●昭和61(オ)30等 模造品製造差止等「アースベルト事件」最高裁判所

  本日は、『昭和61(オ)30等 模造品製造差止等 実用新案権 民事訴訟「アースベルト」昭和63年07月19日 最高裁判所第三小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/F9798F494B7E461049256A8500311EF5.pdf)について取り上げます。


  本件は、不正競争防止法1条1項1号に言う商品等表示の要件である周知性の獲得時期等について判示した最高裁判決です。不正競争防止法1条1項1号の周知性の獲得時期についての判決内容は、以下の内容です。


 つまり、

『                 主    文

     一 昭和六一年(オ)第三〇号事件につき、昭和五九年三月一六日言渡しの原判決中上告人有限会社三栄交易敗訴部分、及び昭和六一年(オ)第三一号事件につき、昭和六〇年九月三〇日言渡しの原追加判決をいずれも破棄する。
     二 前項の部分につき、本件を仙台高等裁判所に差し戻す。
     三 昭和六一年(オ)第三〇号事件につき、上告人Aの上告を棄却する。
     四 前項の部分に関する上告費用は、上告人Aの負担とする。

                  理    由

 第一 昭和六一年(オ)第三〇号事件

 一 上告代理人松井宣、同小川修、同沼波義郎、同半澤力の上告理由一について

 上告人らの第一次請求たる不正競争防止法に基づく請求は、上告人Aの設立した上告人有限会社三栄交易(以下「上告会社」という。)が昭和五三年六月以降「アースベルト」なる商標(以下「原告商標」という。)を使用して製造販売している原判決添付の別紙第一目録記載の自動車接地具(以下「原告製品」という。)は、爆発的売行きを示し、昭和五四年三月までに約一五万本販売され、更にその製造販売数は増加の一途をたどつており、新聞、雑誌、ラジオ、テレビ等による広告宣伝とあいまつて、原告製品の形態自体及び原告商標は、昭和五四年三月には、上告会社の商品たることを示す表示として仙台市を中心に全国的に知られるようになり、同法一条一項一号にいう「本法施行ノ地域内ニ於テ広ク認識セラルル」(以下「周知」又は「周知性」という。)商品表示となつていたところ、被上告人宮川商工株式会社(以下「被上告人宮川商工」という。)は、昭和五三年八月ころに原告製品の独占的販売権を得たい旨上告会社に申し入れたものの、四六〇〇本程度を仕入れたのみで、その後の継続的取引を断られたことから、昭和五四年三月ころ、被上告人株式会社セイワ(旧商号・株式会社清和工業製作所)に依頼して原判決添付の別紙第二目録ないし第五目録記載の自動車接地具(以下「被告製品」と総称する。)を製造し、これに「エンドレスアースベルト」なる商標(以下「被告商標」という。)を使用してその販売を開始したが、被告製品の形態は原告製品の形態と酷似しており、また、被告製品に使用されている被告商標は原告製品に使用されている原告商標と類似しているため、被告製品の販売自体並びに被告商標の使用及びこれを使用した被告製品の販売(同法一条一項一号にいう、商品表示「ヲ使用シ又ハ之ヲ使用シタル商品ヲ販売」することを、以下「使用等」という。)は、被告製品を原告製品と誤認混同させるものであると主張して、被上告人らに対し、被告製品の製造販売及び「アースベルト」なる名称の使用等の差止め、並びに被上告人らが昭和五四年四月から昭和五六年一月までの間被告商標を使用して被告製品を一九万八六一〇本製造販売したことによつて被つた損害八〇〇〇万円の賠償及び新聞紙への謝罪広告の掲載を請求する、というものである。


 原判決は、(1) 上告人Aは、昭和五三年二月ころ原告製品を考案して、同年四月末ころ製品化し、同年六月一日上告会社を設立し、これを通じて原告製品の販売を開始した、(2) 上告会社は、全国に販売されている自動車専門雑誌二誌に広告を掲載して通信販売の方法をとる一方、地元の新聞やラジオにより広告宣伝をし、同年八月ころ、訴外株式会社双見商会と取引を開始し、同社に卸売りされた原告製品は主に東北六県の出光関係のガソリンスタンドで小売りされ、また、上告会社は、同年一二月ころ東京の株式会社向島自動車用品製作所外一社とも取引を開始し、更に右双見商会を介して他の数社とも取引を行うようになつた、(3) 原告製品は、主としてガソリンスタンド、カー用品店、スーパー等で小売りされ、昭和五四年三月ころには東京都内のガソリンスタンドでも販売されており、昭和五三年六月から同五四年三月までの販売数は、通信販売や展示即売会等での販売数を加えて約一五万本である、(4) 被上告人宮川商工は、昭和五三年九月ころ上告会社から原告製品を仕入れたことがあつたが、その後上告会社に販売を断られたため、昭和五四年三月末ころ被告製品のうちの第二目録記載の自動車接地具の製造販売を始め、その後、同じく第三目録ないし第五目録記載の自動車接地具も製造販売している、との事実を確定したうえ、不正競争防止法一条一項一号の趣旨に鑑みれば、自己の商品表示が同号にいう周知の商品表示に当たると主張する甲が、これと同一又は類似(以下単に「類似」という。)の商品表示の使用等をする乙に対してその使用等の差止め及び右使用等による損害賠償(謝罪広告の掲載を含む。以下同じ。)を請求するには、甲の商品表示は、遅くとも乙の商品の販売開始より前に周知性を備えていることを要し、本件においては、被告製品の販売が開始された昭和五四年三月末ころまでに原告製品の形態自体及び原告商標が原告製品の商品表示として周知性を備えていることを要するところ、原告製品の形態自体及び原告商標は右時期には未だ周知性を備えていたとは認められないとして、上告人らの右各請求をすべて棄却すべきものとした。


 しかしながら、右周知性を備えるべき時期についての原審の判断は、是認することができない。

 自己の商品表示が不正競争防止法一条一項一号にいう周知の商品表示に当たると主張する甲が、これと類似の商品表示の使用等をする乙に対してその差止め等を請求するには、甲の商品表示は、不正競争行為と目される乙の行為が甲の請求との関係で問題になる時点、すなわち、差止請求については現在(事実審の口頭弁論終結時)、損害賠償の請求については乙が損害賠償請求の対象とされている類似の商品表示の使用等をした各時点において、周知性を備えていることを要し、かつ、これをもつて足りるというべきである。


 けだし、同号の規定自体、原判決説示のように周知性具備の時期を限定しているわけではなく、周知の商品表示として保護するに足る事実状態が形成された以上、その時点から右周知の商品表示と類似の商品表示の使用等によつて商品主体の混同を生じさせる行為を防止することが、周知の商品表示の主体に対する不正競争行為を禁止し、公正な競業秩序を維持するという同号の趣旨に合致するものであり、このように解しても、右周知の商品表示が周知性を備える前から善意にこれと類似の商品表示の使用等をしている者は、継続して当該表示の使用等をすることが許されるのであつて(同法二条一項四号。いわゆる「旧来表示の善意使用」の抗弁)、その保護に十分であり、更には、損害賠償の請求については行為者の故意又は過失を要件としているのであつて(同法一条ノ二)、不当な結果にはならないからである。


 そして、甲の商品表示を使用した商品の販売、宣伝活動等、甲の商品表示が周知性を備えるに至つたことを基礎づける事実は、甲において具体的に主張立証すべきものであるところ、記録によれば、本件において、上告人らは、被上告人らが被告製品の製造販売を始めた昭和五四年三月末までの時点だけでなく、それ以降の時点において上告会社が株式会社双見商会、株式会社向島自動車用品製作所等に販売した原告製品の数量をも具体的に主張し、これを裏づける証拠も提出していることが明らかである。


 したがつて、原告製品の形態自体及び原告商標は、原判示の昭和五四年三月末ころの時点では周知性を備えるに至つていなかつたとしても、審理の結果次第では前記のような被上告人らの行為が問題になるその後の時点においては周知性を備えるに至つていると認められる可能性があるから、右に説示したところと異なる見解に立つて同法に基づく上告会社の各請求を棄却すべきものとした原判決には、同法の解釈適用を誤つた違法があつて、この違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであり、ひいて審理不尽、理由不備の違法があるといわなければならない。これと同旨の上告会社の論旨は、理由がある。


 しかし、上告人Aは、その主張自体から、自ら原告商標を使用して原告製品を販売する等の営業をしている者でないことが明らかであり、被上告人らの被告製品の製造販売及び被告商標の使用等により営業上の利益、信用を害されることはないというべきであるから、同法に基づく上告人Aの各請求を棄却すべきものとした原審の判断は結論において是認することができ、同上告人の論旨は採用することができない。


 しかして、上告会社の本訴請求に係る各損害賠償請求、昭和六一年(オ)第三一号事件の考案の実用新案登録出願についての出願公開に基づく補償金支払請求は、第一次請求ないし第三次請求として順次予備的に併合されており、これらをすべて棄却した原判決、原追加判決に対し上告があつたところ、第一次請求たる不正競争防止法に基づく損害賠償請求について右のとおり破棄理由があるのであるから、第二次請求、第三次請求についても原判決、原追加判決を破棄すべきものである。したがつて、以下、昭和六一年(オ)第三一号事件も含め、上告人Aの関係においてのみ判断を加えることとする。  』