●平成18(ワ)15809損害賠償請求事件「円盤状半導体ウェーハ面取部の
本日は、『平成18(ワ)15809 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟「円盤状半導体ウェーハ面取部のミラー面取加工方法」平成19年09月28日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071001111621.pdf)について取り上げます。
本件は、損害賠償を求めた事件で、その請求が棄却された事案です。
本件では、均等侵害の成立が争点2となり、請求項1における「・・・であって、」の部分が、明細書全体の記載より本件特許発明の本質的部分と判断され、均等侵害の第1要件を満たさず、非侵害と判断された点で、参考になる事案かと思います。
つまり、東京地裁(民事第47部 阿部正幸 裁判長裁判官)は、
『2 争点2(被告方法は本件発明と均等か)について
(1) 原告らは,仮に,被告方法が構成要件Aの「研磨面に対して,円盤状半導体ウェーハの外周の面取部をほぼ全周において押し当てた状態」との要件を充足しないとしても,被告方法は,本件発明の構成と均等である旨主張する。
(2) しかし,本件発明と被告方法との相違する部分である「研磨面に対して,円盤状半導体ウェーハの外周の面取部をほぼ全周において押し当てた状態」との方法を含む構成要件Aは,次のとおり本件発明の本質的部分であることは明らかであるから,これを充足しない被告方法が本件発明の構成と均等であると言うことはできない。
ア 特許発明の本質的部分とは,明細書の特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうち,当該発明特有の課題解決のための手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的部分を意味するものと解される。
本件明細書(甲2)には,次のとおりの記載がある。
(ア) 従来の技術
「ミラー面取化処理は現在以下のような方法で行われている。」(1ページ2欄14行目ないし15行目)との記載に続けて,「すなわち,図6,図7,図8でその概略を示す特開昭64−71657号,または特開昭64−71656号公報に見られるように,表面に研磨布06を付した研磨ドラム01を所定速度で回転させつつ,吸着チャック02で固定した円盤状の半導体ウェーハ03をこの研磨ドラム01に加圧用ウェート04等を利用して押し付け,半導体ウェーハ03の面取部07をミラー面取加工している。」(2ページ3欄1行目ないし8行目)
(イ) 発明が解決しようとする課題
「図7,図8に示されるように回転ドラム01の研磨布06に対して円盤状の半導体ウェーハ03の面取部07が上下に線接触(厳密には研磨布06の弾力で所定の面積で接触)状態でミラー面取加工が行われるため,円盤状の半導体ウェーハ03の片面の面取部07をミラー面取加工するには時間がかかってしまう。そこで例えば加圧用ウェイト04を重くし半導体ウェーハ03を回転ドラム01に強く押し付けることにより,加圧時間は短縮できるのであるが,半導体ウェーハ03は薄い肉厚でかつ脆性が高いため,吸着チャック02の外周に位置する半導体ウェーハ03端部に過度な集中荷重が加わると,一部が欠損することになるため,ミラー面取加工速度を高めることには限界がある。」(2ページ3欄18行目ないし31行目)
(ウ) 課題を解決するための手段
「この特徴を有する本発明のミラー面取加工方法によれば,研磨面に円盤状半導体ウェーハを押し当てようとする力を円盤状半導体ウェーハの外周部に位置する面取部のほぼ全域を使用して支えるようにしたもので,ミラー面取加工の速度に最も必要な押し付け力を高めても,円盤状半導体ウェーハに局部的な荷重が加わらず,加工時の局部欠損を防止でき,延いては円盤状半導体ウェーハの面取部のミラー面取加工速度を飛躍的に高めるものである。」(2ページ4欄2行目ないし10行目)
(エ) 発明の効果
「請求項1の発明によると,研磨面に円盤状半導体ウェーハを押し当てようとする力を円盤状半導体ウェーハの外周部に位置する面取部のほぼ全域を使用して支えるようにしたもので,ミラー面取加工の速度に最も必要な押し付け力を高めても,円盤状半導体ウェーハに局部的な荷重が加わらず,加工時の局部欠損を防止でき,延いては円盤状半導体ウェーハの面取部のミラー面取加工速度を飛躍的に高めるものである。」(4ページ7欄3行目ないし10行目)
上記の記載によれば,本件発明は,従来技術には,研磨面に対して円盤状半導体ウェーハの面取部の一部を押し当てた状態でミラー面取加工が行われるため加工時間が長くなるので,加工時間を短縮しようとして,押し付け力を強くすると,今度は,硬脆材であるウェーハの端部に欠損が生じ,結局ミラー面取加工速度を高めることには限界があるとの課題があるとの認識のもと,同課題を解決するための手段として,研磨面に円盤状半導体ウェーハを押し当てようとする力を円盤状半導体ウェーハの外周部に位置する面取部のほぼ全域を使用して支えるようにしたものであり,このことにより,ミラー面取加工の速度に最も必要な押し付け力を高めても,円盤状半導体ウェーハに局部的な荷重が加わらず,加工時の局部欠損を防止することができ,かつ,円盤状半導体ウェーハの面取部のミラー面取加工速度を飛躍的に高めるという作用効果を奏し,従来技術における上記課題を解決するに至ったものであるから,「研磨面に対して,円盤状半導体ウェーハの外周の面取部をほぼ全周において押し当てた状態」との方法は,まさに本件発明に特有の課題解決のための手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的部分に当たるというべきである。
イ 原告らは,本件発明において本質的な部分は構成要件BないしDである旨主張する。
しかしながら,構成要件BないしDのみでは,研磨面の形状,円盤状半導体ウェーハの回転軸と研磨面との関係,研磨面の回転軸と円盤状半導体ウェーハの回転軸との関係をいうのみで,研磨面と円盤状半導体ウェーハの位置関係(当接関係)を何ら特定していない(構成要件Bは,単に「ほぼ全周において押し当て可能」としているにすぎない。)ことになるから,構成要件BないしDだけを充足する方法の中には,円盤状半導体ウェーハの外周面取部のごく一部しか研磨面に当接しない場合まで含まれてしまい,このような方法が,本件発明の上記作用効果を得られるとは限らないことになる。
すなわち,構成要件Aを欠く場合には,上記作用効果を奏するとは限らないのであるから,構成要件Aは本件発明の中核をなす本質的部分であることが明らかである。
ウ また,原告らは,構成要件Aの末尾の体裁が,「・・・であって,」となっていることをもって,構成要件Aが本件発明の本質的部分ではないことの証左である旨主張する。しかしながら,記載の体裁のみで当該発明の本質的部分が決まるものではない。構成要件Aが上記体裁をとっていたとしても,前記アの判断を左右するものではないことは既に説示したところから明らかである。
(3) なお,被告は,原告らの上記主張は時機に後れた攻撃方法であるから,却下されるべきである旨主張する。
しかしながら,弁論の全趣旨により認められる本件訴訟の進行に照らせば,原告らによる上記予備的主張の提出により,訴訟の完結を遅延させることになるとは認められない。
したがって,原告らの上記主張を却下すべきであるとはいえない。
3 結論
よって,原告らの本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないから,これをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 』
と判示されました。
なお、本件特許請求の範囲の請求項1は、
「凹形状をなす研磨面に対して,円盤状半導体ウェーハの外周の面取部をほぼ全周において押し当てた状態で,この研磨面と円盤状半導体ウェーハとの相対的回転を与えることにより,円盤状半導体ウェーハの外周の面取部のミラー面取加工を行うようにしたミラー面取加工方法であって,
前記凹形状をなす研磨面が,円盤状半導体ウェーハの外周面取部をほぼ全周において押し当て可能な曲率半径の球内面形状であり,この球内面の中心点に円盤状半導体ウェーハの回転軸を一致させ,かつ研磨面の回転軸と前記円盤状半導体ウェーハの回転軸とを不一致とさせ,少なくとも前記研磨面をその回転軸で強制的に回転させるようにしたことを特徴とする円盤状半導体ウェーハ面取部のミラー面取加工方法。」
であります。
詳細は、本判決文を参照して下さい。
追伸1;<気になった記事>
●『AMD,3Dグラフィックス技術の特許をQUALCOMMにライセンス供与』http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20071003/283649/?ST=network
●『QUALCOMM社、次世代携帯機器向けチップセットにAMD社の3Dグラフィックス技術を採用 』http://www.ednjapan.com/content/l_news/2007/u3eqp30000019qld.html
●『フィリップス、特許侵害訴訟で1億ドルの損害賠償金を獲得(Finnegan Henderson)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=1989
●『米連邦巡回高裁、台湾晶元光電の提訴を却下=米フィリップス〔BW〕(時事通信)』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071003-00000107-jij-biz
追伸2;<新たに出された知財判決>
●『平成19(ネ)713等 著作権に基づく差止請求権不存在確認請求控訴事件,同附帯控訴事件 著作権 民事訴訟「ベアトリクス・ポターの著作物」平成19年10月02日 大阪高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071003092524.pdf
●『平成18(ワ)4737 商標権侵害差止等請求事件 商標権 民事訴訟「Love ラブ」平成19年10月01日 大阪地方裁判所』(認容判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071003155856.pdf