●平成23(ワ)131 意匠権侵害差止等請求事件「目違い修正用治具」

本日は、『平成23(ワ)131 意匠権侵害差止等請求事件「目違い修正用治具平成23年11月10日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111116093206.pdf)について取り上げます。


 本件は、意匠権侵害差止等請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、争点1(本件登録意匠と被告意匠の類否)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第46部 裁判長裁判官 大鷹一郎、裁判官 上田真史、裁判官 石神有吾)は、


『1 争点1(本件登録意匠と被告意匠の類否)について

(1) 登録意匠とそれ以外の意匠との類否の判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとされており(意匠法24条2項),この類否の判断は,両意匠を全体的観察により対比し,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様,更には公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して,当該意匠に係る物品の看者となる需要者が視覚を通じて注意を惹きやすい部分を把握し,この部分を中心に対比した上で,両意匠が全体的な美感を共通にするか否かによって類否を決するのが相当であると解される。


 ・・・省略・・・


(ウ) 検討

a 前記アのとおり,目違い修正用治具の需要者は,目違い修正用治具の把持部材の形状,開口部を有する取付基部の形状,調整用ボルトの形状,補強板の有無及び形状等に着目するものと考えられ,上記形状等は,需要者が注意を惹きやすい部分であると認められるところ,上記形状等に関し,本件登録意匠と被告意匠には,前記(イ)?ないし?のとおりの差異があるので,まず,これらの差異点による意匠的効果について検討する。


(a) 把持部材の形状

 両意匠は,前記(イ)?のとおり,把持部材の全体的形状,固定位置及び固定方法において差異があり,これらの差異により,本件登録意匠における把持部材は,部材の形状及び部材によって形成される開口部(隙間)が略長方形であることから,がっしりとした角張った印象を与えるのに対し,被告意匠における把持部材は,細い丸棒状で,かつ,角部に緩やかなアールが付けられた略L字状の形状で,部材によって形成される開口部(隙間)が比較的大きく取られていることから,開口部にゆとりのある柔らかい印象を与えるものとなっており,看者に対して異なる美感を与えるものといえる。


(b) 取付基部の形状

 両意匠は,前記(イ)?及び?のとおり,取付基部の全体的形状,取付基部を構成する底面部材に接合された水平基部の形状及びその接合位置において差異があり,これらの差異により,本件登録意匠における取付基部は,角張った印象を与えるのに対し,被告意匠における取付基部は,コンパクトな印象を与えるものとなっており,看者に対して異なる美感を与えるものといえる。


(c) 調整用ボルトの形状

 両意匠は,前記(イ)?のとおり,調整用ボルトの頭部及び先端部の形状において差異があり,これらの差異により,本件登録意匠における調整用ボルトは,典型的な頭部が偏平な形状のボルトといった印象を与えるのに対し,被告意匠における調整用ボルトは,頭部の正六角柱状の形状及び締付ハンドル貫設用の孔の存在,先端部の締め付けパッドの形状等から,典型的なボルトとは異なる独特の印象を与えるものとなっており,看者に対して異なる美感を与えるものといえる。


(d) 補強板の有無等

 両意匠は,前記(イ)?のとおり,本件登録意匠では,略逆台形状の薄板状の補強板が,水平基部の正面の下側及び取付基部を構成する底面部材の正面を隠すように配置されているのに対し,被告意匠では,補強板が設けられていない点において差異があり,この差異により,本件登録意匠は,補強板によって水平基部及び底面部材がしっかりと固定され,頑丈な印象を与えるのに対し,被告意匠は,このような印象を与えることはない。


b そして,本件登録意匠と被告意匠とは,前記(ア)のとおり,底面部材と垂直部材と上部部材とからなる取付基部,底面部材の両側に伸びる水平基部,水平基部の両端部近傍に設けられた調整用ボルト,取付基部に固定された把持部材を有する点,取付基部の開口部がコの字状を呈する点において共通するが,他方で,前記(イ)及び上記aのとおり,需要者が注意を惹きやすい部分である把持部材の形状,取付基部の形状,調整用ボルトの形状,補強板の有無等において差異があり,これらの差異により,上記各部分において異なる美感を与えるものであるのみならず,全体的に観察しても,本件登録意匠は,全体的に角張った,がっしりとした印象を与えるのに対し,被告意匠は,全体的に丸みを帯びた,ソフトな印象を与えるものであり,両意匠は全く異なった意匠的効果を有するものと認められる。


 したがって,両意匠は全体的な美感を共通にするものとはいえないから,被告意匠が本件登録意匠と類似するということはできない。


c これに対し,原告は,?本件登録意匠の需要者の最も注意を惹く部分(要部)は,基本的構成態様のうち,底面部材と垂直部材と上部部材とからなる取付基部,底面部材の上面に配置され両側に伸びる水平基部,水平基部の両端部近傍に設けられた調整用ボルトを有する点及び具体的構成態様のうち,底面部材と垂直部材と上部部材とからなる取付基部がコの字状を呈する点にあり,被告意匠は,本件登録意匠の要部に係る各構成態様を備えている点において本件登録意匠と共通するから,両意匠を全体として観察した場合,両意匠が看者である需要者に与える印象は同一である,?両意匠の構成態様に差異点はあるが,看者である需要者に与える印象が大きく異なるというものではなく,美感に影響を与えるようなものではないとして,被告意匠は本件登録意匠と類似する旨主張する。


 しかし,原告主張の両意匠の共通点に係る形態は,前記イのとおり,本件登録意匠の登録出願前に公知であった三菱自社製作品の意匠と同様の構成であり,新たな意匠的な創作がされたものとはいえない。かえって,形鋼,柱などを両側から狭持するための開口部を設ける場合に,開口部の形状をコの字型にすることはごく自然なことであり,また,目違いを調整するために2つの調整用ボルトを用いること自体は,ありふれたものであるというべきである。


 したがって,原告主張の両意匠の共通点に係る形態は,需要者の注意を強く惹くものとはいえないし,また,上記共通点が与える美感は微弱なものであって,前記bの類否判断を左右するものではないから,原告の上記主張は,採用することができない。

(2) 以上のとおり,被告意匠は本件登録意匠と類似するものと認められない。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。