●平成25(行ケ)10048 審決取消請求事件 特許権「加圧下に液体を小

 本日は、『平成25(行ケ)10048 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「加圧下に液体を小出しする装置」平成26年2月26日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20140303104159.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取り消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、取消事由4(手続違背)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 清水節、裁判官 池下朗、裁判官 新谷貴昭)は、


『1 取消事由4(手続違背)について


(1) 手続の経緯と内容について


 ・・・省略・・・


オ 審決


 審決は,本件補正について,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当すると認定した上で(平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項2号),前記第2の3記載のとおり独立特許要件違反であると判断して(同法17条の2第5項において準用する同法126条5項。補正が特許請求の範囲の減縮(同条4項2号)を目的とするものでなければ,独立特許要件違反による補正却下はできない。),本件補正を却下するとともに(同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項),補正前発明について,進歩性がないと判断して,拒絶審決をした。


(2) 手続の適法性について

 本件出願に係る平成23年7月8日付けの拒絶査定は,上記(1)ウに記載のとおり,請求項1〜18,21〜26,29〜33に係る発明は特許を受けることができないとするもので,請求項19に係る発明は拒絶査定の理由となっていない。


 平成23年11月14日付け手続補正書による補正(本件補正)は,上記(1)エに記載のとおり,上記拒絶査定の拒絶理由を解消するためにされたもので,本件補正後の請求項(新請求項)1は,原告が審判請求書で主張しているように,本件補正前の請求項(旧請求項)1を引用する形式で記載されていた旧請求項19を,当該引用部分を具体的に記載することにより引用形式でない独立の請求項としたものであると認められる。


 そうすると,新請求項1は,旧請求項1を削除して,旧請求項19を新請求項1にしたものであるから,旧請求項1の補正という観点からみれば,同請求項の削除を目的とした補正であり,特許請求の範囲の減縮を目的としたものではないから,前記のとおり,独立特許要件違反を理由とする補正却下をすることはできない。


 また,旧請求項19の内容は,新請求項1と同一であるから,旧請求項19の補正という観点から見ても,特許請求の範囲の限縮を目的とする補正ではない。


 したがって,審決は,実質的には,項番号の繰上げ以外に補正のない旧請求項19である新請求項1を,独立特許要件違反による補正却下を理由として拒絶したものと認められ,その点において誤りといわなければならない。


 そして,旧請求項19は,拒絶査定の理由とはされていなかったのであるから,特許法159条2項にいう「査定の理由」は存在しない。すなわち,平成22年11月10日付け拒絶理由通知では,当時の請求項19についても拒絶の理由が示されているが,平成23年3月16日付け手続補正により旧請求項19として補正され,その後の拒絶査定では,旧請求項19は拒絶査定の理由とされていない。


 したがって,審決において,旧請求項19である新請求項1を拒絶する場合は,拒絶の理由を通知して意見書を提出する機会を与えなければならない。

 しかしながら,本件審判手続において拒絶理由は通知されなかったのであるから,旧請求項19についての拒絶理由は,査定手続においても,審判手続においても通知されておらず,本件審決に係る手続は違法なものといわざるを得ない(なお,仮に,本件補正が,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し,条文上,独立特許要件違反を理由に補正却下することが可能とされる場合であったとしても,審決において,審査及び審判の過程で全く拒絶理由を通知されていない請求項のみが進歩性を欠くことを理由として,補正却下することは,適正手続の保障の観点から,許されるものではないと解される。)。


(3) 被告の主張について

ア 被告は,本件補正の目的は,特許請求の範囲の減縮を目的とするもの,すなわち,本件補正は,単純に拒絶査定の備考に明示されていた請求項を「削除」して,当該拒絶査定の備考に明示されていなかった請求項のみに補正するようなものではなく,拒絶査定時に進歩性がないと判断された請求項に係る発明すべてについて請求項19,27の記載において被引用請求項に対して付加していた事項を付加したものであり,それは補正前後で請求項に記載された発明の産業上の利用分野のみならず解決しようとする課題も同一と評すべき程度の補正であるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである,と審決で認定した旨を主張する。


 しかしながら,上記(2)で判示したとおり,請求項1についてみれば,本件補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものではなく,請求項の削除を目的にしたものであることが明らかであり,審決はそれを誤認したにすぎないものと認められるから,被告の主張を採用する余地はない。


イ 被告は,特許法の下では,適正手続のみならず,審査や審判の迅速化が十分に確保することも求められているのであって,手続の適正さと審査,審判における処分の迅速化をバランス良く満たす工夫が必要とされるものであり,たとえ手続上の適正さを欠くと外形上とらえ得る場合であっても,上記バランスの下では,それをもって当然に手続の適法性を失っているとは評すべきでない場合があり,総合的な評価がなされるべきであるから,本件における事情に照らせば,本件の手続は適正である旨を主張する。


 上記の被告の主張の趣旨は必ずしも明確ではないが,審査や審判の迅速性が要請される場合には,手続上の適正さを欠く処分であっても許容されることがあると述べるものであるとすれば,行政処分における適正手続の保障の観点から,到底採用できる主張ではない。しかも,本件審判では,上記(2)で判示したとおり,本件における補正却下の手続が適正さを欠くことは明らかであるから,被告の主張は認めることはできない。


ウ 被告は,本件の手続において,既に5回の補正の機会を与えているので,更なる補正の機会を与えなかったことは,原告の補正の機会を不当に奪うことには当たらない旨を主張する。


 しかしながら,実際に行われた手続補正の回数が多いからといって,本件審判における補正却下の手続が適正さを欠くことが正当化されるものではなく,拒絶理由を通知して補正の機会等を与えなかったという手続上の違法性が解消するものでもないから,被告の主張を採用することはできない。


(4) まとめ

 よって,原告主張の取消事由4には,理由がある。


第6 結論

 以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,原告の請求には理由がある。よって,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。