●平成15(行ケ)272特許権「線状低密度ポリエチレン系複合フイルム」

 今日は、昨年度まで出ていた社外委員会で同じグループだった他社知財部の方から『結婚しました!』というメールを受けました。こういうオメデタイ話を連絡頂くと、何かこちらまで幸せに感じ、とてもうれしいですね!


 さて、本日は、『平成15(行ケ)272 特許権 行政訴訟「線状低密度ポリエチレン系複合フイルム」平成17年03月30日 東京高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/88BC04D46D9FDE8E492570FC0002232D.pdf)について取上げます。


 本件は、特許異議申立ての取消決定の取消を求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 先日の弁理士会の特許法36条の会員研修で、「平均粒子径」の用語について明細書中に定義がないので、特許法36条違反として取り消された事件と、取り消されなかった事件があると紹介されていましたが、本件は、そのうちの前者、すなわち「平均粒子径」の用語について明細書中に定義がないので、特許法36条違反として取り消された事件の一つのようです。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 佐藤久夫、裁判官 設樂隆一、裁判官 高瀬順久)は、


1【法36条5項2号違反の判断の誤り】について

(1) 決定が説示し,また,原告も自認するとおり,本件発明では,不活性微粒子の粒子の形状も,平均粒径の意義も,測定方法も特定されていない。

 乙第1号証(「微粒子ハンドブック」朝倉書店)には,

 ・・・省略・・・

 との記載がある。


 また,乙第2号証(「粉粒体計測ハンドブック」・日刊工業新聞社)には,

 ・・・省略・・・

 との記載がある。

 以上の記載からは,本件の不活性微粒子においても,その代表径は粒子の形状やその取り方により異なること,平均粒径の算定方法も複数あり,同じ代表径からでもその算出値が異なること,さらに,測定方法も複数あること,を認めることができる。


  そうすると,粒子の形状,代表径の取り方,平均粒径の意義,測定方法のいずれも特定されていない本件発明においては,平均粒径の数値範囲だけが明記されていても,それがどのような大きさの不活性微粒子を指すかは(本件発明において不活性微粒子が製造工程で実質的に変質せず,材料段階での平均粒径を考えればよいとしても)不明であるといわざるを得ない。


(2) 原告は,本件発明の技術分野においては,メーカーの公称値を採用するのが一般的であると主張する。


  甲第6号証(特許第2911742号)等,不活性微粒子のメーカー名・商品名とともに特定の数値を平均粒径として挙げている特許公報があり,その中には,その値がメーカーの公称値と一致していると明らかに認められるものもある(甲第4号証ないし第9号証)。


 しかし,本件明細書には,不活性微粒子のメーカー名・商品名が記載されているものではなく,そもそも市販品を用いたとの記載もないのであるから,上記の例と同一視することはできない。


  そして,乙第3号証ないし第8号証(いずれも本件の優先日前の公開特許公報)のように,種々の平均粒径の意義や測定方法の中から採用するものを明示して(例えば乙第3号証の走査型電子顕微鏡で測定する方法,乙第6号証の重力沈降法等),その値を示した例がある。


  メーカーの公称値を採用することが技術常識であったとは認められない。


(3) 原告は,平均粒径の測定方法として,コールターカウンター法が一般的であり,本件発明もこれにより測定された平均粒径の値であると特定される,と主張する。


  前記(1)アで引用したとおり,測定方法が決まれば代表径,平均粒径の意義も明らかになるから,本件発明においても,コールターカウンター法が採用されていると解することができれば,特定に欠けるところはないことになる(同方法では,球相当径,重量分布として測定することになる。乙第2号証36頁)。


  甲第4号証,第7号証,第8号証及び第14号証(いずれもメーカーのカタログ)には,例えば甲第7号証7枚目の「平均粒子径(μm)〔コールターカウンター法〕のように,いずれも,平均粒径の測定をコールターカウンター法で行ったことが記載されている。


  しかし,(1)で述べたとおり,平均粒径の測定方法は複数あり,そして,乙第3号証ないし第8号証には,前記のとおりコールターカウンター法以外の方法を用いた例が開示されている。コールターカウンター法が,平均粒径の測定方法として一般的なものであると認めることはできない。


  以上のとおりであるから,法36条5項2号の判断の誤りをいう原告の主張は理由がない。


2【法36条4項違反の判断の誤り】について

  1で述べたとおり,本件明細書には,平均粒径の意義,測定方法の特定がなく,また,メーカー名・商品名を明示することにより用いる不活性微粒子を特定してもいない。そうすると,当業者は,どのような不活性微粒子を用いればよいか分からないのであるから,本件明細書は,当業者が発明を実施できるように明確に記載されていないことになる。


  原告は,市販品を入手して追試ができると主張する。


 しかし,この追試をするためには,当業者は,すべての平均粒径の意義・測定方法について,これらを網羅して,平均粒径を測定して本件発明の数値範囲に当てはまるものを用い,本件発明の効果を奏するものかを検証する必要がある。特許は,産業上意義ある技術の開示に対して与えられるものであるから,当業者にそのような過度の追試を強いる本件明細書の開示をもって,特許に値するものということはできない。


  法36条4項違反の判断の誤りを原告の主張も理由がない。


3 結論

  以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,その他,決定に取り消すべき誤りは認められない。よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。