告製品を販売する被控訴人の行為は、不法行為に該当する旨主張するので、この点について判断する。


 民法第七〇九条にいう不法行為の成立要件としての権利侵害は、必ずしも厳密な法律上の具体的権利の侵害であることを要せず、法的保護に値する利益の侵害をもって足りるというべきである。


 そして、人が物品に創作的な模様を施しその創作的要素によって商品としての価値を高め、この物品を製造販売することによって営業活動を行っている場合において、該物品と同一の物品に実質的に同一の模様を付し、その者の販売地域と競合する地域においてこれを廉価で販売することによってその営業活動を妨害する行為は、公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において、著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業活動上の利益を侵害するものとして、不法行為を構成するというべきである。


 これを本件についてみると、検甲第四一号証、検乙第二号証、同第二五号証及び第三一号証によれば、原告製品は、木目を寄木風に組んで天然の木目を幾何学化し、ところどころに天然木目のパターンをモンタージュ構成して作り出した本件原画を原版として着色・印刷したものであることが認められる。


 そして、被控訴人が被告製品を製作し、これに「カジュアルウッド」という商品名を付して販売していることは当事者間に争いがないところ、被告製品である検甲第四二号証、検乙第一号証、同第二六号証及び同第三二号証と原告製品である前掲検甲第四一号証、検乙第二号証、同第二五号証及び同第三一号証とを対比すると、被告製品の模様は、色調の微妙な差異を除けば、原告製品の模様と寸分違わぬ、完全な模倣(いわゆるデッドコピイ)であることが明らかである。


 ・・・省略・・・


 右認定事実によれば、控訴人は、原告製品に創作的な模様を施しその創作的要素によって商品としての価値を高め、この物品を製造販売することによって営業活動を行っているものであるが、被控訴人は、原告製品の模様と寸分違わぬ完全な模倣である被告製品を製作し、これを控訴人の販売地域と競合する地域において廉価で販売することによって原告製品の販売価格の維持を困難ならしめる行為をしたものであって、控訴人の右行為は、取引における公正かつ自由な競争として許される範囲を甚だしく逸脱し、法的保護に値する控訴人の営業活動を侵害するものとして不法行為を構成するというべきである。


 前掲乙第二一号証、第二八号証、第三〇号証、第三二号証、及び第三三号証は、本件のような海賊行為は控訴人自身が行ってきたところであり、化粧紙印刷業界において木目化粧紙の複製行為は慣習として認められてきた旨の記載が存するが、かかる事実を認めるに足りる証拠はなく、これをもって被控訴人の前記行為が不法行為を構成しないとすることはできない。


 したがって、被控訴人は控訴人に対し前記不法行為により控訴人が被った損害を賠償する責任を免れない。


 控訴人は、被控訴人に対し、前記不法行為に基づき、損害賠償のほか被告製品の製造、販売及び頒布の差止めを請求する。


 しかしながら、相手方の不法行為を理由に物の製造、販売及び頒布を差止める請求は、特別にこれを認める法律上の規定の存しない限り、右不法行為により侵害された権利が排他性のある支配的権利である場合のみ許されるのであって、本件のように不法行為による被侵害利益がこのような権利ではなく、取引社会において法的に保護されるべき営業活動にとどまるときは、相手方の不法行為を理由に物の製造、販売及び頒布を差止める請求をすることはできないというべきである。


 したがって、訴訟人の右差止請求は理由がない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。