●『平成16(受)781 補償金請求事件 最高裁 光ディスク事件』

 asahi.comの「日立特許訴訟、発明した元社員の勝訴確定 最高裁」(http://www.asahi.com/national/update/1017/TKY200610170316.html)や、
YOMIURI ONLINE「発明対価、日立の1億6千万円超支払いが確定」(http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20061017it11.htm)に、
 日立の光ディスクの職務発明補償金請求事件の最高裁判決である『平成16(受)781 補償金請求事件 平成18年10月17日 最高裁判所第三小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061017155304.pdf)が掲載されましたので、取り上げます。


 上記記事にも記載されているように、職務発明の対象となる特許に海外で登録された特許も含まれることが最高裁でも認められたそうです。


 最高裁のこの判決文を一部引用すると、

『1 我が国の特許法が外国の特許又は特許を受ける権利について直接規律するものではないことは明らかであり(1900年12月14日にブラッセルで,1911年6月2日にワシントンで,1925年11月6日にヘーグで,1934年6月2日にロンドンで,1958年10月31日にリスボンで及び1967年7月14日にストックホルムで改正された工業所有権の保護に関する1883年3月20日のパリ条約4条の2参照),特許法35条1項及び2項にいう「特許を受ける権利」が我が国の特許を受ける権利を指すものと解さざるを得ないことなどに照らし,同条3項にいう「特許を受ける権利」についてのみ外国の特許を受ける権利が含まれると解することは,文理上困難であって,外国の特許を受ける権利の譲渡に伴う対価の請求について同項及び同条4項の規定を直接適用することはできないといわざるを得ない。


 しかしながら,同条3項及び4項の規定は,職務発明の独占的な実施に係る権利が処分される場合において,職務発明が雇用関係や使用関係に基づいてされたものであるために,当該発明をした従業者等と使用者等とが対等の立場で取引をすることが困難であることにかんがみ,その処分時において,当該権利を取得した使用者等が当該発明の実施を独占することによって得られると客観的に見込まれる利益のうち,同条4項所定の基準に従って定められる一定範囲の金額について,これを当該発明をした従業者等において確保できるようにして当該発明をした従業者等を保護し,もって発明を奨励し,産業の発展に寄与するという特許法の目的を実現することを趣旨とするものであると解するのが相当であるところ,当該発明をした従業者等から使用者等への特許を受ける権利の承継について両当事者が対等の立場で取引をすることが困難であるという点は,その対象が我が国の特許を受ける権利である場合と外国の特許を受ける権利である場合とで何ら異なるものではない。


 そして,特許を受ける権利は,各国ごとに別個の権利として観念し得るものであるが,その基となる発明は,共通する一つの技術的創作活動の成果であり,さらに,職務発明とされる発明については,その基となる雇用関係等も同一であって,これに係る各国の特許を受ける権利は,社会的事実としては,実質的に1個と評価される同一の発明から生じるものであるということができる。


 また,当該発明をした従業者等から使用者等への特許を受ける権利の承継については,実際上,その承継の時点において,どの国に特許出願をするのか,あるいは,そもそも特許出願をすることなく,いわゆるノウハウとして秘匿するのか,特許出願をした場合に特許が付与されるかどうかなどの点がいまだ確定していないことが多く,我が国の特許を受ける権利と共に外国の特許を受ける権利が包括的に承継されるということも少なくない。


 ここでいう外国の特許を受ける権利には,我が国の特許を受ける権利と必ずしも同一の概念とはいえないものもあり得るが,このようなものも含めて,当該発明については,使用者等にその権利があることを認めることによって当該発明をした業者等と使用者等との間の当該発明に関する法律関係を一元的に処理しようというのが,当事者の通常の意思であると解される。


 そうすると,同条3項及び4項の規定については,その趣旨を外国の特許を受ける権利にも及ぼすべき状況が存在するというべきである。


 したがって,従業者等が特許法35条1項所定の職務発明に係る外国の特許を受ける権利を使用者等に譲渡した場合において,当該外国の特許を受ける権利の譲渡に伴う対価請求については,同条3項及び4項の規定が類推適用されると解するのが相当である。


2 本件において,被上告人は,上告人との間の雇用関係に基づいて特許法35条1項所定の職務発明に該当する本件各発明をし,それによって生じたアメリカ合衆国,イギリス,フランス,オランダ等の各外国の特許を受ける権利を,我が国の特許を受ける権利と共に上告人に譲渡したというのである。


 したがって,上記各外国の特許を受ける権利の譲渡に伴う対価請求については,同条3項及び4項の規定が類推適用され,被上告人は,上告人に対し,上記各外国の特許を受ける権利の譲渡についても,同条3項に基づく同条4項所定の基準に従って定められる相当の対価の支払を請求することができるというべきである。


 所論の点に関する原審の判断は,結論において正当であり,論旨は採用することができない。


 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。』

とのようです。


 職務発明の対象となる特許に海外で登録された特許も含まれるとする判断自体は、妥当なものと思いますが、発明者の職務発明の補償額があまりにも低いのは問題ですが、それがあまりにも大きくなり過ぎると、海外出願等の出願費用や弁理士費用等のコスト等を負わない発明者と(出願国数が多いと軽く1千万を超える場合があります。)、それを負う会社や特許権を上手く活用して交渉し特許収入を得た知財部門や渉外部門とのバランス等が崩れるような気がしており、上手くバランスのとれた補償額を決めるのは本当に難しいものだと思います。


 海外特許を多く保有し活用している企業では、本当に影響が出そうな感を受けます。