●平成25(行ケ)10174 審決取消請求事件 特許権「回転角検出装置」

 本日は、『平成25(行ケ)10174 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「回転角検出装置」平成26年2月26日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20140304164021.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審決の取り消しを求める審決取消請求事件で、訂正を認めた無効審決の取り消しが認容された事案です。


 本件では、取消事由1(訂正要件の判断の誤り)における訂正要件の判断の誤りについての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 富田善範、裁判官 大鷹一郎、裁判官 齊藤巌)は、


『1取消事由1(訂正要件の判断の誤り)について
(1)本件明細書の記載事項等


 ・・・省略・・・

(2)訂正要件の判断の誤りについて

ア原告は,本件訂正の訂正事項aは,本件特許の設定登録時(本件訂正前)の請求項1では,「前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子は各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて」,磁気検出素子の2種類の各端子が端子毎に同じ方向へ引き出されるものであったのが,本件訂正後の請求項1では,「前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの端子の内の各磁気検出素子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子であって前記信号入力用及び前記接地用の少なくともいずれかは各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて」と訂正され,磁気検出素子の少なくとも1種類の端子が端子毎に同じ方向へ引き出される態様のものも含み得ることになり,実質上特許請求の範囲を拡張するものであるから,本件訂正は,特許法134条の2第9項において準用する同法126条6項に違反する旨主張するので,以下において判断する。


(ア)本件訂正前の請求項1の記載は,「磁石を有し,被検出物の回転に伴って回転するロータコアと,このロータコアの磁石の磁力を受けて前記被検出物の回転角度を検出し同じ
配列の3つの端子を有し且つ同形状を有する複数の磁気検出素子と,2つは前記磁気検出素子の出力を外部に取り出し,また1つは前記磁気検出素子に電源電圧を外部から印加し,さらに1つは前記磁気検出素子を外部に接地するための,少なくとも4つの外部接続端子とを備えた非接触式の回転角度検出装置であって,前記複数の磁気検出素子は,並列に180度逆方向で配置され,前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子は各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて前記外部接続端子のいずれかと接続されていることを特徴とする回転角度検出装置。」というものである。


 上記請求項1の記載によれば,「複数の磁気検出素子が夫々有する3つの端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子」にいう「少なくとも2つの同一位置に配置された各端子」とは,各磁気検出素子がそれぞれ有する3種類の端子のうち,少なくとも2種類の各端子を意味し,本件発明では,磁気検出素子の2種類の各端子が,端子毎に同じ方向へ引き出されて,4つの外部接続端子のいずれかと接続されていることを理解できる。


(イ)一方,本件訂正後の請求項1の記載は,「磁石を有し,被検出物の回転に伴って回転するロータコアと,このロータコアの磁石の磁力を受けて前記被検出物の回転角度を検出し同じ配列の3つの端子を有し且つ同形状を有する複数の磁気検出素子と,2つは前記磁気検出素子の出力を外部に取り出し,また1つは前記磁気検出素子に電源電圧を外部から印加し,さらに1つは前記磁気検出素子を外部に接地するための,少なくとも4つの外部接続端子とを備えた非接触式の回転角度検出装置であって,前記磁気検出素子の3つの端子は,電源電圧を印加する信号入力用,信号出力用,及び接地用の端子であり,前記複数の磁気検出素子は,並列に180度逆方向で配置されて3つの端子は前記磁気検出素子の同一面より引き出され,前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子であって前記信号入力用及び前記接地用の少なくともいずれかは各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて前記外部接続端子のうち電源電圧を印加する信号入力用端子及び接地端子の少なくともいずれかと接続されていることを特徴とする回転角度検出装置。」というものである(下線部は本件訂正による訂正箇所である。)。


 まず,上記請求項1の記載によれば,本件訂正により,「磁気検出素子が夫々有する3つの端子」が「電源電圧を印加する信号入力用,信号出力用,及び接地用の端子」の3種類であることが特定されるとともに,「磁気検出素子が夫々有する3つの端子」が引き出される起点が「磁気検出素子の同一面より」であると特定されたことを理解できる。


 次に,上記請求項1の「前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子であって前記信号入力用及び前記接地用の少なくともいずれかは各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて前記外部接続端子のうち電源電圧を印加する信号入力用端子及び接地端子の少なくともいずれかと接続されている」との文言によれば,磁気検出素子の「前記信号入力用及び前記接地用の少なくともいずれか」の端子が,「前記外部接続端子のうち電源電圧を印加する信号入力用端子及び接地端子の少なくともいずれか」と接続されていることを理解できる。


 そして,「前記信号入力用及び前記接地用の少なくともいずれか」にいう「少なくともいずれか」とは,「前記信号入力用」の端子及び「前記接地用」の端子の「少なくともいずれか一つの端子」を意味し,また,「前記外部接続端子のうち電源電圧を印加する信号入力用端子及び接地端子の少なくともいずれか」にいう「少なくともいずれか」とは,「電源電圧を印加する信号入力用端子」及び「接地端子前記信号入力用」の「少なくともいずれか一つの端子」を意味することは,文理上,一義的に明白である。


 したがって,上記請求項1の記載によれば,本件訂正発明は,磁気検出素子の「信号入力用」及び「接地用」の2種類の端子のうち,いずれか1種類の端子が,端子毎に同じ方向へ引き出されて,外部接続端子のうち電源電圧を印加する信号入力用端子及び接地端子のいずれか一つの端子と接続されている構成のものを含むものと理解できる。


 そうすると,本件訂正前の請求項1では,磁気検出素子の2種類の各端子が,端子毎に同じ方向へ引き出されて,4つの外部接続端子のいずれかと接続されている構成であったのが,本件訂正により,本件訂正後の請求項1では,「信号入力用」及び「接地用」の2種類の端子のうち,いずれか1種類の端子が,端子毎に同じ方向へ引き出されて,外部接続
端子のうち電源電圧を印加する信号入力用端子及び接地端子のいずれか一つの端子と接続されている構成を含むものとなり,磁気検出素子の「信号入力用」及び「接地用」の2種類の端子のうち,いずれか1種類の端子が端子毎に同じ方向へ引き出される態様のものも特許請求の範囲に含み得ることになった点において,本件訂正は,本件訂正前の請求項1について,実質上特許請求の範囲を拡張するものであると認められる。


(ウ)被告は,この点に関し,本件訂正の前後にかかわらず,「前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子」の種類は「少なくとも2つ」あり,本件訂正は,この「少なくとも2つ」ある「端子の種類」が「前記信号入力用及び前記接地用の少なくともいずれか」であることを明確にすることによって,2つの同一位置の端子の種類を信号入力用及び接地用の端子に限定したものであるから,本件訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張するものではない旨主張する。


 しかしながら,本件訂正前の請求項1の記載と本件訂正後の請求項1の記載を対比すると,本件訂正により,「前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子」が「信号入力用及び接地用の端子」の2種類に特定されたことは認められるが,本件訂正後の請求項1の「前記信号入力用及び前記接地用の少なくともいずれか」の文言は,この2種類に特定された端子の「少なくともいずれか一つ」を意味することは,文理上,一義的に明白であるから,被告の上記主張は,採用することができない。


以上のとおり,本件訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張するものであるから,本件訂正は,特許法134条の2第9項において準用する同法126条6項に違反する。これと異なる本件審決の判断は,誤りである。


(3)小括

 以上によれば,その余の点について検討するまでもなく,本件訂正が訂正要件に適合するとして,本件訂正を認めた本件審決の判断は誤りである。


 そして,本件訂正を認めた本件審決の判断の誤りは,発明の要旨認定の誤りに帰することになるから,この誤りが本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。


 したがって,原告主張の取消事由1は理由がある。』


 と判示されました。

 
 詳細は、本判決文を参照して下さい。