●平成19(ワ)8262 不正競争行為差止等請求事件 不正競争(3)

 本日も、『平成19(ワ)8262 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟 平成21年06月09日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090610133453.pdf)について取り上げます。


 本件では、争点(2)(不法行為の成否)についての判断も参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第21民事部 裁判長裁判官 田中俊次、裁判官 北岡裕章、裁判官 西理香)は,


4 争点(2)(不法行為の成否)について

(1) 上記3のとおり,被告商品の形態は,いずれも原告商品の形態と実質的に同一であるということはできず,原告商品の形態を模倣したものということはできない。しかし,原告は,被告らが被告商品を販売する行為は,不正競争行為には当たらないとしても,民法709条の不法行為を構成する旨主張する。


 すなわち,原告は,化粧品の容器・商品ラインアップ(容器と内容物との組合せ)について,創造的なデザインや模様等を施し,その創作的要素によって商品としての価値を高め,この物品を製造販売することによって営業活動を行っていたのであり,これに対して,被告らは,相共同して,具体的には,被告らが主導し,被告らがその指示に従うことによって,当該商品と酷似するデザインを施し,オリジナル商品と競合する流通過程に置くことによりその営業活動を妨害したものであって,被告らの上記行為は,公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において,著しく不公正な手段を用いて法的保護に値する他人の営業活動上の利益を侵害したものとして,不法行為を構成すると(東京高裁平成3年12月17日判決〔木目化粧紙原画事件〕参照。),なるほど,被告商品は,原告商品と同じ金型を使用したものであり,容器の形状・寸法は同一である。また,各商品の9品目のアイテムのラインアップ及び9品目のアイテムに付された名称も同一であること等からすると,被告商品の形態が原告商品の形態に依拠したものであることは優に推認することができる。


(2) しかし,被告らが被告商品を販売するに至った経緯は,前示認定のとおりである。


 ・・・省略・・・


 問題は,被告商品が原告商品と同じ形状・寸法の同じような色調(ピンク)の容器を使用し,商品ラインアップやアイテムの名称も同じであることや,その供給先が原告商品と競合するなど,その販売により原告が営業上の利益を侵害されるおそれがあるということであり,被告らの主観的意図や行為態様をも勘案して,被告商品の製造販売が商取引における自由で公正な競争の範囲を著しく逸脱し,法秩序全体の見地から原告に対する不法行為を構成するといえるかどうかである。


(4) そこで検討するに,まず,被告商品が原告商品と同じ敏感肌用基礎化粧品であり,商品ラインアップも,各アイテムの名称及び内容物が原告商品と同じであるか,類似するものであるということは,もともと被告商品が原告商品の代替商品として,被告の販売先であるエステティックサロン等への供給責任を果たすという目的に照らし,やむを得ないところがある(商品ラインアップ及び各アイテムの名称が原告商品と異なるときは,販売先であるエステティックサロン等を混乱させることになりかねない。また,仮に上記商品ラインアップ等が原告の考案に係るものであったとしても,その使用を原告に独占させるべき法律上の根拠はない。)。


 もとより,内容物の組成自体について原告が特許権等の独占権を有するとの主張立証はないから,原告商品の代替商品としての被告商品が原告商品と内容物において同様の組成を有することも当然であるといえる。


 したがって,被告商品がこれらの点で原告商品を模倣したものであるとしても,これをもって,直ちに被告商品の販売が原告に対する商取引における公正な自由競争の範囲を著しく逸脱するものということはできない。


 次に,被告商品の容器の形状・寸法は原告商品のそれと同一である。


 しかし,原告商品の容器の金型は,原告商品を開発する際に新たに作成されたものではなく,?ハタが有していた有型の中から原告の担当者が選択したものにすぎず,かつ,その形状・寸法自体はさほど特徴のある形態のものではなく,どちらかといえばありふれたものにすぎない。


 さらに,被告商品の容器の色彩は,原告商品の容器のそれと同様,広い意味でピンク色であるが,前示認定のような色調上の相違があるし,敏感肌用基礎化粧品の容器としては柔らかな暖色系が好まれることから,この種の商品の容器に使用される色彩としてピンク色はありふれたものというべきである。その他,光沢,質感,ワンポイント色,商品名の点で相違するものであり,実質的に同一といえるほど酷似したものということもできない。


(5) 確かに,被告商品は,原告商品の容器とその形状・寸法において共通し,色彩の点で類似するところがあるから,一見して類似するという印象を受けることは否定できない。


 被告らとしては,被告商品の容器の形態として原告商品とより相違した形態を採用することも可能であったとはいえる。


 しかし,原告商品と被告商品とが上記相違点を有していることから,その形態が実質的に同一であるとは認められず,また,前示のとおり,被告商品のデザインに当たり,A1が「もっと似せろ」などと発言したとまでは認定できず,他にA1をはじめ被告らの関係者が,故意に被告商品の形態を原告商品の形態に似せようとしたとまでは認められない。


 また,被告は,原告から被告商品の販売について抗議を受けるや直ちにその販売を中止し在庫品を廃棄しているのであり,被告商品が実際にエステティックサロン等に販売された数量は比較的少量にとどまること(・・・省略・・・)等を考慮すると,被告商品の販売が原告に与えた営業上の利益の侵害の程度も軽微なものであったといえる。


 以上の被告らの主観的意図や客観的な行為態様等を総合すれば,被告商品を製造販売した被告らの行為は,いまだ商取引における公正な自由競争の範囲を著しく逸脱するものであったということはできず,原告に対する不法行為を構成するものというに十分なものとはいえないというべきである。


(6) 原告は,東京高裁平成3年12月17日判決〔木目化粧紙原画事件〕を引用して,本件における被告商品の販売は原告に対する不法行為を構成する旨主張する。


 しかし,上記事件は,木目化粧紙の模様を完全に模倣して木目化粧紙を製造し,元の木目化粧紙の販売地域と競合する地域でこれを廉価で販売する行為について,取引における公正かつ自由な競争として許されている範囲を甚だしく逸脱し,元の木目化粧紙の販売者の法的保護に値する営業活動上の利益を侵害するものとして,不法行為を構成するとした事例であるところ,本件とは商品の模倣の程度,販売態様が異なり,本件に適切な事案ということはできない。


第5 以上によれば,原告らの被告らに対する本件請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。