●平成25(ネ)10066 不正競争防止法,著作権侵害・損害賠償請求控訴

  本日は、『平成25(ネ)10066 不正競争防止法著作権侵害・損害賠償請求控訴事件 著作権 民事訴訟 平成26年1月22日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20140131103553.pdf)について取り上げます。


 本件は、不正競争防止法著作権侵害・損害賠償請求控訴事件で、本件控訴が棄却された事案です。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 清水節、裁判官 池下朗、裁判官 新谷貴昭)は、


 本件では、本件図柄の著作物性について等の判断が参考になるかと思います。


 『本件図柄の著作物性について

 控訴人は,本件図柄を一体として鑑賞した場合,本件図柄における文字は,思想,感情を表現するものとして,絵柄に融合しており,絵柄の美術性に含まれているし,本件図柄は,画面いっぱいに,大胆にグラスが描かれ,構図的バランスが,ずしりと重量感を与え,色彩感覚と美的に表現され,見る人の心を惹きつけてやまないのであって,ありふれた平凡な絵柄ではなく,美術性と創作性を兼ね備えていると主張する。


 控訴人は,本件図柄が被控訴人からの依頼で作成したものであることを否定するととともに(乙5・2頁),広告看板用の図柄であることを否定するが(甲228),本件図柄は芸術作品としてではなく,あくまでも広告業におけるマーケティングの一環として作成されたものであるし(乙5・1,2頁),芸術作品として展示や販売に供されたというように,広告看板以外の目的に使用されたことを認めるに足りる証拠はない。


 そうすると,本件図柄は,あくまでも広告看板用のものであり,実用に供され,あるいは,産業上利用される応用美術の範ちゅうに属するというべきものであるところ,応用美術であることから当然に著作物性が否定されるものではないが,応用美術に著作物性を認めるためには,客観的外形的に観察して見る者の審美的要素に働きかける創作性があり,これが純粋美術と同視し得る程度のものでなければならないと解するのが相当である。


 このような観点から見ると,本件図柄のグラスの形状には,通常のワイングラスと比べて足の長さが短いといった特徴も認められるものの,それ以外にグラスとしての個性的な表現は見出せない。また,ワイナリーの広告としてワイングラス自体が用いられること自体は珍しいものではない上に,図柄が看板の大部分を占めている点も,ワイナリーの広告としてありふれた表現にすぎない。そして,本件図柄を全体的に観察すると,上記ワイングラスの大きさや形状に加えて,被控訴人の商号及びワイナリーや工場の見学の勧誘文言が目立つような文字の配置と配色がなされていることが特徴的であるが,これも,一般的な道路看板に用いられているようなありふれた青系統の色と補色に近い黄色ないし白色のコントラストがなされているにとどまる。


 そうすると,本件図柄には色彩選択の点や文字のアーチ状の配置など控訴人なりの感性に基づく一定の工夫が看取されるとはいえ,見る者にとっては宣伝広告の領域を超えるものではなく,純粋美術と同視できる程度の審美的要素への働きかけを肯定することは困難である。控訴人が著作物性の根拠として強調する点は,宣伝広告の効果を向上させるための工夫とも共通するものであって,必ずしも芸術性を高めるものではない。また,控訴人が主張するように,現代における芸術分野の区分の流動化が認められるとしても,本件図柄はあくまでも広告看板用に作成されたものであって,応用美術の範囲に属することに変わりはないというべきであるから,上記で判示した著作物性を認める判断基準が変わるわけではなく,本件図柄の著作物性を否定した上記判断を左右するものではない。


 さらに,控訴人主張のとおり,ペンチという道具を単純化してその一部を平面的にデフォルメして構図化したデザイン(甲221)や四角いキャンバスを二つの三角形に分けてそれぞれ単色で色づけしたデザイン(甲222)のように,一見ありふれた表現方法が用いられているものが芸術作品として取り扱われている例があるとしても,これらは,いずれも美術作品として一点限りで制作されるのであって,広告のために複数が作成される商業的作品とは相違する上,作成時期も本件図柄と違っていずれも昭和40年代の作品で美術史的な位置付けも異なり,あくまでも純粋に審美性を追求する見地からシンプルな配色やデザインがあえて使用されたとも評価できる。そうすると,遠方から確認しやすく,一般消費者である通行人や通行車両の注意を惹き,広告対象物への興味をわき上がらせる形態が一次的に要求される広告看板用の本件図柄とは,その配色や構図の目的や意味合いは自ずと異なり,著作物性の前提となる作成者の創作性の反映や見る者に対する審美的要素への働きかけの有無や程度も当然に異なってくるというべきである。したがって,上記のような美術作品の存在は,本件図柄につき純粋美術と同視できる程度の審美的要素への働きかけを否定した上記判断を左右するものではない。よって,本件図柄には著作物性は認められないというべきであり,その帰属について判断する必要もない。


(2) 本件図案につき著作物性が否定された場合の被控訴人の不法行為責任

 著作権法6条は,保護を受けるべき著作物の範囲を定め,独占的な権利の及ぶ範囲や限界を明らかにしているのであり,同条所定の著作物に該当しないものである場合,当該著作物を独占的に利用する権利は法的保護の対象とならないものと解される。したがって,同条各号所定の著作物に該当しない著作物の利用行為は,同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である最高裁平成23年12月8日第1小法廷判決・民集65巻9号3275頁参照)。


 本件においても,上記(1)で述べたとおり,本件図案につき著作物性が認められない以上,特段の事情が認められない限り,被控訴人に不法行為責任は認められないというべきであるところ,特段の事情を認めるに足りる証拠はない。


 この点について控訴人は,被控訴人との契約が継続することを前提に本件図柄の使用を許可した旨主張し,その根拠として,平成17年8月30日付け広告掲載申込書(甲109)の掲載条件欄に,括弧書きで「デザイン類似転用不可」,「製作類似転用不可」と手書きで記載されている点を指摘する。しかしながら,同契約書の表題はあくまでも「広告掲載申込書」であって,契約終了後の本件図案の使用に関する合意まで含むものと評価することは困難である。実際に,控訴人と被控訴人との間では,平成10年5月28日以降に広告看板の掲載に関する契約(甲10の1,12,15,17,19,29の1,190)が多数交わされてきたが,その中では看板の取付料と年間掲載料についてのみ合意してきたと認められ(甲109と同趣旨の手書きの記載はない。),甲109の合意もその一環と解されるにすぎない。


 したがって,甲109の記載をもって,控訴人と被控訴人とが本件図案の使用に関して一定の合意をしたと認めることはできない。よって,被控訴人の本件図柄の使用につき何らかの法的利益を侵害したものといえるような特段の事情を見出すことは困難であって,被控訴人の不法行為責任を認めることはできないというほかない。

第6 結論

 以上より,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の請求は理由がなく,原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。