●平成23(行ケ)10051 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟

 本日は、『平成23(行ケ)10051 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 平成23年9月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110929104519.pdf)について取り上げます。


 本件は、意匠登録無効審決の取消を求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、類否の判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 八木貴美子、裁判官 武宮英子)は、


『2類否の判断

 以上認定した事実に基づいて,本件登録意匠と引用意匠の類否を判断する。

 (1)類否判断における本件登録意匠の特徴部分(要部)について

 本件登録意匠において,本体部の正面に,上から順に,上方大径孔,2個の中径孔,小径孔,下方大径孔(なお,その径は上方大径孔よりも小さい。)の5個の真円形状の孔が全体として左右対称状に配され,背面に,上から順に,上方大径孔,2個の中径孔,下方大径孔(なお,その径は上方大径孔よりも小さい。)の4個の真円形状の孔が全体として左右対称状に配置されている点は,本件意匠登録の出願前に公知であることを考慮すると,取引者・需要者の注意をそれほど引く形態とはいえない。これに対して,本件登録意匠において,本体部の形態が,上方約3分の2が垂直面からなる縦長四角柱,下方約3分の1が「く」字状部からなる点は,本件意匠登録の出願前に公知ではなく,取引者・需要者の注意を引きやすい形態といえる。

 以上のとおりであり,本件登録意匠に係る物品(膨張弁)の使用の態様等をも総合考慮すると,本件登録意匠において,取引者・需要者の注意を引きやすい特徴的な部分(いわゆる要部)は,本体部の形態が,上方約3分の2が垂直面からなる縦長四角柱,下方約3分の1が「く」字状部からなるという点を含む物品(膨張弁)全体の形態であると解すべきである。引用意匠における特徴的な部分も同様である。

 この点,原告は,本件登録意匠における要部は,本体正面から見た場合の各孔の具体的な位置関係や大きさを中心とした正面形態であると主張する。しかし,前記のとおり,本体部の正面における5個の孔の基本的な配置及び径の大きさが取引者・需要者の注意をそれほど引く形態とはいえないことからすると,「正面形態,その中でも特に各孔の具体的な位置関係や大きさ」が本件登録意匠の要部であるとはいえない。この点の原告の主張は,採用の限りでない。

(2)本件登録意匠と引用意匠との類否判断

 本件登録意匠と引用意匠とは,略縦長四角柱状の本体部とその上端に設けられた弁駆動部からなり,本体部全体は,上方約3分の2が垂直面からなる縦長四角柱,下方約3分の1が「く」字状部からなり,高さが正面上端横幅の3倍弱,側面横幅が正面上端横幅の約1.2ないし1.3倍,正面下端の横幅が正面上端の横幅の3分の2弱であり,「く」字状部は,傾斜面の角度が鉛直方面に対して約20度ないし30度で,側面において,傾斜面の上辺及び下辺が,横水平に,エッジ状の稜線,及び谷線を形成し,本体部の正面には上から下へ,1個の上方大径孔,左右の2個の中径孔,1個の小径孔,1個の下方大径孔が全体として左右対称状に配され,いずれも真円形状の孔で,上方大径孔の径は正面上端横幅より僅かに小径であり,上方大径孔,中径孔と小径孔は接近して配されており,背面には,上から下へ,1個の上方大径孔,左右2個の中径孔,1個の下方大径孔が,全体として左右対称状に配され,いずれも真円形状の孔であるという点において共通する。


 両意匠は,特に,取引者・需要者の注意を引きやすい点である本体部全体の形態を含め,特徴的な形態の多くの部分において共通しており,看者に対して,美感において,両意匠が類似するとの印象を与える。


 これに対して,原告は,本件登録意匠と引用意匠は,?本体部の「く」字状部における傾斜面の角度,?傾斜面と垂直面の上下幅の比率,?正面における下方大径孔の位置及び径の大きさが異なることから,正面形態を人の顔にたとえると,看者に対して異なった美感を生じさせるから,両意匠は類似しないと主張する。


 しかし,両意匠の本体部の「く」字状部における傾斜面の角度の差異は約10度にすぎず,また,傾斜面と垂直面の上下幅も,本件登録意匠の方は傾斜面の上下幅の方が多少広く,引用意匠の方は傾斜面の上下幅の方が多少狭いという差異があるものの,両意匠の全体の形態を対比した場合,これらの差異は両意匠の類似性を否定するほどのものではない。また,正面に配された下方大径孔が,本件登録意匠では小径孔に接近して配され,その径は正面下端の横幅より大きいのに対し,引用意匠では小径孔より離れて配され,その径は正面下端の横幅より小さいという差異があるが,本件登録意匠における下方大径孔の配置も,引用意匠における下方大径孔の配置も,前記のとおり本件意匠登録の出願前から公知であった点を考慮すると,これらの差異も,両意匠の類似性を否定するほどのものではない。

 したがって,原告の主張は理由がない。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。