●最近の特許庁の進歩性の判断を知財高裁が取消した事件から言える事

 2年程前に一度「最近の特許庁の進歩性の判断を知財高裁が取消した事件から言える事」(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20061115)とまとめましたが、今回2件ほど特許庁の進歩性の判断を知財高裁が取消した事件が出され、簡単にまとめておこうと思いましたので、2年近い間の同様の事件は抜けていますが、その点は時間があるときに追加しますが、とりあえずは、2年程前にまとめたものを更新しておこうと思います。


●平成17(行ケ)10514 審決取消請求事件 H18.6.21 「遊戯台」
http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20060624
・・・『引用発明の本質的部分に反することとなるから,当業者が必要に応じて適宜になし得る程度の設計的事項にすぎないと判断したことは誤りである。』

→引用発明の本質的部分に反する場合、本願発明の進歩性を否定する引用例となり得ない。


●平成17(行ケ)10718 審決取消請求事件 H18.6.22 「適応型自動同調装置」
http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20060625
・・・『引用例1には、本願発明の技術的課題も,また,これを示唆する事項も全く記載されていない。そうすると,引用例1には,これに接した当業者が,引用発明における構成を,本願補正発明の「電気的共振点を複数有し且つ入力端を1個だけ有する1の負荷」に変更する契機となるものがなく,その動機付けを見出すことができないといわなければならない。
 さらに、本件審決の周知技術を前提としても,そのことが,引用発明の構成を本願補正発明の構成に変更する動機付けとなるものと解することはできず、かかる動機付けが見出せない以上,引用発明に本件審決にいう周知技術を組み合わせることによって,当業者が相違点1に係る本願補正発明の構成を適宜採用し得るものと認めることはできないから,本件審決の上記判断は誤りである。』

→引用例には、本願発明の技術的課題も,また,これを示唆する事項も記載されていない以上、本願発明の構成に変更する動機付けを見出すことができない。


●平成17(行ケ)10490 審決取消請求事件 H18.6.29 「紙葉類識別装置の光学検出部」
http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20060630
・・・『紙葉類の積層状態検知装置(引用文献)及び紙葉類識別装置(本願発明)は,近接した技術分野であるとしても,その差異を無視し得るようなものではなく,構成において,紙葉類の積層状態検知装置を紙葉類識別装置に置き換えるのが容易であるというためには,それなりの動機付けを必要とするものであって,引用発明及び本件周知装置ともに「紙葉類を扱うもの」,「発光素子,受光素子により紙葉類の透過光を検出するもの」であるということで,直ちに,紙葉類の積層状態検知装置を紙葉類識別装置に置き換えることが当業者において容易であるとすることはできない。
 本願発明と引用発明とは,そもそも発明の課題及び目的が相違し,相違点1及び3に係る本願発明の構成が,引用発明及び本件周知装置に開示も示唆もされておらず,これらを組み合わせて同構成を得ることの動機付けも見いだし難い。いずれにせよ,被告の上記主張は,失当である。』

→技術分野が近くても、本願発明と引用発明とが発明の課題及び目的が相違し,本願発明の構成が,引用発明及び本件周知装置に開示も示唆もさていない以上、引用発明を組み合わせて本願発明の構成にすることの動機付けも見いだせない。


●平成17(行ケ)10677 審決取消請求事件 H18.8.31 「メモリ制御装置」 (http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20060904
・・・『引用発明と本願発明とでは、アクセス単位の制約の有無の点で異なり、メモリへのアクセス方式が異なるので、引用発明に接した当業者が引用発明の特定のニブル・モード・アクセス方式を、具体的な全体を離れてページモードに偏向することの契機にはならず、いずれも特許庁の判断は誤り。』

→引用発明と本願発明とでは、アクセス単位の制約の有無の点で異なり、アクセス方式が異なるので、引用発明に接した当業者が引用発明の特定のアクセス方式を、具体的な全体を離れて本願発明のアクセス方式にすることの契機にはならない。


●平成17(行ケ)10046 審決取消請求事件 H18.9.12「記録担体上のデイジタルデータの記録および/又は再生方法」(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060913085433.pdf


●平成17(行ケ)10575 特許取消決定取消請求事件 H18.09.26「走査光学系」(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060927094417.pdf


●平成18(行ケ)10053 審決取消請求事件 H18.09.28「ティッシュペーパー収納箱」
http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20060928
・・・『引用例2発明は,係止用くぼみの最奥部で,相互に押し合い,各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込むという構成を有しないものであって,この点は引用例1発明と同様であるから,そもそも引用例1発明に引用例2発明を適用する動機付けを欠くというほかない。

→複数の引例を組み合わせるためには、動機付けが必要。


●平成17(行ケ)10717 審決取消請求事件 H18.10.11「有機発光素子用のカプセル封入材としてのシロキサンおよびシロキサン誘導体」
http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20061018
・・・『引用発明1bと引用発明3とは,有機発光素子という同一技術分野に属しているとしても,それだけでは,引用発明1bのオーバーコート層に換えて引用発明3のシロキサンを用いることが,当業者にとって容易になし得たと論理付けることはできない。』

→複数の引例が同一技術分野に属するということだけでは、組み合わせることの動機付けにはならない。


●『平成19(行ケ)10422 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「薬剤を製造する方法」平成20年08月06日 知的財産高等裁判所』(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20080904
・・・『そうすると,引用文献記載の発明において,上コアロッド4に円筒状突出部41のほか,円錐形状部42を備えることは,技術課題を解決し,発明の効果を奏するために不可欠の構成であることは明らかである。
 すなわち,引用文献には,粉末成形方法の工程に「上パンチ5及びその内側に配される先端に円筒状突出部41を備えるが,円錐形状部42を備えていない上コアロッド4」を用いた構成の発明が記載されていないことはもとより,当業者が,引用文献の記載から,かかる構成の発明を想起することも困難であるといわざるを得ない。』

→引用文献記載の発明において、その技術課題を解決し,発明の効果を奏するために不可欠の構成を除外して、引用発明を認定することはできない。


●『平成19(行ケ)10412 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「作業用アームレスト」平成20年08月26日 知的財産高等裁判所』(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20080903
・・・『引用発明は,ボールジョイントにより「支竿(2)」を揺動させることで,「支竿(2)」の上端に設けた「腕受け(1)」を略水平方向に移動可能とするものであるのに対し,本願発明は,弾性的支柱の弾性変形により,弾性的支柱の上端に設けたアームレストを略水平方向に移動可能とするものであり,両者は課題に対する解決方法を異にするものであるから,引用発明は,本願発明に係る技術を示唆するものではない。』

→引用発明は、本願発明と課題に対する解決方法を異にする場合,本願発明に係る技術を示唆することはできない。