●平成22(行ケ)10253 審決取消請求事件 商標「Yチェアの立体商標

 本日も、『平成22(行ケ)10253 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「Yチェアの立体商標平成23年06月29日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110629164722.pdf)について取り上げます。


 本件では、取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り)についての判断も参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 八木貴美子、裁判官 知野明)は、


『2取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り)について


(1)立体商標における使用による識別力の獲得

 商標法3条2項は,商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として同条1項3号に該当する商標であっても,使用により自他商品識別力を獲得するに至った場合には,商標登録を受けることができることを規定する(商品及び商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標を除く。同法4条1項18号)。


 そこで,本願商標が,商標法3条2項に該当するか否かについて,検討する。


 立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは,当該商標ないし商品等の形状,使用開始時期及び使用期間,使用地域,商品の販売数量,広告宣伝のされた期間・地域及び規模,当該形状に類似した他の商品等の存否などの諸事情を総合考慮して判断するのが相当である。


 そして,使用に係る商標ないし商品等の形状は,原則として,出願に係る商標と実質的に同一であり,指定商品に属する商品であることを要するというべきである。もっとも,商品等は,その製造,販売等を継続するに当たって,技術の進歩や社会環境,取引慣行の変化等に応じて,品質や機能を維持するために形状を変更することが通常であることに照らすならば,使用に係る商品等の立体的形状において,ごく僅かに形状変更がされたことや,材質ないし色彩に変化があったことによって,直ちに,使用に係る商標ないし商品等が自他商品識別力を獲得し得ないとするのは妥当ではなく,使用に係る商標ないし商品等にごく僅かな形状の相違,材質ないし色彩の変化が存在してもなお,立体的形状が需要者の目につき易く,強い印象を与えるものであったかなどを総合勘案した上で,立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っているか否かを判断すべきである。


(2)本願商標の商標法3条2項該当性

 そこで,上記の観点から,本願商標が使用により自他商品識別力を備えるに至っているか否かを判断する。


ア事実認定

(ア)本願商標に係る商品形状の完成等

 本願商標に係る肘掛椅子の立体形状は,現代家具デザインの巨匠と称されるウェグナーが,参加人の依頼を受けて1949年(昭和24年)ころデザインし,参加人による試作等を経て翌1950年(昭和25年)ころ完成した。本願商標の形状の特徴は,上記1(2)アのとおりであるところ,その使用に係る原告製品は,「CH24」,「Yチェア」(Ychair)又は「デコラティブ・チェア(Decorativechair)という名称で知られており,世界で最も売れた椅子の一つと評価されている。なお,文字商標「Yチェア」は,商標権者を原告,指定商品を第20類「木製いす」として,商標登録(商標登録第3348396号)されている(甲1の1,2,甲2,3,80,82,86,87,90,100の2,甲260,261,265,266,268,269)。


 ・・・省略・・・


イ判断

(ア)上記認定した事実を総合すると,次の点を指摘することができる。

a本願商標の特徴的形状を備えた原告製品(肘掛椅子)は,参加人により1950年(昭和25年)に発売されて以来,材質や色彩にバリエーションはあるものの,その形状の特徴的部分において変更を加えることなく,継続的に販売されている。


b原告製品は,日本国内において,昭和33年ころ紹介され,昭和37年ころから平成元年ころまでの間は,百貨店等が輸入し,販売していたが,平成元年にフーバ・インターナショナルSKデザイン事業部が,翌平成2年からはフーバ・インターナショナル及び参加人の出資により設立された原告が,それぞれ輸入代理店となり,原告製品を独占的に輸入し,販売するようになった。原告製品の販売地域は全国に及んでおり,資料等により,判明している限りでも,平成6年7月から平成22年6月までの間に,合計9万7548脚が販売されており,このような販売数量は,食卓椅子の販売数量全体(甲35参照)と比較すれば必ずしも多いとはいえないものの,1種類の椅子としては際だって多いといえる(なお,原告製品は,既製品であり,注文を受けてから作る受注品ではない。)。


c原告製品は,1960年代以降,日本国内においても,雑誌等の記事で紹介され,日本で最も売れている輸入椅子の一つとの評価がされている。また,原告製品は,インテリア用語辞典,インテリアコーディネーター試験問題集等の家具業界関係者向けの書籍や,中学生向けの美術の教科書に掲載されるなどの実績を残している。さらに,原告により相当の費用を掛けて,多数の広告宣伝活動が行われている。原告は,原告製品について,国内有数の家具展示会等に出展したり,自社ショールーム,百貨店等における展示会を開催したりするなど,原告製品の周知性を高めるための活動を継続して行った。こうした継続的な広告宣伝活動等により,原告製品は,一部の家具愛好家に止まらず,広く一般需要者にも知られるものとなっているということができる。


 上記に挙げた事実及び前記1(2)アの事実に照らすと,?原告製品は,背もたれ上部の笠木と肘掛け部が一体となった,ほぼ半円形に形成された一本の曲げ木が用いられていること,座面が細い紐類で編み込まれていること,上記笠木兼肘掛け部を,後部で支える「背板」(背もたれ部)は,「Y」字様又は「V」字様の形状からなること,後脚は,座部より更に上方に延伸して,「S」字を長く伸ばしたような形状からなること等,特徴的な形状を有していること,?1950年(日本国内では昭和37年)に販売が開始されて以来,ほぼ同一の形状を維持しており,長期間にわたって,雑誌等の記事で紹介され,広告宣伝等が行われ,多数の商品が販売されたこと,?その結果,需要者において,本願商標ないし原告製品の形状の特徴の故に,何人の業務に係る商品であるかを,認識,理解することができる状態となったものと認めるのが相当である。


(イ)これに対し,被告は,原告が販売する原告製品は,本願商標と形状がほぼ同一であっても,様々な色彩のものが販売されており,これにより商品に対する印象,認識が大きく異なるから,本願商標と原告使用に係る商標とが,同一のものであるということはできない,と主張する。


 しかし,上記のとおり,本願商標は,形状における特徴の故に,自他商品の出所識別力があると解するのが相当であるから,原告製品に使用された木材の材質や色彩,座面(ペーパーコード)の色彩にバリエーションがあったとしても,商品の出所に対する需要者の認識が大きく異なるとはいえず,本願商標に係る形状が自他商品識別機能を獲得していると認定することの障害になると解することはできない。


(ウ)また,被告は,原告製品に類似した形状の椅子が,インターネットを通じて販売されていることから,原告製品に接する取引者,需要者が,いずれの肘掛椅子が原告の製造,販売に係る椅子であるかを区別できず,本願商標が,その指定商品「肘掛椅子」に使用された結果,原告の業務に係る商品であると認識されるに至ったものとはいえない,と主張する。


 しかし,原告製品に類似した形状の椅子が,インターネット上で販売されている例があるとしても,これらはいずれも「Yチェア」の「ジェネリック製品」ないし「リプロダクト製品」などと称されており,オリジナル製品として原告製品が存在することを前提として,原告製品に類似した形状の椅子を安価に購入しようとする消費者に向けた商品ということができる。これに対し,原告は,このような商品を市場から排除するため,当該商品を販売する業者等に対し,「Yチェア」等の登録商標(文字商標)に基づき,また,不正競争防止法に基づき,警告書等を送付するなどの措置を講じている。そうすると,審決時においてなお,原告製品に類似した形状の椅子がインターネット上で販売されていたとしても,本願商標が自他商品識別機能を獲得していると認定する上での妨げとなるものとはいえない(なお,本願商標に係る形状が,商品等の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標といえないことは明らかである。)。


ウ小括

 以上のとおり,本願商標は,使用により,自他商品識別力を獲得したものというべきであり,商標法3条2項により商標登録を受けることができるものと解すべきである。これに反する被告の主張は,いずれも採用することができない。


(3)以上によれば,本願商標は,商標法3条2項により商標登録を受けることができるものであるから,本願商標を同項に該当しないとした審決の判断には誤りがあり,原告主張の取消事由2は理由がある。


3結論

 以上によれば,原告の本件請求は理由があるから,これを認容することとし,主
文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。