●平成23(ワ)247 意匠権侵害差止等請求事件「エーシーアダプタ」

 本日は、『平成23(ワ)247 意匠権侵害差止等請求事件 意匠権 民事訴訟「エーシーアダプタ」平成24年6月29日東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120702151918.pdf)について取り上げます。


 本件は、意匠権侵害差止等請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、まず、争点1(本件登録意匠と被告意匠の類否)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第46部 裁判長裁判官 大鷹一郎、裁判官 高橋彩、裁判官 石神有吾)は、


『1争点1(本件登録意匠と被告意匠の類否)について

 登録意匠とそれ以外の意匠との類否の判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとされ(意匠法24条2項),その判断に際しては,両意匠を全体的観察により対比し,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様,更には登録意匠における公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して,登録意匠について需要者が視覚を通じて注意をひきやすい特徴的部分(要部)を把握し,この特徴的部分を中心に両意匠を対比した上で,両意匠が全体的な美感を共通にするか否かによって類否を決するのが相当であると解される。


 以上を前提に,被告意匠が本件登録意匠に類似する意匠に該当するかどうか判断する。


(1)本件登録意匠及び被告意匠の形態等

ア本件登録意匠の形態

 本件登録意匠は,「エーシーアダプタ」に係る意匠であり,その形態は,別紙意匠公報記載の図面のとおりである。


 …省略…


(2)本件登録意匠の特徴的部分(要部)

アエーシーアダプタの性質,用途及び使用態様

 別紙意匠公報記載の「意匠に係る物品の説明」及び証拠(乙1の1ないし4,検甲1)によれば,?本件登録意匠の意匠に係る物品であるエーシーアダプタは,携帯電話,スマートフォン,携帯用音楽プレーヤー,携帯用ゲーム機等の周辺機器の充電に用いられる機器であること,?充電の際には,本体の背面に折り畳まれている差込みプラグを90度ないし180度起こした状態で商用電源のコンセントに差し込むと,本体の正面下部のUSBコネクタ(USBポート)に接続され接続用のケーブルを介した周辺機器にコンセントからの交流電圧を所定の直流電圧に変換して供給すること,?充電をしないときは,周辺機器から接続用のケーブルを抜き,差込みプラグを折り畳んで収納した状態で保管し,あるいは,この状態で身の回りに置いたり,外出時に携行するなどすることが認められる。エーシーアダプタは,これらの周辺機器を充電するために用いるものであるから,これらの周辺機器を利用する者が需要者となる。


イ公知意匠


 …省略…


ウ検討

(ア)前記ア認定のエーシーアダプタの性質,用途及び使用態様によれば,エーシーアダプタは,携帯用の周辺機器の充電に用いる実用品であると同時に,身の回りに置き,あるいは,外出時に携帯するなど,日常生活において目に触れる機会の多い製品であるといえる。


 そして,前記イの認定事実によれば,エーシーアダプタの意匠においては,本件登録意匠の構成態様に係る「箱状の本体の背面に折り畳み自在の差込みプラグを設け,底面に周辺機器に接続されるUSBコネクタを設ける」構成(前記(1)ア?),「本体は,縦横の寸法が同一の正四角形で扁平な箱状であり」(前記(1)ア?),「本体の全周囲は面取りがされている」構成及び「縦(横)の寸法の約0.15倍の長さを半径とする面取りをする」構成,「差込みプラグが本体の平面部(上面部)から背面部に設けられ,プラグのピンは背面の凹部に折り畳まれた状態から,後方又は上方に起立させて使用され,プラグピンの支持部の外周は弧状をなしている」構成(前記(1)ア?),本体の「正面下部にランプを設ける」構成(前記(1)ア?),「USBコネクタは,底部に設けられている」構成(前記(1)ア?)は,本件出願時にいずれも公知であったものといえる。


 他方で,本件登録意匠の構成態様のうち,「本体の全周囲は,厚さ方向に厚さの約2分の1を半径とする半円弧状の面取りがされ,本体の四角隅部は,正面視において,いずれも,厚さの約2分の1を半径とする四半球状となっている」点(前記(1)ア?)は,公知意匠には認められない構成態様であり,この構成態様により,需要者に対し,本体全体が丸みを帯びた柔らかな印象を与えると同時に,本体正面視の四角隅部が四半球状となっていることにより整った印象も与えるものとなっており,上記構成態様は,他の公知意匠にはみられない新規な創作部分であるといえる。


 すなわち,前記イ(イ)のとおり,乙3には,充電器に係る意匠において,縦横の寸法が同一の正四角形の箱状の本体において,「縦(横)の寸法の約0.15倍の長さを半径とする面取りをしている」構成が示されているが,厚さが縦(横)寸法の約0.6倍であって,これは本件登録意匠の2倍に当たり,縦(横)の長さと厚さとの比が異なり,さらには厚さに対する面取り径の比が本件登録意匠よりも小さく,本件登録意匠のような全周囲が厚さの約2分の1を半径とする半円弧状の面取りをしておらず,また,本体の四角隅部が,正面視において,いずれも,厚さの約2分の1を半径とする四半球状となっているものともいえず,本件登録意匠のような本体全体が丸みを帯びた柔らかな印象を与えるものとはいえない。他に本件登録意匠の上記構成態様が本件出願前に公然知られた形状であったことを認めるに足りる証拠はない。


 以上を総合考慮すると,本件登録意匠において,需要者の注意を引きやすい特徴的部分は,「本体の全周囲は,厚さ方向に厚さの約2分の1を半径とする半円弧状の面取りがされ,本体の四角隅部は,正面視において,いずれも,厚さの約2分の1を半径とする四半球状となっている」点を含む,本体部全体の形態であると認められる。


(イ)これに対し被告は,通常の販売・流通形態(店頭,ウェブサイト)では,需要者は,エーシーアダプタを正面又は正面やや斜めから見るのが普通であり,需要者としては正面の形態に最も注目するから,本件登録意匠においては,携帯電話等の周辺機器との接続部分,本体の正面の形状及びランプの位置の正面形態全体がひとまとまりとして要部となり,特に接続部分が最重要の要部である旨主張する。


 しかしながら,意匠の特徴的部分の把握に際しては,意匠に係る物品の販売・流通時において視認し得る形状のみを前提にするのではなく,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様等も考慮すべきであるところ,前記(ア)認定のとおり,エーシーアダプタは,需要者が実際に手にとって携帯用の周辺機器の充電に用いる実用品であると同時に,身の回りに置き,あるいは,外出時に携帯するなどされるものであることからすると,需要者が本件登録意匠の正面の形態にのみ注目するとはいえない。また,被告が主張する携帯電話等の周辺機器との接続部分,本体の正面の形状及びランプの位置は,前記イのとおり,いずれも本件出願前に公知の形状であることからすると,本件登録意匠においては,携帯電話等の周辺機器との接続部分,本体の正面の形状及びランプの位置の正面形態全体がひとまとまりとして需要者の注意を引きやすい特徴的部分(要部)を形成しているとはいえないし,ましてや接続部分が最重要の要部であるとはいえない。


 したがって,被告の上記主張は,採用することができない。


(3)被告意匠の類似性

 前記(2)ウ(ア)認定のとおり,本件登録意匠において,需要者の注意を引きやすい特徴的部分は,「本体の全周囲は,厚さ方向に厚さの約2分の1を半径とする半円弧状の面取りがされ,本体の四角隅部は,正面視において,いずれも,厚さの約2分の1を半径とする四半球状となっている」点を含む,本体部の形態全体である。


 そこで,この特徴的部分を中心に本件登録意匠と被告意匠を対比した上で,両意匠が全体的な美感を共通にするか否かについて判断するに,前記(1)ウ(ア)?ないし?認定のとおり,両意匠は,この特徴的部分において共通するのみならず,それ以外の基本的構成態様及び具体的構成態様の多くの部分においても共通しており,需要者に対し,全体として共通の美感を生じさせるものと認められる。


 他方で,前記(1)ウ(イ)認定のとおり,両意匠には,?本件登録意匠では,本体底面に周辺機器に接続されるUSBコネクタが設けられているが,被告意匠では,周辺機器に接続されるコードが断線防止部材を介在して,本体内部の回路に接続されている点,?本件登録意匠では,本体の正面の形状が平坦であるが,被告意匠では,中央部で周縁部よりも厚さの約0.03倍(約0.5mm)程度膨出している点,?本件登録意匠では,ランプの中心が本体右側面と底面からそれぞれ約17mmの均等な位置にあるのに対し,被告意匠では,ランプの中心が本体底面から約12mmで,かつ,本体右側面から約16mmの位置にあり,本件登録意匠に比べて底面に寄った位置に設けられている点において差異があるが,これらの差異点は,需要者の注意をひきやすい部分とはいえない上,差異点から受ける印象は,両意匠の共通点から受ける印象を凌駕するものではない。


 したがって,本件登録意匠と被告意匠は,上記差異点を考慮しても,需要者の視覚を通じて起こさせる全体的な美感を共通にしているものと認められるから,被告意匠は,本件登録意匠に類似している。


これに反する被告の主張は,採用することができない。


(4)まとめ

 以上のとおりであるから,被告意匠は,本件登録意匠と類似する意匠に該当する。』

 と判示されました。