●平成25(行ケ)10102 審決取消請求事件 特許権「膜分離用スライム

 本日は、『平成25(行ケ)10102 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「膜分離用スライム防止剤及び膜分離方法」平成26年2月27日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20140228103645.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取り消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由2(相違点についての容易想到性の判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 八木貴美子、裁判官 小田真治)は、


『2 取消事由2(相違点についての容易想到性の判断の誤り)について


 事案に鑑み,取消事由2を先に判断する。当裁判所は,次のとおり,当業者は相違点に係る構成を容易に想到することができたものと判断する。


(1) 相違点についての容易想到性判断


 前記第2,2(3)イのとおり,本願発明と引用発明との相違点は,本願発明は,「膜分離用」のスライム防止剤であるのに対し,引用発明では「冷却水系,蓄熱水系,紙パルプ工程水系,集じん水系,スクラバー水系など」用のスライム防止剤であり,膜分離の用途について記載がない点にある。


 前記1(2)のとおりの引用例1の記載によれば,引用発明は,次亜塩素酸アルカリ金属塩,スルファミン酸のアルカリ金属塩及びアニオン性ポリマー又はホスホン酸化合物を含有するスライム防止用組成物に関するものであり,引用発明に係るスライム防止用組成物は,冷却水系,蓄熱水系,紙パルプ工程水系,集じん水系,スクラバー水系などの水系に添加され,それにより,これらの水系において発生するスライムが配管等に付着するのを防止して,スライムの付着に起因する障害を防止しようとするものであると認められる。


 そして,引用例2には,前記1(3)のとおりの記載があり,逆浸透メンブラン上の生物被膜を除去又は阻止する方法として,逆浸透メンブランを,ハロゲンを徐々に放出する,結合された形態にある酸化性ハロゲン殺菌剤と接触させて,逆浸透メンブランを消毒して殺菌する方法が記載されている(請求項1)。このうち,「酸化性ハロゲン殺菌剤」は,?「+1酸化状態にあるハロゲンを含む酸化性殺菌剤物質」と?「イミドまたはアミドの形態にある少なくとも一個の窒素原子を含む窒素含有化合物」との組合せで,?のハロゲンが?の窒素と緩く結合することにより結合ハロゲンが形成されたものであり得(【請求項2】),?の例として次亜塩素酸ナトリウムが,?の例としてスルファミン酸が記載されている(【0013】)。上記のとおり,引用例2には,?の例として次亜塩素酸ナトリウムが,?の例としてスルファミン酸が,それぞれ例示されているが,次亜塩素酸塩とスルファミン酸とを反応させると,クロロスルファミン酸塩が形成されること,また,このクロロスルファミン酸塩は,塩素が窒素と結合して結合塩素が形成されたものであって,塩素を徐々に放出するものであることは,技術常識であるから,次亜塩素酸ナトリウムとスルファミン酸とを組み合わせたものも,上記の殺菌剤として使用できることは,当業者にとって自明である。


 そうすると,引用例2には,次亜塩素酸ナトリウムとスルファミン酸を組み合わせて,結合ハロゲンを形成させて殺菌剤とし,逆浸透メンブランをその殺菌剤と接触させて,逆浸透メンブラン上の生物被膜を除去又は阻止することが記載されていることが認められ,このような引用例2の記載からすると,次亜塩素酸アルカリ金属塩及びスルファミン酸のアルカリ金属塩等を含有する引用発明についても,その用途を「膜分離用」とすることは,当業者が容易に想到することである。


 よって,相違点に係る構成は,当業者が容易に想到することができたと認められる。


(2) 原告の主張について


ア 原告は,引用例2のような逆浸透メンブランの分野においては,遊離塩素によって透過膜の劣化が生じるためこれを阻止するという課題があり,そのためにスライム防止剤を添加するのに対し,引用例1の冷却水系,蓄熱水系,紙パルプ工程水系,集塵水系,スクラバー水系においては,このような課題は存在せず,また,引用例1と引用例2とでは技術分野が異なると主張する。


 しかし,上記(1)のとおり,逆浸透メンブラン上の生物被膜を除去又は阻止することは一般的な課題であること,引用例2には,生物被膜を除去又は阻止するために,次亜塩素酸ナトリウムとスルファミン酸とを組み合わせた殺菌剤を使用できることが記載されている以上,逆浸透膜を用いた膜分離処理において,次亜塩素酸アルカリ金属塩,スルファミン酸のアルカリ金属塩を含有するスライム防止用組成物を用いることに困難な点はない。

 よって,原告の主張は採用できない。


イ 原告は,引用例2は,逆浸透メンブランを消毒して殺菌する発明であるのに対して,引用例1のスライム防止用組成物は,消毒・殺菌作用を奏さないものであるから,かかる引用例1と引用例2とを組み合わせることに阻害要因があると主張する。


 しかし,引用例1には,「殺菌効果が得られないような低濃度の組成物の添加量であっても」(8頁18〜19行),「A成分のみを有効塩素として5mg/L・・・添加しても,殺菌効果は発現しない」(18頁2〜4行)と記載されており,これらの記載振りによれば,殺菌効果があるか否かは,濃度(添加量)に依存すると理解するのが合理的である。低濃度の場合に殺菌効果が得られないからといって,引用発明に係るスライム防止用組成物に殺菌作用がないとすることはできず,引用例1と引用例2の組合せが阻害されるものではない。

 
 よって,原告の主張は採用できない。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。