●平成25(行ケ)10261 審決取消請求事件 商標権「けやき」

 本件は、『平成25(行ケ)10261 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「けやき」平成26年3月5日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20140306093107.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取り消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、商標法第4条第1項11号の商標の類比の判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 清水節、裁判官 池下朗、裁判官 新谷貴昭)は、


『1本願商標について

 本願商標は,「けやき」の平仮名を横書きして成り,構成文字に相応して,「ケヤキ」の称呼を生じ,「欅」の観念を生じるものである(乙1)。



2引用商標について

(1)外観

 引用商標は,「けやき」の文字,「中央式典」の文字及び「町田駅前会堂」の文字を組み合わせて成り,その構成中,左側下段に,やや特徴的な細字で「町田駅前会堂」の文字を横書きし,その上段左側に接して,太目のゴシック体で小さく付記するように「中央式典」の文字を横書きし,これらの右側に,やや離して,「けやき」の文字を,毛筆手書き風の特徴のある字体で,顕著に,特に大きく表された「け」の文字の引き延ばされた第2画の下に,「や」と「き」の文字を大きく,3文字まとまりよく配するという,特徴的な態様で表されており,各構成文字の異なる書体,大きさ及び位置からみて,外観上,三つの構成部分が不可分一体に認識されるものとはいえず,分離して看取し得るものである。


 そして,左側の上下二段の構成文字部分は,下段の「町田駅前会堂」がやや特徴的な字体ではあるものの,いずれも漢字のみから成り,互いに接して横書きされていることから,一体的に把握されるのに対し,「けやき」の文字部分は,左側の構成文字部分からやや離れて,特徴のある字体で,大きく顕著に,まとまりよく表されており,「け」と「や」と「き」の配置に特徴があることからすると,「けやき」の文字部分が,最も強く,看る者の注意を引く部分ということができる。


(2)観念

 引用商標中,「けやき」の文字部分からは,「欅」の観念を生じる(乙1)。「中央式典」の文字部分のうち「式典」の文字は,「儀式」等の意味を有する語であり(乙2),葬祭業者の名称として「○○式典」なるものが多数使用されている実情がうかがえる(乙3〜11)ことからすると,「中央式典」の文字部分からは,「中央式典という葬祭業者」との意味を表したものと理解できる。「町田駅前会堂」の文字部分のうち「会堂」の文字は,「集会のために設けた建物」等の意味を有する語である(乙12)ことから,「町田駅前会堂」の文字部分は,「町田駅前にある集会を行う建物」との意味を表したものと理解できる。


 そして,引用商標の「けやき」の文字,「中央式典」の文字及び「町田駅前会堂」の文字は,前記(1)のとおり,分離して看取されることから,全体として特定の観念を生じるとは認められないが,左側の上下二段の漢字部分は,一体的に把握されることから,「中央式典という葬祭業者と関連する町田駅前にある集会を行う建物」との観念を生じるものと認められる。


 したがって,引用商標は,各構成文字において,互いに,観念的なつながりはなく,全体が一体不可分のものとして認識されるものではないが,前記のとおり,構成中の「けやき」の文字部分に相応して「欅」の観念を生じるとともに,「中央式典」及び「町田駅前会堂」の文字部分に対応して,「中央式典という葬祭業者と関連する町田駅前にある集会を行う建物」との観念も生じるものである。


(3)称呼について

 引用商標は,(1)のとおり,その構成中の各構成文字が,外観上分離して把握されるものであり,(2)のとおり,左側の上下二段の漢字から成る構成部分を除いて,各構成文字における観念的な関連性も認められない。そして,その構成文字全体から生じる「チュウオウシキテンマチダエキマエカイドウケヤキ」の称呼は,22音と長く,一気に称呼するのは困難である上,引用商標の指定役務中の葬儀の執行が,人の死亡という突然に生じることが多い出来事に伴って短期間に済ませなければならないものであり,遺族,関係者等の精神的混乱の中でも執り行われ得ることからすると,簡易,迅速が尊ばれる引用商標の上記指定役務の取引において,引用商標に接する取引者,需要者は,「チュウオウシキテンマチダエキマエカイドウケヤキ」の22音を常に全体として称呼するとみることはできず,外観上,看る者の注意を最も強く引く部分である「けやき」の文字部分から「ケヤキ」の称呼を生じることもあるというべきである(なお,左側の上下二段の構成部分から生じる「チュウオウシキテンマチダエキマエカイドウ」の称呼も,同様に冗長なものと認められる。)。


(4)小括

 以上によれば,引用商標は,外観において,視覚上分離して看取されるものであり,観念においても,左側の上下二段の構成部分を除いて,各構成文字が相互に結合して特定の観念を生じるものではなく,各構成文字を分離して観察することが,取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいえず,外観上,看者の注意を引く「けやき」の文字部分が,強く支配的な印象を与えるものであることからすると,当該文字部分が,独立して自他役務の識別標識としての機能を果たす部分であるとみるのが相当である。


 したがって,引用商標に接する取引者,需要者は,役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える「けやき」の文字部分をもって取引するものということができ,引用商標は,「けやき」の文字部分から「欅」の観念及び「ケヤキ」の称呼を生じるものである。


3対比

(1) 本願商標と引用商標の外観,観念及び称呼の比較

 本願商標は,上記1のとおり,「けやき」の文字から成り,「欅」の観念及び「ケ
ヤキ」の称呼を生じるものである。引用商標は,上記2のとおり,「けやき」,「中央式典」及び「町田駅前会堂」の文字から成り,その構成中,「けやき」の文字部分から,「欅」の観念及び「ケヤキ」の称呼を生じるものである。


 そうすると,本願商標と引用商標は,その全体の文字構成において相違するとしても,「けやき」の構成文字において同一であるから,外観において共通する部分があり,「欅」の観念及び「ケヤキ」の称呼を同一にするものである。


(2)取引の実情

 乙13〜23によれば,葬祭業者が自己の業務を宣伝広告するに当たり,式場の所在地名と,会堂,会館,式場等の建物を表す語を組み合わせた表示を使用していることが多いものと認められ,その表示は,式場の所在地や役務の提供場所を取引者,需要者に認識させるものであるから,自他役務の識別標識としての機能は弱いということができる。引用商標においても,その構成中,「町田駅前会堂」の文字部分は,「町田駅前にある(葬儀のための)建物」との意味を有し,引用商標に接する取引者,需要者は,「役務の提供場所」の表示と認識することが一般であるから,出所識別標識として認識されることが少ないものと認められ,「中央式典」の文字部分及び「けやき」の文字部分が,役務の出所識別標識として認識され得る部分といえる。


 そして,指定役務中の葬祭業の分野における取引者,需要者は,これらの役務についての専門業者に限らず,広く一般の消費者が含まれるから,役務に対する注意力は必ずしも高いものではなく,上記2(3)のとおり,簡易,迅速な取引が尊ばれることからすると,引用商標に接する取引者,需要者は,その構成中,最も強く看る者の注意を引く部分である「けやき」の文字をもって取引に当たる場合も少なくないものというべきである。


(3)まとめ

 以上によれば,本願商標と引用商標は,その全体の外観構成において相違するとしても,「けやき」の構成文字において同一であって,外観において共通する部分があり,「欅」の観念及び「ケヤキ」の称呼を同一にするものであるから,これを同一又は類似の役務に使用したときは,その出所について紛れるおそれのある類似の商標である。したがって,本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした審決の認定,判断に誤りはない。


(4)原告の主張について

 原告は,引用商標は全体として一つの商標として一体的に看取されるようにデザインされており,本願商標と引用商標とでは、外観上共通する要素も見当たらず、両者は全体の印象が大きく異なるので、外観上の差異は明らかであると主張する。


 しかし,引用商標が,一体的に看取されず,「けやき」の文字,「中央式典」の文字及び「町田駅前会堂」の文字に分離して看取し得るものであり,とりわけ「けやき」の文字部分が看る者の注意を引くことは,上記2(1)に判示したとおりである。


 原告は,引用商標中の「中央式典」及び「町田駅前会堂」の表示からも観念が生じるから,引用商標と本願商標とは観念上も相紛れるおそれはないと主張する。確かに,「中央式典」及び「町田駅前会堂」の表示から一定の観念は生じるものの,引用商標に接する取引者,需要者は,その構成中,最も強く看る者の注意を引く部分である「けやき」の文字をもって取引に当たる場合が少なくないことは,上記(2)に判示したとおりである。


 原告は,引用商標の称呼が22音と冗長だからといって、引用商標の複雑な構成から「ケヤキ」のみの称呼が生じ得るとの認定は失当であると主張する。しかし,引用商標全体からの称呼が冗長なことは明らかであり,引用商標の「けやき」の文字部分が注目されて「ケヤキ」のみの称呼を生じることもあることは,上記2(3)に判示したとおりである。


 原告は,引用商標権者は関東圏で複数の葬儀及び婚礼の式場を所有し運営しているが,原告はにて地域に根ざした運営を行っているから,葬儀の執行というサービスの特異性を考慮すれば,本願商標と引用商標とは出所の誤認混同を生じるおそれはないと主張する。


 しかし,葬儀の執行を中心とする当該指定役務であっても,商標を使用しての広告宣伝がインターネットを通じて全国的に行われることは明らかであるから(乙3〜11,13〜23),これを利用する一般の取引者,需要者が,類似する商標の使用によって出所の誤認混同を生じるおそれは否定し難く,しかも,引用商標権者における原告主張の事業運営状況が今後変動しないものと認めるに足りる証拠はない。


 原告は,引用商標から「けやき」の部分のみを抽出して類否を検討するのは誤りであると主張する。しかし,審決は,結合商標である引用商標から複数の観念及び称呼が生じることを前提として,そのうち出所識別機能の強い「けやき」の部分から生じる観念及び称呼が本願商標から生じる観念及び称呼と同一であるため,外観上の相違及び「けやき」以外の部分から生じる観念及び称呼の相違にもかかわらず,両商標は類似すると判断したものと解され,「けやき」の部分のみを抽出して類否を検討したものではなく,その判断に誤りはない。


 したがって,原告の主張は,いずれも理由がない。


第6結論

 以上によれば,原告の請求には理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。