●平成19(ネ)10082著作権侵害差止請求控訴事件「格安DVD販売差止め」

Nbenrishi2008-08-09

 本日も、『平成19(ネ)10082 著作権侵害差止請求控訴事件 著作権 民事訴訟「黒沢映画格安DVD販売差止め」平成20年07月30日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080731144549.pdf)について取上げます。


 本日は、「4 本件映画の著作権の存続期間について」と、「5 被控訴人の本件請求について」について取上げます。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 田中信義、裁判官 榎戸道也、裁判官 浅井憲)は、


4 本件映画の著作権の存続期間について

(1) 旧著作権法6条の趣旨

 前記1に概観したとおり,旧著作権法は,3条から9条まで著作権の保護期間に関する規定をおいているところ,3条1項は,発行又は興行した著作物の著作権の存続期間を著作者の生存する間及び死後30年間と定め,4条は,著作者の死後に発行又は興行した著作物の著作権の存続期間を発行又は興行の時から30年間と定め,5条本文は,無名又は変名の著作物の著作権の存続期間を発行又は興行の時から30年間と定め,但書きでその期間内に著作者の実名登録を受けたときは3条の規定に従うこととされ,6条は,団体の名義をもって発行又は興行した著作物の著作権の存続期間を発行又は興行の時から30年間と定めている。


 ところで,前記2(1)に説示したとおり,旧著作権法においては著作者となり得る者は原則として自然人であると解されるところ,これを前提に上記のような著作権の保護期間に関する規定の定め方を見れば,旧著作権法は,著作物の存続期間を原則として自然人である著作者の死亡の時を基準とすることを定めているものと解することができ,著作者が特定できないためこの基準によることができない無名又は変名の著作物及び著作者の死亡という事態を想定できない団体名義の著作物については5条及び6条で発行又は興行の時を基準とすることとしたものと解される。


 そうすると,旧著作権法6条の「官公衙学校社寺協会会社其ノ他ノ団体ニ於テ著作ノ名義ヲ以テ発行又ハ興行シタル著作物」とは,著作者名義として団体を表示して発行又は興行した著作物であって,その著作者は法人等である著作物をいうものと解するのが相当である。


(2) 本件映画の著作権の存続期間

 以上を前提に,本件映画の著作権の存続期間につき検討する。

ア 前記第2の1の前提事実に証拠(甲第1,2号証,第9,10号証,検甲第1,2号証)及び弁論の全趣旨を総合すると,本件映画は,旧大映が製作し,その専用系列映画館で旧大映製作の作品として公開されたものであること,本件映画ではオープニングの冒頭に旧大映の社章と共に「大映株式會社製作」との表示がされ,その後に題名が映し出され,続いて本件映画の製作に関与した者の担当職名と氏名が表示され,オープニングの最後に「監督黒澤明」と表示されていることが認められる。


 以上の事実によれば,本件映画における「大映株式會社製作」との表示は映画製作者が旧大映であることを示すものであり,「監督黒澤明」との表示が本件映画の著作者を示すものであると認めるのが相当であるから,本件映画は著作者の実名を表示して興行された著作物であり,旧著作権法6条にいう団体名義の著作物に当たらないというべきである。


 したがって,本件映画の著作権の存続期間は,旧著作権法3条が適用されるものと解される。


イ そして,本件映画が独創性を有する映画の著作物であること,黒澤監督が平成10年に死亡したことは当事者間に争いがないから,本件映画の著作権の存続期間は,旧著作権法によれば,22条の3,3条,9条,52条1項により,少なくとも著作者の1人である黒澤監督の死亡した年の翌年である平成11年から起算して38年間存続するので,平成48年12月31日まで存続することとなる。


 また,本件映画1は昭和24年に興行され,本件映画2は昭和25年に興行されたものである(前記3(1))から,平成15年改正法によれば,54条1項,附則2条,新著作権法附則7条により,いずれもその著作権は興行の年の翌年から70年間存続するので,本件映画1は平成31年12月31日まで,本件映画2は平成32年12月31日まで存続することとなる。


 そうすると,平成15年改正法附則3条により,本件映画の著作権は,少なくとも平成48年12月31日まで存続することとなる。


(3) 当審における控訴人の主張に対する判断

 控訴人は,本件映画が旧著作権法6条の団体著作物に当たり,このように解することはシェーン判決の判断にも沿うものであると主張する。


 しかしながら,本件映画における旧大映の表示が映画製作者を示すものであり,著作者としては黒澤監督が表示されていることは前記(2)に認定したとおりであるから,本件映画が旧著作権法6条の団体著作物に当たるものとは認められない。


 また,シェーン判決は,映画「シェーン」がアメリカ合衆国法人を著作者とし,その著作名義をもって1953年(昭和28年)に同国において最初に公表された映画であることを前提事実として(なお,同映画の抽出画像である乙18のA−2シーンには,「COPYRIGHT MCMLII BY PARAMOUNT PICTURESCORPORATION」とパラマウント社に著作権が帰属する旨が明示されていることが認められるのに対し,本件映画にかかる表示はない。),同映画のように団体名義で公表された独創性を有する映画の著作物の保護期間は,旧著作権法6条により発表後33年間とされていたことを踏まえ,平成15年改正法による保護期間の延長措置の適用の可否についての同法附則2条の経過規定の解釈が問題となった事案である(乙第17号証)。これに対し,本件では,前記(2)に説示したとおり,黒澤監督を著作者と表示して興行された本件映画の存続期間が争われているのであるから,シェーン判決とは事案を異にするものである。



 したがって,控訴人の上記主張は採用できない。


5 被控訴人の本件請求について


(1) 以上に認定判断したところによれば,本件商品は,輸入の時において国内で作成したとしたならば被控訴人の複製権を侵害するべき行為によって作成された物であり,控訴人が本件商品を国内において頒布する目的で輸入していることは争いがないから,控訴人が本件商品を輸入する行為は被控訴人の著作権を侵害する行為とみなされる(著作権法113条1項1号)。


 したがって,被控訴人は,控訴人に対し,著作権法112条1項及び2項に基づいて,本件商品の輸入及び頒布の差止め並びに在庫品の廃棄を求めることができる。


 なお,控訴人による頒布の差止めについては,著作権法113条1項2号の適用があるとしても,遅くとも控訴人に対し原判決書が送達されたことにより同号の「情を知つて」の要件を満たすことになると認められるので,被控訴人は,著作権法113条1項2号,112条1項に基づいて,その頒布の差止めを求めることができる。


(2) また,控訴人は,本件商品を日本国外において第三者に製造させており(前提事実(3)),原審及び当審を通じて本件映画の存続期間の満了を理由に著作権侵害の成立を争っているから,将来,日本国内においても本件商品を製造,販売するおそれがあると認められる。


 よって,被控訴人は,著作権法112条1項及び2項に基づいて,本件商品の国内での増製及び頒布の差止めを求めることができる。


6 結論

 以上の次第で,被控訴人の請求を認容した原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,棄却されるべきである。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。