●平成24(行ケ)10187審決取消請求事件 商標権「マルチプログリーン

 本日は、『平成24(行ケ)10187 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「マルチプログリーン」平成24年12月26日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130104141305.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標法51条1項に基づく商標登録の取消し審決の取消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、商標法51条1項における混同のおそれについての判断も参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 高部眞規子、裁判官 齋藤巌)は、


『3混同のおそれについて


(1)使用商標と引用商標との類似性の程度について

ア使用商標の構成等について

 使用商標の構成等は,前記2(2)のとおりである。

イ引用商標の構成等について

(ア) 引用商標1について

 引用商標1は,別紙引用商標目録1記載のとおり,「PROGREEN」の欧文字からなり,構成文字全体に応じた「プログリーン」との称呼が生ずるものである。


(イ)引用商標2について

 引用商標2は,別紙引用商標目録2記載のとおり,「プログリーン」の片仮名文字からなり,構成文字全体に応じた「プログリーン」との称呼が生ずるものである。


ウ使用商標と引用商標との類否について


(ア)結合商標の類否の判断

 複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められる場合において,その構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,原則として許されない。他方,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるものである(前掲最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。


 これを使用商標についてみると,「ProGreens」の文字は,「multi」の文字に比べて,構成文字が多く,その文字の幅も約5倍程度になっていること,「multi」の文字は白抜きで表記されているのに対し,「ProGreens」の文字は,白抜きでない通常の文字で表記されていることなどからすると,外観上,「ProGreens」の文字は,「multi」の文字に比して,見る者の注意をより強く引くものであるということができる。また,前記のとおり,「multi」との語は,「多くの」,「種々の」等の意味を有するものであり,「multi」との語自体が自他商品の識別のために格別の意義を有するものではない。


 そうすると,使用商標のうち「ProGreens」との文字部分は,これを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているものということはできず,当該文字部分だけを引用商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである。


 したがって,使用商標からは,その構成全体である「multiProGreens」だけでなく,「ProGreens」との文字部分からも,称呼,観念を生じ得るものというべきである。


(イ)使用商標と引用商標1との類似性の程度について

 前記のとおり,使用商標は,「ProGreens」の文字部分だけを引用商標と比較して商標の類否を判断することも許されるものであるところ,使用商標の「ProGreens」の文字部分と引用商標1については,引用商標1ではその構成文字が全て大文字であるのに対し,使用商標の「ProGreens」の文字部分では「P」と「G」以外が小文字であるという差異と,使用商標の「ProGreens」の文字部分の末尾には「s」の文字があるが,引用商標1の末尾には「s」がないという差異があるにすぎず,当該「s」を除いた8文字からなる構成文字の綴りは同一のものである。したがって,使用商標と引用商標1は,外観上類似するというべきである。また,使用商標からは「プログリーンズ」との称呼が,引用商標1からは「プログリーン」との称呼がそれぞれ生じ,両者は,語尾に「ズ」が付くか否かの差異があるものの,これを除く「プログリーン」の6音は共通しているから,称呼においても類似するものである。


 そして,使用商標を構成する「ProGreens」と引用商標1を構成する「PROGREEN」はいずれも造語であり,特定の観念を生ずるものではない。


 以上に検討した外観,称呼及び観念における類似性からすると,使用商標と引用商標1は,類似の商標であるということができる。


(ウ)使用商標と引用商標2との類似性について

 使用商標の「ProGreens」と引用商標2とは,外観上は類似するものではない。

 しかし,使用商標を構成する「ProGreens」と引用商標2を構成する「プログリーン」は造語であって,いずれも特定の観念を生ずるものではないし,使用商標から生ずる「プログリーンズ」との称呼と,引用商標2から生ずる「プログリーン」との称呼は,前記(イ)と同様に類似するものである以上,使用商標と引用商標2は,類似の商標であるというべきである。


(2)使用商標が付された商品と被告の業務に係る商品等との間の性質等における関連性の程度について

 使用商標が使用された商品は,大豆レシチンスピルリナ,リンゴペクチンと繊維,亜麻仁粉,オリゴ糖,大麦ジュース粉末,オート麦ジュース粉末,小麦ジュース粉末,小麦の芽の粉末,アルファルファジュース粉末,クロレラ等を原料とするものであり(甲15,16),本件指定商品と実質的に同一のものである。


 他方,引用商標は,前記のとおり,大麦若葉を搾汁し,繊維を取り除いた後,エキスを低温で乾燥させ,粉末化したという被告製品に使用されている。


 そうすると,使用商標が付された商品と被告の業務に係る商品は,いずれも健康食品と呼ばれている分野の商品であるという点で共通性を有するものである。


(3)商品等の取引者及び需要者の共通性等

 被告製品は,AGA加盟の薬局・薬店において,対面販売されているが(甲4,甲9の1・2,甲10の3・4・6〜8・10〜36・38),使用商標を付した原告の商品は,インターネットを通じて一般の需要者に販売されている(甲15)。

(4)引用商標の周知著名性及び独創性の程度について

ア独創性の程度について

 引用商標は,いずれも特定の観念を生じさせることのない造語であるが,引用商標1は「PROGREEN」との欧文字のみで構成され,引用商標2も「プログリーン」との片仮名文字のみで構成されるものであって,いずれも商標の構成としてはさしたる独創性を有するものではない。

イ周知著名性について

(ア) 後掲各証拠によれば,引用商標の周知著名性について,次の事実が認められる。

a被告は,遅くとも平成5年頃には,大麦若葉を搾汁し,繊維を取り除いた後,そのエキスを低温で乾燥させて粉末化した「プログリーン」という名称の商品(被告製品)について,引用商標を付してその販売を開始し,平成6年以降は,AGAという名称の組織に加盟している薬局・薬店(平成20年現在で全国で400店舗余り)を通じて,その販売をしていた(甲5,甲6の1〜3,甲10の3・4・6〜8・10〜36・38,乙1の1〜7,弁論の全趣旨)。


 ・・・省略・・・


(イ)原告の主張について

a原告は,甲3の販売実績表にはその内容を裏付ける注文書,納品書,請求書等が提出されていないから,証拠能力がない旨主張する。


 しかし,記載内容の裏付けを欠いた書証については,その信用性の有無は問題になり得るとしても,証拠能力がないとまでいうことはできないから,原告の主張は採用できない。


 もっとも,甲3の販売実績表には,被告が,平成3年以降,「プログリーン」又は「AGAプログリーン」との商品を販売していたことが記載されているが,甲3は,作成者や作成年月日の記載もない単なる表であり,記載された販売数量についての客観的な裏付けとなる資料も提出されていないから,甲3に記載されたとおりに上記各商品の販売が行われていたとまで認めることはできない。また,平成6年発行の「マグマニュース1994年Vol.19」(甲7の2)には,「野菜の代わりにと当店でお勧めしているのがプログリーンです。扱って3年目になりますが,お客さまからの反響も上々です。」との記載があるものの,当該店舗で販売しているという「プログリーン」との商品について,引用商標が使用されていたか否かは明らかでない。したがって,引用商標を付した被告製品が平成3年から販売されていたと認定することはできない。


 他方,証拠(乙1の1〜7)によれば,平成5年頃には,薬局・薬店において,引用商標を付した被告製品が販売されていることが認められる。したがって,引用商標を付した被告製品の販売開始時期は,上記のとおり,遅くとも平成5年頃と認定するのが相当である。


b原告は,甲4のAGA会員名簿は,そのほとんどが黒塗りであり,AGA会員である薬局・薬店を特定することができないし,当該薬局・薬店において引用商標を付した被告製品が販売されていたことを示す証拠もないなどと主張する。


 確かに,甲4ではAGAの会員とされる薬局・薬店の名称等が黒塗りされているから,その会員を特定することはできない。しかし,AGA本部は,平成10年6月から平成20年6月まで,いずれも8頁程度からなる「AGA通信」(甲10の1〜38)を年4回ずつ発行しており,その体裁や発行頻度等からすると,AGAは,実際に相応の会員数を有する団体として組織されていることがうかがわれるところである。そうすると,少なくとも平成20年の時点において,AGAが甲4に記載された400余りの会員を有していたことは認められるというべきである。そして,上記AGA通信には,引用商標を付した被告製品が全国各地の薬局・薬店において販売されている状況を写した写真が掲載されている以上,AGAに加盟する薬局・薬店では,引用商標を付した被告製品の販売をしていたものと認めるのが相当である。


(ウ)前記認定のとおり,平成20年頃には,引用商標を付した被告製品を販売するAGAの加盟店が全国で400店舗余りとなり,また,平成13年頃から平成20年頃までの間に,著名な出版社が出版する雑誌等において,引用商標を付した被告製品の写真が掲載されていること,その結果,後記認定のとおり,原告がその商品に使用商標を使用した平成20年頃には,大麦若葉を原材料とする青汁市場あるいは大麦若葉のほかケール等を原材料とする青汁市場において,被告は,被告製品とそれ以外の製品との合算ではあるものの,企業別販売数で4位あるいは5位のシェアを占めるまでの販売実績を上げていることなどからすると,引用商標は,青汁等の健康食品の取引者,需要者の間で,著名ないし周知であったとまではいえないものの,一定の認知を得ていたものということができる。


(5)小括

 以上のとおり,使用商標と引用商標は類似の商標であり,これらの商標が使用される商品も共通性を有するものである。また,引用商標は,独創性が高いものではなく,原告がその商品に使用商標を使用した平成20年頃には,いわゆる健康食品の需要者,取引者の間で,著名ないし周知であったとまではいえないものの,一定の認知を得ていたものということができる。そして,被告製品が薬局・薬店において対面販売されているのに対し,使用商標を付した原告の商品は,インターネットを通じて販売されるものであって,両者は販売態様,方法を異にしているから,そうした販売の実情に通じた薬局・薬店等の取引者であれば,使用商標が本件指定商品について使用されていたとしても,それが被告の業務に係る商品であるとの誤認,混同を生ずるおそれが高いとまではいえないものの,使用商標を付した原告の商品はインターネットを通じて一般の需要者に対して直接販売されるものであり,引用商標の存在については認識しているが,上記のような販売の実情に通じていない一般の需要者にあっては,上記検討した使用商標と引用商標との類似性に照らして,インターネット上で接した原告の商品について,被告の業務に係る商品であるとの誤認,混同を生ずる具体的なおそれがあるものといわなければならない。

 と判示されました。