●平成18(行ケ)10351審決取消請求事件「力・加速度・磁気の検出装置

 本日は、『平成18(行ケ)10351 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「力・加速度・磁気の検出装置」平成19年09月26日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070926165738.pdf)について取り上げます。


  本件は、分割出願の特許についての特許無効審決の取消を求めた審決取消訴訟であり、その請求が棄却された事案です。


 本件では、本件分割発明は、原出願当初明細書又は図面に記載されたものではないので,特許法44条1項に規定する分割要件を満たさず,その出願日は現実の出願日に繰り下がり、本件親出願の公開公報と同一の発明であるから、新規性なしと判断された点で、参考になる事案です。


 つまり、知財高裁(第3部 飯村敏明 裁判長裁判官)は、


当裁判所は,本件各発明は本件原出願当初明細書に記載された発明ではなく,本件出願は,特許法44条1項所定の「二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願」としたものに該当しないから,同条2項所定の出願日の遡及は認められず,したがって,本件各発明は刊行物1発明と同一の発明を含むことになり,特許法29条1項3号に該当し,同法123条1項2号に該当し,無効とすべきであると判断する。その理由は,以下のとおりである。


 ・・・省略・・・


3 取消事由1(特許法44条1項柱書きの充足性の有無に関する判断の誤り)について


 以上の各明細書の記載を前提として,本件各発明が,特許法44条1項所定の「二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願」としたものに該当するか否かについて検討する。


(1) 審決の判断1,2について

ア 前記2で認定した本件明細書によれば,本件各発明の「変位要素」は,(i)固定要素に対して可撓性部分を介して接続されていること,(ii)固定要素に対して相対的な変位を生じるものであること,(iii)X,Y,Zの各軸方向に変位可能なものであること,(iv)発明の詳細な説明中の「変位基板20の中央部分と作用体30」が「変位要素」の実施例の1つに当たることが記載されている。そうすると,本件各発明の「変位要素」とは,「変位基板20の中央部分と作用体30」に限定されるものではなく,「固定要素に対して相対的な変位を生じるもの」一般を指すものと理解するのが相当である。


 これに対して,前記1で認定した本件原出願当初明細書の記載によると,「変位要素」という用語は記載がないのみならず,固定要素に対して相対的な変位を生じるものについて,何ら開示がないというべきである。


 したがって,本件各発明の「変位要素」は,本件原出願当初明細書に記載されているということはできず,本件原出願当初明細書に記載された事項から自明であるということもできない。


 イ この点について,原告は,本件各発明の「変位要素」とは,本件原出願当初明細書においては「可撓基板の中心部分+作用体」を書き換えたものであり,本件原出願当初明細書の記載によれば,「固定された部分」と「変位要素」が,「撓んでいる部分」によって接続されていることは自明であるから,本件各発明における「固定された部分に対して可撓性部分を介して接続される変位要素」は,本件原出願当初明細書の記載からみて自明な事項であると主張する。


 しかし,(i)本件原出願当初明細書の第4図によれば,「固定基板」に対して変位を生じる部分は,「作用体及び可撓基板の中心部」だけではなく,変位電極が形成されている部分全体であって,可撓性部分を含むことは,明らかであること,また,(ii)本件原出願当初明細書の記載全体をみても,「作用体及び可撓基板の中心部」のみが変位することを窺わせる記載はない。したがって,本件原出願当初明細書における「作用体及び可撓基板の中心部」が,「固定基板」に対して「可撓性部分」を介して接続される「変位要素」であると,当業者であれば認識できるほどに自明であるとはいえない(のみならず,正しい認識であるともいえない。)。


(2) 審決の判断3,5について

ア 前記1で認定した本件原出願当初明細書の記載によると,「可撓基板」は,「装置筐体40」に固定されているから,固定基板に対して,X方向又はY方向に変位することはないのであって,Fx方向の力が作用したときには,第4図に記載のように,可撓基板に撓みが生じることで「可撓基板」及び「作用体」は,固定基板に対して変位するものの,原告が,「変位要素」であると主張する「可撓基板の中心部分と作用体」は,全体として,Fx方向に変位しているものとは認められない。


イ この点について,原告は,本件原出願当初明細書の第1図及び第4図を比較すれば,作用体上の各点がX方向に変位していると主張する。


 しかし,原告の主張は採用できない。本件各発明の特許請求の範囲には,「外部から作用した前記第1の軸方向の力もしくは第2の軸方向の力に基づいて,前記可撓性部分が撓みを生じることにより,前記固定要素に対して,前記第1の軸方向もしくは前記第2の軸方向に変位を生じる変位要素」と規定されていることに照らすならば,「第1または第2の軸方向に作用した力により固定要素に対して「第1または第2の軸方向変位する」部分は,「変位要素」の各点を指すのではなく,「変位要素」全体を指すと理解すべきである。しかるに「変位要素」全体が,Fx方向の力が作用したときにFx方向に変位するとはいえないから,原告の主張は,前提において失当である。


 したがって,本件原出願当初明細書には,「第1の軸方向または第2の軸方向に変位する変位要素」が記載されているとはいえない。


(3) 審決の判断4について


ア 仮に,本件原出願当初明細書の「作用体30」及び「作用体30が結合している可撓基板の部分」が,可撓基板が撓むことにより変位するとしても,可撓基板が撓むことによって変位を生じる部位は,「可撓基板の作用体30が結合している部分」に限定されるわけではなく,可撓性部分も含むのであるから,「可撓基板の作用体30が結合している部分」のみを取り出して,当該部分に「作用体」を併せた部分を「変位要素」と捉えることは妥当でないというべきである。


イ この点について,原告は,本件原出願当初明細書の第9図には,「可撓基板20b」と「作用体30b」とが「一体に形成されているもの」が開示されており,この「一体に形成された作用体と可撓基板」部分は,可撓基板以外の変位を生じる要素であると主張する。


 しかし,「可撓基板」と「作用体」が一体に形成されたものは,原告のいう「可撓性部分」を含むことになるのであるから,固定された部分に対して「可撓性部分」を介して接続されている「変位要素」であるとすることと矛盾する。また,仮に「可撓基板」と「作用体」が一体に形成されたものを「変位要素」であると解釈する余地があるとしても,「変位要素」は,「固定要素」である「固定基板」に対して,「変位するもの」すべてを含む構成として示されているのであるから,そのような構成が,本件原出願当初明細書に記載から自明なものとして開示されていたとすることはできない。

 以上のとおりであって,審決の判断1ないし5には誤りはない。


4 取消事由2(本件各発明の新規性の判断の誤り)について


 原告は,本件各発明が特許法44条1項所定の「二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願」としたものに該当しないとした審決の判断が誤りであることを前提として,本件出願の出願日は,原出願の出願日である平成2年10月12日であり,本件各発明に対して,刊行物1発明をもって特許法29条1項の規定が適用されることはないと主張する。しかし,審決のこの点の判断に誤りがないことは上記のとおりであるから,これを前提とする原告の主張は失当であり,原告の取消事由2は理由がない。


5 なお,原告は,平成18年9月12日付け訂正審判請求書(甲9)により訂正審判請求を行い,同審判請求は認められるので本件審決は取り消されるべきとも主張する。しかし,この点については,同訂正審判請求に係る審決の取消訴訟(当庁平成19年(行ケ)第10076号)において,平成19年9月26日に,審判請求は成り立たないとした審決を維持すべきものとして,知的財産高等裁判所において原告の請求を棄却する旨の判決がされた(当裁判所に顕著な事実)。


6 結論

 以上のとおり,原告主張の取消事由にはいずれも誤りがなく,その他,審決の結論に影響を及ぼす誤りは認められない。


 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


 なお、分割出願が原出願明細書に記載のない新規事項を有すると判断された事例として、例えば、今年の6/8(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20070608)の日記で取り上げた、

 ●『平成18(ネ)10077 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟「インクジェット記録装置用インクタンクの再利用品事件」平成19年05月30日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070607095821.pdf)や、

 昨年の12/1(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20061201)の日記で取り上げた、

 ●『平成17(行ケ)10796 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「機械室レスエレベータ装置事件」平成18年11月30日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061201140553.pdf

 等があります。