●平成29(行ケ)10099 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ホモロガス

 暫くブログを休んでいましたが少しずつ復活させたいと思います。
 本日は、『平成29(行ケ)10099 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ホモロガス薄膜を活性層として用いる透明薄膜電界効果型トランジスタ」平成29年12月7日 知財高裁(http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/329/087329_hanrei.pdf)』について取り上げます。


 本件は、特許無効審判の棄却審決の取消した求めた審決取消訴訟事件で、その請求が棄却された事案です。

 本件では、まず、取消事由2(実施可能要件に関する判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 森義之、裁判官 永田早苗、裁判官 古庄研)は、

『3 取消事由2(実施可能要件に関する判断の誤り)について

(1) 本件明細書に本件化合物のアモルファス薄膜の作製法が記載されていない旨の主張(前記第3の2(1))について

ア 前記第2の3(3)アのとおり,原告は,本件審判において,本件明細書の発明の詳細な説明には,活性層として用いることができるホモロガス化合物のアモルファス薄膜の作製法についての実施例の記載はなく,具体的に説明されていないとの主張をしていたのであるから,実施可能要件違反の主張のうち,前記第3の2(1)の主張は,本件審判において審理判断の対象となっていたものと認められる。原告の本件審判における具体的主張が本件訴訟における主張と異なる点があるとしても,審理判断の対象となっていたとの上記の判断が左右されるものではない。


イ(ア) 物の発明における発明の実施とは,その物の生産,使用等をする行為をいうから(特許法2条3項1号),物の発明について実施可能要件を充足するか否かについては,当業者が,明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,その物を製造し,使用することができる程度の記載があるか否かによるというべきである。
 ・・・

ウ 原告は,第一次判決や別件判決においてアモルファスの本件化合物に進歩性が認められたのは,本件化合物のキャリア濃度を制御することが困難であることを理由にしたのであるから,これに反する被告らの主張は,禁反言の法理に触れる,と主張する。

 しかし,第一次判決及び別件判決は,本件化合物のキャリア濃度を制御することが困難であったことを理由として,本件化合物を透明電界効果型トランジスタの活性層に用いることを容易に想到することはないと判断したものであって,本件化合物を透明電界効果型トランジスタの活性層に用いることが記載されている本件明細書の記載に基づいて,本件化合物のキャリア濃度を上記活性層に用いることができるよう制御して本件発明を実施することが困難であると判断したものではない。したがって,上記各判決と被告らの主張が矛盾するものではなく,被告らの主張が禁反言の法理に触れるものではない。

(2) 本件明細書に本件発明が発明の課題を解決することができる程度に開示されていない旨の主張(前記第3の2(2))について
ア 原告は,本件明細書には,本件発明が発明の課題を解決することができる程度に開示されていないから,実施可能要件を欠く,と主張する。

特許法は,特許無効の審判について,そこで争われる特許無効の原因が特定されて当事者らに明確にされることを要求し,審判手続においては,上記特定された無効原因をめぐって攻防が行われ,かつ,審判官による審理判断もこの争点に限定してされるという手続構造を採用していることが明らかである。したがって,特許無効審判の審決に対する取消しの訴えにおいて,その判断の違法が争われる場合には,専ら審判手続において現実に争われ,かつ,審理判断された特定の無効原因に関するもののみが審理の対象とされるべきである(最高裁昭和51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁参照)。


本件審判において,原告が主張していた無効理由5は,前記第2の3(3)アのとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,活性層として用いることができるホモロガス化合物のアモルファス薄膜の作製法についての実施例の記載はなく,具体的に説明されていない,というものであり,本件発明の課題を解決することができるようなトランジスタを作製し,使用することが可能であったといえない旨は,実施可能要件の主張としては,述べられていなかった。そして,実施可能要件とサポート要件とは,適用法条を異にするから,別異の無効理由を構成すると解すべきであり,同様の理由がサポート要件についての無効理由として主張されていないからといって,実施可能要件の無効理由として主張されていたと解することはできない。

 したがって,原告の上記主張は,本件審判手続で現実に争われ,審理判断された特定の無効原因に関するものではないから,主張自体失当である。

(3) 以上より,取消事由2には,理由がない。』

 と判示されました。

なお、本件で引用している最高裁判決は、

●『昭和42(行ツ)28 審決取消請求 特許権 行政訴訟「メリヤス編み機事件」昭和51年03月10日 最高裁判所大法廷』(http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/170/053170_hanrei.pdf

です。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。

●平成25(行ケ)10261 審決取消請求事件 商標権「けやき」

 本件は、『平成25(行ケ)10261 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「けやき」平成26年3月5日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20140306093107.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取り消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、商標法第4条第1項11号の商標の類比の判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 清水節、裁判官 池下朗、裁判官 新谷貴昭)は、


『1本願商標について

 本願商標は,「けやき」の平仮名を横書きして成り,構成文字に相応して,「ケヤキ」の称呼を生じ,「欅」の観念を生じるものである(乙1)。



2引用商標について

(1)外観

 引用商標は,「けやき」の文字,「中央式典」の文字及び「町田駅前会堂」の文字を組み合わせて成り,その構成中,左側下段に,やや特徴的な細字で「町田駅前会堂」の文字を横書きし,その上段左側に接して,太目のゴシック体で小さく付記するように「中央式典」の文字を横書きし,これらの右側に,やや離して,「けやき」の文字を,毛筆手書き風の特徴のある字体で,顕著に,特に大きく表された「け」の文字の引き延ばされた第2画の下に,「や」と「き」の文字を大きく,3文字まとまりよく配するという,特徴的な態様で表されており,各構成文字の異なる書体,大きさ及び位置からみて,外観上,三つの構成部分が不可分一体に認識されるものとはいえず,分離して看取し得るものである。


 そして,左側の上下二段の構成文字部分は,下段の「町田駅前会堂」がやや特徴的な字体ではあるものの,いずれも漢字のみから成り,互いに接して横書きされていることから,一体的に把握されるのに対し,「けやき」の文字部分は,左側の構成文字部分からやや離れて,特徴のある字体で,大きく顕著に,まとまりよく表されており,「け」と「や」と「き」の配置に特徴があることからすると,「けやき」の文字部分が,最も強く,看る者の注意を引く部分ということができる。


(2)観念

 引用商標中,「けやき」の文字部分からは,「欅」の観念を生じる(乙1)。「中央式典」の文字部分のうち「式典」の文字は,「儀式」等の意味を有する語であり(乙2),葬祭業者の名称として「○○式典」なるものが多数使用されている実情がうかがえる(乙3〜11)ことからすると,「中央式典」の文字部分からは,「中央式典という葬祭業者」との意味を表したものと理解できる。「町田駅前会堂」の文字部分のうち「会堂」の文字は,「集会のために設けた建物」等の意味を有する語である(乙12)ことから,「町田駅前会堂」の文字部分は,「町田駅前にある集会を行う建物」との意味を表したものと理解できる。


 そして,引用商標の「けやき」の文字,「中央式典」の文字及び「町田駅前会堂」の文字は,前記(1)のとおり,分離して看取されることから,全体として特定の観念を生じるとは認められないが,左側の上下二段の漢字部分は,一体的に把握されることから,「中央式典という葬祭業者と関連する町田駅前にある集会を行う建物」との観念を生じるものと認められる。


 したがって,引用商標は,各構成文字において,互いに,観念的なつながりはなく,全体が一体不可分のものとして認識されるものではないが,前記のとおり,構成中の「けやき」の文字部分に相応して「欅」の観念を生じるとともに,「中央式典」及び「町田駅前会堂」の文字部分に対応して,「中央式典という葬祭業者と関連する町田駅前にある集会を行う建物」との観念も生じるものである。


(3)称呼について

 引用商標は,(1)のとおり,その構成中の各構成文字が,外観上分離して把握されるものであり,(2)のとおり,左側の上下二段の漢字から成る構成部分を除いて,各構成文字における観念的な関連性も認められない。そして,その構成文字全体から生じる「チュウオウシキテンマチダエキマエカイドウケヤキ」の称呼は,22音と長く,一気に称呼するのは困難である上,引用商標の指定役務中の葬儀の執行が,人の死亡という突然に生じることが多い出来事に伴って短期間に済ませなければならないものであり,遺族,関係者等の精神的混乱の中でも執り行われ得ることからすると,簡易,迅速が尊ばれる引用商標の上記指定役務の取引において,引用商標に接する取引者,需要者は,「チュウオウシキテンマチダエキマエカイドウケヤキ」の22音を常に全体として称呼するとみることはできず,外観上,看る者の注意を最も強く引く部分である「けやき」の文字部分から「ケヤキ」の称呼を生じることもあるというべきである(なお,左側の上下二段の構成部分から生じる「チュウオウシキテンマチダエキマエカイドウ」の称呼も,同様に冗長なものと認められる。)。


(4)小括

 以上によれば,引用商標は,外観において,視覚上分離して看取されるものであり,観念においても,左側の上下二段の構成部分を除いて,各構成文字が相互に結合して特定の観念を生じるものではなく,各構成文字を分離して観察することが,取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいえず,外観上,看者の注意を引く「けやき」の文字部分が,強く支配的な印象を与えるものであることからすると,当該文字部分が,独立して自他役務の識別標識としての機能を果たす部分であるとみるのが相当である。


 したがって,引用商標に接する取引者,需要者は,役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える「けやき」の文字部分をもって取引するものということができ,引用商標は,「けやき」の文字部分から「欅」の観念及び「ケヤキ」の称呼を生じるものである。


3対比

(1) 本願商標と引用商標の外観,観念及び称呼の比較

 本願商標は,上記1のとおり,「けやき」の文字から成り,「欅」の観念及び「ケ
ヤキ」の称呼を生じるものである。引用商標は,上記2のとおり,「けやき」,「中央式典」及び「町田駅前会堂」の文字から成り,その構成中,「けやき」の文字部分から,「欅」の観念及び「ケヤキ」の称呼を生じるものである。


 そうすると,本願商標と引用商標は,その全体の文字構成において相違するとしても,「けやき」の構成文字において同一であるから,外観において共通する部分があり,「欅」の観念及び「ケヤキ」の称呼を同一にするものである。


(2)取引の実情

 乙13〜23によれば,葬祭業者が自己の業務を宣伝広告するに当たり,式場の所在地名と,会堂,会館,式場等の建物を表す語を組み合わせた表示を使用していることが多いものと認められ,その表示は,式場の所在地や役務の提供場所を取引者,需要者に認識させるものであるから,自他役務の識別標識としての機能は弱いということができる。引用商標においても,その構成中,「町田駅前会堂」の文字部分は,「町田駅前にある(葬儀のための)建物」との意味を有し,引用商標に接する取引者,需要者は,「役務の提供場所」の表示と認識することが一般であるから,出所識別標識として認識されることが少ないものと認められ,「中央式典」の文字部分及び「けやき」の文字部分が,役務の出所識別標識として認識され得る部分といえる。


 そして,指定役務中の葬祭業の分野における取引者,需要者は,これらの役務についての専門業者に限らず,広く一般の消費者が含まれるから,役務に対する注意力は必ずしも高いものではなく,上記2(3)のとおり,簡易,迅速な取引が尊ばれることからすると,引用商標に接する取引者,需要者は,その構成中,最も強く看る者の注意を引く部分である「けやき」の文字をもって取引に当たる場合も少なくないものというべきである。


(3)まとめ

 以上によれば,本願商標と引用商標は,その全体の外観構成において相違するとしても,「けやき」の構成文字において同一であって,外観において共通する部分があり,「欅」の観念及び「ケヤキ」の称呼を同一にするものであるから,これを同一又は類似の役務に使用したときは,その出所について紛れるおそれのある類似の商標である。したがって,本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした審決の認定,判断に誤りはない。


(4)原告の主張について

 原告は,引用商標は全体として一つの商標として一体的に看取されるようにデザインされており,本願商標と引用商標とでは、外観上共通する要素も見当たらず、両者は全体の印象が大きく異なるので、外観上の差異は明らかであると主張する。


 しかし,引用商標が,一体的に看取されず,「けやき」の文字,「中央式典」の文字及び「町田駅前会堂」の文字に分離して看取し得るものであり,とりわけ「けやき」の文字部分が看る者の注意を引くことは,上記2(1)に判示したとおりである。


 原告は,引用商標中の「中央式典」及び「町田駅前会堂」の表示からも観念が生じるから,引用商標と本願商標とは観念上も相紛れるおそれはないと主張する。確かに,「中央式典」及び「町田駅前会堂」の表示から一定の観念は生じるものの,引用商標に接する取引者,需要者は,その構成中,最も強く看る者の注意を引く部分である「けやき」の文字をもって取引に当たる場合が少なくないことは,上記(2)に判示したとおりである。


 原告は,引用商標の称呼が22音と冗長だからといって、引用商標の複雑な構成から「ケヤキ」のみの称呼が生じ得るとの認定は失当であると主張する。しかし,引用商標全体からの称呼が冗長なことは明らかであり,引用商標の「けやき」の文字部分が注目されて「ケヤキ」のみの称呼を生じることもあることは,上記2(3)に判示したとおりである。


 原告は,引用商標権者は関東圏で複数の葬儀及び婚礼の式場を所有し運営しているが,原告はにて地域に根ざした運営を行っているから,葬儀の執行というサービスの特異性を考慮すれば,本願商標と引用商標とは出所の誤認混同を生じるおそれはないと主張する。


 しかし,葬儀の執行を中心とする当該指定役務であっても,商標を使用しての広告宣伝がインターネットを通じて全国的に行われることは明らかであるから(乙3〜11,13〜23),これを利用する一般の取引者,需要者が,類似する商標の使用によって出所の誤認混同を生じるおそれは否定し難く,しかも,引用商標権者における原告主張の事業運営状況が今後変動しないものと認めるに足りる証拠はない。


 原告は,引用商標から「けやき」の部分のみを抽出して類否を検討するのは誤りであると主張する。しかし,審決は,結合商標である引用商標から複数の観念及び称呼が生じることを前提として,そのうち出所識別機能の強い「けやき」の部分から生じる観念及び称呼が本願商標から生じる観念及び称呼と同一であるため,外観上の相違及び「けやき」以外の部分から生じる観念及び称呼の相違にもかかわらず,両商標は類似すると判断したものと解され,「けやき」の部分のみを抽出して類否を検討したものではなく,その判断に誤りはない。


 したがって,原告の主張は,いずれも理由がない。


第6結論

 以上によれば,原告の請求には理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。

●平成22(ワ)39625 職務発明補償金請求事件 その他 民事訴訟

  本日は、『平成22(ワ)39625 職務発明補償金請求事件 その他 民事訴訟 平成26年2月27日 東京地方裁判所 (http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20140306142929.pdf』について取り上げます。


 本件は、職務発明補償金請求事件です。


 本件では、本件発明により被告が受けるべき利益の額についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第47部 裁判長裁判官 高野輝久、裁判官 三井大有、裁判官 志賀勝)は、


『1 争点?(本件発明により被告が受けるべき利益の額)について

(1) 本件発明により被告が受けるべき利益について


 特許法35条は,職務発明について特許を受ける権利が当該発明をした従業者等に原始的に帰属すること(同法29条1項参照)を前提に,? 使用者等が従業者等の職務発明に関する特許権について通常実施権を有すること(同法35条1項),? 従業者等は,職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権(以下「特許を受ける権利等」という。)を承継させたとき,相当の対価の支払を受ける権利を有すること(同条3項),?その対価の額は,その発明により使用者等が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならないこと(同条4項)などを規定している。


 これによれば,特許法35条3項が規定する相当対価支払請求権は,従業者等が職務発明について使用者等に特許を受ける権利等を承継させた時点で,発生するとともに,その額も定まるものと解される。もっとも,相当対価支払請求権の額は,上記時点までの資料だけで定めることが困難であるから,承継前の事情だけでなく,職務発明により使用者等が受けた利益の額等,承継後の事情をも参照して定めるのが相当である。


 また,職務発明により使用者等が受けるべき利益とは,職務発明の実施や職務発明についての特許を受ける権利等の行使又は処分等により使用者等が得られると客観的に見込まれる利益であって,職務発明と当該利益との間に相当因果関係があるものをいうと解される。


 具体的には,使用者等において,職務発明を自ら実施することによって得られる利益や,職務発明を他人に実施させることによって得られる実施料,職務発明についての特許を受ける権利等を譲渡することによって得られる譲渡利益等が挙げられる。


 もっとも,使用者等は,職務発明について従業者等から特許を受ける権利等を承継しなくても,特許法35条1項の趣旨に照らせば,職務発明がされた時から職務発明について通常実施権を有するものと解されるから,使用者等が職務発明を自ら実施することによって得られる利益は,使用者等が通常実施権を行使することによって得られる利益を控除したいわゆる超過利益に限られるというべきである。


 そして,超過利益は,使用者等が職務発明の実施を法律上又は事実上独占することによって生じるから,補償金支払請求権が生じ得る出願公開の時から特許権の消滅又は処分の時までに生じた利益に限られるものと解される。


 さらに,超過利益の算定は,特許法102条3項の趣旨に照らせば,使用者等が職務発明を自ら実施することによって得られる利益から使用者等が通常実施権を行使することによって得られる利益を控除する方法によるだけでなく,使用者等が職務発明を自ら実施することによって得られる売上高から使用者等が通常実施権を行使することによって得られる売上高を控除したいわゆる超過売上高に,他人に通常実施権を許諾すれば得られたはずのいわゆる想定実施料の率を乗じる方法によってもすることができると解するのが相当である。


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。

●平成25(行ケ)10174 審決取消請求事件 特許権「回転角検出装置」

 本日は、『平成25(行ケ)10174 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「回転角検出装置」平成26年2月26日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20140304164021.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審決の取り消しを求める審決取消請求事件で、訂正を認めた無効審決の取り消しが認容された事案です。


 本件では、取消事由1(訂正要件の判断の誤り)における訂正要件の判断の誤りについての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 富田善範、裁判官 大鷹一郎、裁判官 齊藤巌)は、


『1取消事由1(訂正要件の判断の誤り)について
(1)本件明細書の記載事項等


 ・・・省略・・・

(2)訂正要件の判断の誤りについて

ア原告は,本件訂正の訂正事項aは,本件特許の設定登録時(本件訂正前)の請求項1では,「前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子は各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて」,磁気検出素子の2種類の各端子が端子毎に同じ方向へ引き出されるものであったのが,本件訂正後の請求項1では,「前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの端子の内の各磁気検出素子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子であって前記信号入力用及び前記接地用の少なくともいずれかは各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて」と訂正され,磁気検出素子の少なくとも1種類の端子が端子毎に同じ方向へ引き出される態様のものも含み得ることになり,実質上特許請求の範囲を拡張するものであるから,本件訂正は,特許法134条の2第9項において準用する同法126条6項に違反する旨主張するので,以下において判断する。


(ア)本件訂正前の請求項1の記載は,「磁石を有し,被検出物の回転に伴って回転するロータコアと,このロータコアの磁石の磁力を受けて前記被検出物の回転角度を検出し同じ
配列の3つの端子を有し且つ同形状を有する複数の磁気検出素子と,2つは前記磁気検出素子の出力を外部に取り出し,また1つは前記磁気検出素子に電源電圧を外部から印加し,さらに1つは前記磁気検出素子を外部に接地するための,少なくとも4つの外部接続端子とを備えた非接触式の回転角度検出装置であって,前記複数の磁気検出素子は,並列に180度逆方向で配置され,前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子は各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて前記外部接続端子のいずれかと接続されていることを特徴とする回転角度検出装置。」というものである。


 上記請求項1の記載によれば,「複数の磁気検出素子が夫々有する3つの端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子」にいう「少なくとも2つの同一位置に配置された各端子」とは,各磁気検出素子がそれぞれ有する3種類の端子のうち,少なくとも2種類の各端子を意味し,本件発明では,磁気検出素子の2種類の各端子が,端子毎に同じ方向へ引き出されて,4つの外部接続端子のいずれかと接続されていることを理解できる。


(イ)一方,本件訂正後の請求項1の記載は,「磁石を有し,被検出物の回転に伴って回転するロータコアと,このロータコアの磁石の磁力を受けて前記被検出物の回転角度を検出し同じ配列の3つの端子を有し且つ同形状を有する複数の磁気検出素子と,2つは前記磁気検出素子の出力を外部に取り出し,また1つは前記磁気検出素子に電源電圧を外部から印加し,さらに1つは前記磁気検出素子を外部に接地するための,少なくとも4つの外部接続端子とを備えた非接触式の回転角度検出装置であって,前記磁気検出素子の3つの端子は,電源電圧を印加する信号入力用,信号出力用,及び接地用の端子であり,前記複数の磁気検出素子は,並列に180度逆方向で配置されて3つの端子は前記磁気検出素子の同一面より引き出され,前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子であって前記信号入力用及び前記接地用の少なくともいずれかは各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて前記外部接続端子のうち電源電圧を印加する信号入力用端子及び接地端子の少なくともいずれかと接続されていることを特徴とする回転角度検出装置。」というものである(下線部は本件訂正による訂正箇所である。)。


 まず,上記請求項1の記載によれば,本件訂正により,「磁気検出素子が夫々有する3つの端子」が「電源電圧を印加する信号入力用,信号出力用,及び接地用の端子」の3種類であることが特定されるとともに,「磁気検出素子が夫々有する3つの端子」が引き出される起点が「磁気検出素子の同一面より」であると特定されたことを理解できる。


 次に,上記請求項1の「前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子であって前記信号入力用及び前記接地用の少なくともいずれかは各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて前記外部接続端子のうち電源電圧を印加する信号入力用端子及び接地端子の少なくともいずれかと接続されている」との文言によれば,磁気検出素子の「前記信号入力用及び前記接地用の少なくともいずれか」の端子が,「前記外部接続端子のうち電源電圧を印加する信号入力用端子及び接地端子の少なくともいずれか」と接続されていることを理解できる。


 そして,「前記信号入力用及び前記接地用の少なくともいずれか」にいう「少なくともいずれか」とは,「前記信号入力用」の端子及び「前記接地用」の端子の「少なくともいずれか一つの端子」を意味し,また,「前記外部接続端子のうち電源電圧を印加する信号入力用端子及び接地端子の少なくともいずれか」にいう「少なくともいずれか」とは,「電源電圧を印加する信号入力用端子」及び「接地端子前記信号入力用」の「少なくともいずれか一つの端子」を意味することは,文理上,一義的に明白である。


 したがって,上記請求項1の記載によれば,本件訂正発明は,磁気検出素子の「信号入力用」及び「接地用」の2種類の端子のうち,いずれか1種類の端子が,端子毎に同じ方向へ引き出されて,外部接続端子のうち電源電圧を印加する信号入力用端子及び接地端子のいずれか一つの端子と接続されている構成のものを含むものと理解できる。


 そうすると,本件訂正前の請求項1では,磁気検出素子の2種類の各端子が,端子毎に同じ方向へ引き出されて,4つの外部接続端子のいずれかと接続されている構成であったのが,本件訂正により,本件訂正後の請求項1では,「信号入力用」及び「接地用」の2種類の端子のうち,いずれか1種類の端子が,端子毎に同じ方向へ引き出されて,外部接続
端子のうち電源電圧を印加する信号入力用端子及び接地端子のいずれか一つの端子と接続されている構成を含むものとなり,磁気検出素子の「信号入力用」及び「接地用」の2種類の端子のうち,いずれか1種類の端子が端子毎に同じ方向へ引き出される態様のものも特許請求の範囲に含み得ることになった点において,本件訂正は,本件訂正前の請求項1について,実質上特許請求の範囲を拡張するものであると認められる。


(ウ)被告は,この点に関し,本件訂正の前後にかかわらず,「前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子」の種類は「少なくとも2つ」あり,本件訂正は,この「少なくとも2つ」ある「端子の種類」が「前記信号入力用及び前記接地用の少なくともいずれか」であることを明確にすることによって,2つの同一位置の端子の種類を信号入力用及び接地用の端子に限定したものであるから,本件訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張するものではない旨主張する。


 しかしながら,本件訂正前の請求項1の記載と本件訂正後の請求項1の記載を対比すると,本件訂正により,「前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子」が「信号入力用及び接地用の端子」の2種類に特定されたことは認められるが,本件訂正後の請求項1の「前記信号入力用及び前記接地用の少なくともいずれか」の文言は,この2種類に特定された端子の「少なくともいずれか一つ」を意味することは,文理上,一義的に明白であるから,被告の上記主張は,採用することができない。


以上のとおり,本件訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張するものであるから,本件訂正は,特許法134条の2第9項において準用する同法126条6項に違反する。これと異なる本件審決の判断は,誤りである。


(3)小括

 以上によれば,その余の点について検討するまでもなく,本件訂正が訂正要件に適合するとして,本件訂正を認めた本件審決の判断は誤りである。


 そして,本件訂正を認めた本件審決の判断の誤りは,発明の要旨認定の誤りに帰することになるから,この誤りが本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。


 したがって,原告主張の取消事由1は理由がある。』


 と判示されました。

 
 詳細は、本判決文を参照して下さい。

●平成25(行ケ)10102 審決取消請求事件 特許権「膜分離用スライム

 本日は、『平成25(行ケ)10102 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「膜分離用スライム防止剤及び膜分離方法」平成26年2月27日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20140228103645.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取り消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由2(相違点についての容易想到性の判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 八木貴美子、裁判官 小田真治)は、


『2 取消事由2(相違点についての容易想到性の判断の誤り)について


 事案に鑑み,取消事由2を先に判断する。当裁判所は,次のとおり,当業者は相違点に係る構成を容易に想到することができたものと判断する。


(1) 相違点についての容易想到性判断


 前記第2,2(3)イのとおり,本願発明と引用発明との相違点は,本願発明は,「膜分離用」のスライム防止剤であるのに対し,引用発明では「冷却水系,蓄熱水系,紙パルプ工程水系,集じん水系,スクラバー水系など」用のスライム防止剤であり,膜分離の用途について記載がない点にある。


 前記1(2)のとおりの引用例1の記載によれば,引用発明は,次亜塩素酸アルカリ金属塩,スルファミン酸のアルカリ金属塩及びアニオン性ポリマー又はホスホン酸化合物を含有するスライム防止用組成物に関するものであり,引用発明に係るスライム防止用組成物は,冷却水系,蓄熱水系,紙パルプ工程水系,集じん水系,スクラバー水系などの水系に添加され,それにより,これらの水系において発生するスライムが配管等に付着するのを防止して,スライムの付着に起因する障害を防止しようとするものであると認められる。


 そして,引用例2には,前記1(3)のとおりの記載があり,逆浸透メンブラン上の生物被膜を除去又は阻止する方法として,逆浸透メンブランを,ハロゲンを徐々に放出する,結合された形態にある酸化性ハロゲン殺菌剤と接触させて,逆浸透メンブランを消毒して殺菌する方法が記載されている(請求項1)。このうち,「酸化性ハロゲン殺菌剤」は,?「+1酸化状態にあるハロゲンを含む酸化性殺菌剤物質」と?「イミドまたはアミドの形態にある少なくとも一個の窒素原子を含む窒素含有化合物」との組合せで,?のハロゲンが?の窒素と緩く結合することにより結合ハロゲンが形成されたものであり得(【請求項2】),?の例として次亜塩素酸ナトリウムが,?の例としてスルファミン酸が記載されている(【0013】)。上記のとおり,引用例2には,?の例として次亜塩素酸ナトリウムが,?の例としてスルファミン酸が,それぞれ例示されているが,次亜塩素酸塩とスルファミン酸とを反応させると,クロロスルファミン酸塩が形成されること,また,このクロロスルファミン酸塩は,塩素が窒素と結合して結合塩素が形成されたものであって,塩素を徐々に放出するものであることは,技術常識であるから,次亜塩素酸ナトリウムとスルファミン酸とを組み合わせたものも,上記の殺菌剤として使用できることは,当業者にとって自明である。


 そうすると,引用例2には,次亜塩素酸ナトリウムとスルファミン酸を組み合わせて,結合ハロゲンを形成させて殺菌剤とし,逆浸透メンブランをその殺菌剤と接触させて,逆浸透メンブラン上の生物被膜を除去又は阻止することが記載されていることが認められ,このような引用例2の記載からすると,次亜塩素酸アルカリ金属塩及びスルファミン酸のアルカリ金属塩等を含有する引用発明についても,その用途を「膜分離用」とすることは,当業者が容易に想到することである。


 よって,相違点に係る構成は,当業者が容易に想到することができたと認められる。


(2) 原告の主張について


ア 原告は,引用例2のような逆浸透メンブランの分野においては,遊離塩素によって透過膜の劣化が生じるためこれを阻止するという課題があり,そのためにスライム防止剤を添加するのに対し,引用例1の冷却水系,蓄熱水系,紙パルプ工程水系,集塵水系,スクラバー水系においては,このような課題は存在せず,また,引用例1と引用例2とでは技術分野が異なると主張する。


 しかし,上記(1)のとおり,逆浸透メンブラン上の生物被膜を除去又は阻止することは一般的な課題であること,引用例2には,生物被膜を除去又は阻止するために,次亜塩素酸ナトリウムとスルファミン酸とを組み合わせた殺菌剤を使用できることが記載されている以上,逆浸透膜を用いた膜分離処理において,次亜塩素酸アルカリ金属塩,スルファミン酸のアルカリ金属塩を含有するスライム防止用組成物を用いることに困難な点はない。

 よって,原告の主張は採用できない。


イ 原告は,引用例2は,逆浸透メンブランを消毒して殺菌する発明であるのに対して,引用例1のスライム防止用組成物は,消毒・殺菌作用を奏さないものであるから,かかる引用例1と引用例2とを組み合わせることに阻害要因があると主張する。


 しかし,引用例1には,「殺菌効果が得られないような低濃度の組成物の添加量であっても」(8頁18〜19行),「A成分のみを有効塩素として5mg/L・・・添加しても,殺菌効果は発現しない」(18頁2〜4行)と記載されており,これらの記載振りによれば,殺菌効果があるか否かは,濃度(添加量)に依存すると理解するのが合理的である。低濃度の場合に殺菌効果が得られないからといって,引用発明に係るスライム防止用組成物に殺菌作用がないとすることはできず,引用例1と引用例2の組合せが阻害されるものではない。

 
 よって,原告の主張は採用できない。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。

●平成25(行ケ)10048 審決取消請求事件 特許権「加圧下に液体を小

 本日は、『平成25(行ケ)10048 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「加圧下に液体を小出しする装置」平成26年2月26日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20140303104159.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取り消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、取消事由4(手続違背)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 清水節、裁判官 池下朗、裁判官 新谷貴昭)は、


『1 取消事由4(手続違背)について


(1) 手続の経緯と内容について


 ・・・省略・・・


オ 審決


 審決は,本件補正について,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当すると認定した上で(平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項2号),前記第2の3記載のとおり独立特許要件違反であると判断して(同法17条の2第5項において準用する同法126条5項。補正が特許請求の範囲の減縮(同条4項2号)を目的とするものでなければ,独立特許要件違反による補正却下はできない。),本件補正を却下するとともに(同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項),補正前発明について,進歩性がないと判断して,拒絶審決をした。


(2) 手続の適法性について

 本件出願に係る平成23年7月8日付けの拒絶査定は,上記(1)ウに記載のとおり,請求項1〜18,21〜26,29〜33に係る発明は特許を受けることができないとするもので,請求項19に係る発明は拒絶査定の理由となっていない。


 平成23年11月14日付け手続補正書による補正(本件補正)は,上記(1)エに記載のとおり,上記拒絶査定の拒絶理由を解消するためにされたもので,本件補正後の請求項(新請求項)1は,原告が審判請求書で主張しているように,本件補正前の請求項(旧請求項)1を引用する形式で記載されていた旧請求項19を,当該引用部分を具体的に記載することにより引用形式でない独立の請求項としたものであると認められる。


 そうすると,新請求項1は,旧請求項1を削除して,旧請求項19を新請求項1にしたものであるから,旧請求項1の補正という観点からみれば,同請求項の削除を目的とした補正であり,特許請求の範囲の減縮を目的としたものではないから,前記のとおり,独立特許要件違反を理由とする補正却下をすることはできない。


 また,旧請求項19の内容は,新請求項1と同一であるから,旧請求項19の補正という観点から見ても,特許請求の範囲の限縮を目的とする補正ではない。


 したがって,審決は,実質的には,項番号の繰上げ以外に補正のない旧請求項19である新請求項1を,独立特許要件違反による補正却下を理由として拒絶したものと認められ,その点において誤りといわなければならない。


 そして,旧請求項19は,拒絶査定の理由とはされていなかったのであるから,特許法159条2項にいう「査定の理由」は存在しない。すなわち,平成22年11月10日付け拒絶理由通知では,当時の請求項19についても拒絶の理由が示されているが,平成23年3月16日付け手続補正により旧請求項19として補正され,その後の拒絶査定では,旧請求項19は拒絶査定の理由とされていない。


 したがって,審決において,旧請求項19である新請求項1を拒絶する場合は,拒絶の理由を通知して意見書を提出する機会を与えなければならない。

 しかしながら,本件審判手続において拒絶理由は通知されなかったのであるから,旧請求項19についての拒絶理由は,査定手続においても,審判手続においても通知されておらず,本件審決に係る手続は違法なものといわざるを得ない(なお,仮に,本件補正が,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し,条文上,独立特許要件違反を理由に補正却下することが可能とされる場合であったとしても,審決において,審査及び審判の過程で全く拒絶理由を通知されていない請求項のみが進歩性を欠くことを理由として,補正却下することは,適正手続の保障の観点から,許されるものではないと解される。)。


(3) 被告の主張について

ア 被告は,本件補正の目的は,特許請求の範囲の減縮を目的とするもの,すなわち,本件補正は,単純に拒絶査定の備考に明示されていた請求項を「削除」して,当該拒絶査定の備考に明示されていなかった請求項のみに補正するようなものではなく,拒絶査定時に進歩性がないと判断された請求項に係る発明すべてについて請求項19,27の記載において被引用請求項に対して付加していた事項を付加したものであり,それは補正前後で請求項に記載された発明の産業上の利用分野のみならず解決しようとする課題も同一と評すべき程度の補正であるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである,と審決で認定した旨を主張する。


 しかしながら,上記(2)で判示したとおり,請求項1についてみれば,本件補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものではなく,請求項の削除を目的にしたものであることが明らかであり,審決はそれを誤認したにすぎないものと認められるから,被告の主張を採用する余地はない。


イ 被告は,特許法の下では,適正手続のみならず,審査や審判の迅速化が十分に確保することも求められているのであって,手続の適正さと審査,審判における処分の迅速化をバランス良く満たす工夫が必要とされるものであり,たとえ手続上の適正さを欠くと外形上とらえ得る場合であっても,上記バランスの下では,それをもって当然に手続の適法性を失っているとは評すべきでない場合があり,総合的な評価がなされるべきであるから,本件における事情に照らせば,本件の手続は適正である旨を主張する。


 上記の被告の主張の趣旨は必ずしも明確ではないが,審査や審判の迅速性が要請される場合には,手続上の適正さを欠く処分であっても許容されることがあると述べるものであるとすれば,行政処分における適正手続の保障の観点から,到底採用できる主張ではない。しかも,本件審判では,上記(2)で判示したとおり,本件における補正却下の手続が適正さを欠くことは明らかであるから,被告の主張は認めることはできない。


ウ 被告は,本件の手続において,既に5回の補正の機会を与えているので,更なる補正の機会を与えなかったことは,原告の補正の機会を不当に奪うことには当たらない旨を主張する。


 しかしながら,実際に行われた手続補正の回数が多いからといって,本件審判における補正却下の手続が適正さを欠くことが正当化されるものではなく,拒絶理由を通知して補正の機会等を与えなかったという手続上の違法性が解消するものでもないから,被告の主張を採用することはできない。


(4) まとめ

 よって,原告主張の取消事由4には,理由がある。


第6 結論

 以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,原告の請求には理由がある。よって,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。