●平成18(ネ)10003 著作権存在確認等請求控訴事件 著作権(2)

 今日は、昨日に続き『平成18(ネ)10003 著作権存在確認等請求控訴事件 著作権』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070104101733.pdf)事件において、本件各プログラムが職務著作として事業団が著作者となるか(争点2)について取り上げます。


 つまり、知財高裁は、本件各プログラムが職務著作として事業団が著作者となるか(争点2)について、

『(1) 法は,2条1項1号において,「著作物」とは,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と定義し,これを受け,同項2号において,「著作者」とは,「著作物を創作する者をいう。」と定義しているところ,思想又は感情を創作的に表現し得るのは自然人のみであるから,元来,著作者となり得るのは自然人である。


 しかし,他方で,法は,旧15条において,「法人その他使用者(以下この条において『法人等』という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物で,その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は,その作成の時における契約,勤務規則その他に別段の定めがない限り,その法人等とする。」と規定し,現行15条においては,

「1 法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で,その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は,その作成の時における契約,勤務規則その他に別段の定めがない限り,その法人等とする。」,

「2 法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物の著作者は,その作成の時における契約,勤務規則その他に別段の定めがない限り,その法人等とする。」

と規定しており,法人等が著作者になり得るものとしている。


 このような法の規定の仕方にかんがみると,法は,旧15条及び現行15条1項を通じて,著作行為をし得るのは,自然人であるとの前提に立ちつつ,著作権取引等の便宜を考慮し,法人等において,その業務に従事する者が指揮監督下における職務の遂行として法人等の発意に基づいて著作物を作成し,これが法人等の名義で公表されるという実態があることにかんがみ,法人等を著作者と擬制し,所定の著作物の著作者を法人等とする旨規定したものであるが(最高裁平成15年4月11日第二小法廷判決・判時1822号133頁参照),プログラムの著作物については,プログラムの多くが,企業などの法人において多数の従業員により組織的に作成され,その中には,本来公表を予定しないもの,無名又は作成者以外の名義で公表されるものも多いという実態があるなどプログラムの特質にかんがみ,現行15条2項において,公表名義を問うことなく,法人等が著作者となる旨定めたものと解するのが相当である。


 ところで,職務著作が成立するためには,上記のとおり,「法人等の発意」があり,「法人等の業務に従事する者」による「職務上作成する著作物」であり,さらに,旧15条においては,「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」であることをも要件としている。


 そして,昭和60年法律第62号附則2項により,現行15条2項の規定は,同法の施行(昭和61年1月1日)後に創作された著作物について適用され,同施行前に創作された著作物については,旧15条が適用されるところ,前記2及び3の認定判断に照らせば,本件各プログラム(ただし,著作物性が否定される本件プログラム11を除く。)のうち,本件プログラム3についてのみ現行15条2項が適用され,その余は旧15条が適用されることとなる。


 「法人等の発意」の要件については,法人等が著作物の作成を企画,構想し,業務に従事する者に具体的に作成を命じる場合,あるいは,業務に従事する者が法人等の承諾を得て著作物を作成する場合には,法人等の発意があるとすることに異論はないところであるが,さらに,法人等と業務に従事する者との間に雇用関係があり,法人等の業務計画に従って,業務に従事する者が所定の職務を遂行している場合には,法人等の具体的な指示あるいは承諾がなくとも,業務に従事する者の職務の遂行上,当該著作物の作成が予定又は予期される限り,「法人等の発意」の要件を満たすと解するのが相当である。


 また,「職務上作成する著作物」の要件については,業務に従事する者に直接命令されたもののほかに,業務に従事する者の職務上,プログラムを作成することが予定又は予期される行為も含まれるものと解すべきである。


 さらに,「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」の要件については,公表を予定していない著作物であっても,仮に公表するとすれば法人等の名義で公表されるべきものを含むと解するのが相当である。』


と判示して、著作権法15条の職務著作の要件を説明しています。



 そして、知財高裁は、具体的に、

『本件についてみると,控訴人は,本件各プログラムの作成時において,事業団に雇用され,事業団の開発部員として,事業団の業務に従事する者であったから,「法人等の業務に従事する者」であることが明らかである。また,事業団には,職員作成のプログラムについて,職員を著作者とする旨を定める就業規則等はなく,控訴人と事業団との間においても,同旨を定める契約等はなかったことは,前記第2の2において引用する原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1(5)のとおり,当事者間に争いがない。


 そうすると,本件において職務著作の成否を検討するに当たっては,(i)「法人等の発意」があり,(ii)「職務上作成する著作物」であって,(iii)「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」であるとの要件を満たすか(ただし,本件プログラム3については,(iii)の要件が不要であることは,前述のとおりである。)が問題となるので,順次,検討する。


(2) 本件プログラム15及び19について

ア 前記1(1)認定の事実によれば,事業団では,ロケットや人工衛星の全体的把握とシステム運用・ミッション達成の業務遂行のために各種プログラムの開発が必要であったことから,技術系職員の間で,プログラム作成は,ほぼ必須のものとされ,昭和52年4月には,事業団の開発業務に係るソフトウェアの開発及び整備に関する業務を有効かつ適切に実施するため,ソフトウェア委員会が設けられたこと,控訴人は,昭和49年4月1日,事業団に任用され,開発部員として辞令を受け,昭和52年1月11日,飛行安全管理室から試験衛星設計グループ(組織改正後は衛星設計第1グループ)に異動となり,上司のaの指示を受け,aの留学の後には,その後任として,ECS用ミッション解析プログラム群の作成,とりまとめを担当し,他の同グループ部員とともに,事業団により認可されたECS用のミッション解析及びそのプログラム群の作成に従事しており,このような状況の中で,ECS用のミッション解析及びそのプログラム群に含まれる本件プログラム15及び19を作成したことが認められる。


イ 「法人等の発意」の要件についてみると,控訴人は,ECS用のミッション解析及びそのプログラム群の作成に従事していたところ,上記各プログラムの作成は,上司のaの指示を受け,aの留学の後には,その後任として,プログラム作成に当たったものであるから,控訴人が,法人等から作成を命じられたプログラムであるというべく,上記各プログラムの作成について,事業団の発意を認めるのが相当である。


ウ 「職務上作成する著作物」の要件についてみると,本件プログラム15及び19は,ECS用のミッション解析及びそのプログラム群の作成に従事していた中で,そのプログラム群に含まれるものであったのであるから,控訴人の「職務上作成する著作物」であることが明らかである。


エ 「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」の要件についてみると,本件プログラム15及び19は,いずれも,前記のとおり,事業団,特に試験衛星設計グループの遂行しているECSミッション解析プログラム群に含まれるプログラムであり,現実に公表はされていないが,公表されるとすれば,当然,事業団の名義により公表されるべきものであると認められる。

・・・

カ 以上によると,本件プログラム15及び19は,職務著作として,事業団がその著作者となるものというべきである。』

と判示されました。


 プログラムは著作物としてだけでなく発明としても成立するので、プログラムが発明として成立した場合には、発明者はそのプログラムを創作した自然人であり、職務発明に該当すれば特許法第35条等によりその使用者等から一定の保護が認められるのに対し、プログラムが著作物として成立しても、職務著作であれば著作権法第15条により著作者はその法人等になり、同一プログラムの創作が職務発明および職務著作として成立した場合、昔から色々と指摘されていた?ようですが問題があるような気がします。


 職務発明と職務著作との関係等について、昨日紹介したパテント12月号を初めに少し勉強しようと思います。


追伸1;<気になった記事>
●『即席・カップめん発明、安藤百福さん死去』
http://osaka.yomiuri.co.jp/news/20070106p101.htm
・・・「一方、チキンラーメン発売後、後発メーカーによる製法特許侵害が相次いだことから、業界内の調整を図るため、64年に社団法人日本ラーメン工業協会(現・日本即席食品工業協会)を設立、自ら理事長に就任した。」という点が気になります。

●『■特許庁、19年度予算で地域団体商標関連を強化』
http://tiiki.jp/news/org_news/01policy/2007_01_06JPO.html
●『米ワーナー・ブラザーズHD DVDBlu-ray両対応のディスク発表』
http://jp.ibtimes.com/article/technology/070106/3378.html
●『LG、Blu-rayHD DVDのハイブリッドDVDプレーヤー開発』
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0701/05/news020.html

●『ネット検索業者育成 著作権の許諾不要に』
http://www.asahi.com/digital/internet/TKY200701050282.html

・・・この記事によれば、まず、
『米グーグルや米ヤフーのようなインターネット検索ビジネスを日本の事業者ができるように、日本でも著作権者の許諾なしに著作物のキーワードや索引の編集・利用が認められる見通しになった。政府の知的財産戦略本部(本部長・安倍首相)と経済産業省著作権法の年内改正をめざす方針を固めた。・・・ ネット検索用のデータベースを作るには、文章や画像などの著作物のデータの一部を複製(コピー)し、検索しやすいキーワードや索引を設ける編集作業をする必要があるが、日本では著作権者の許諾なしにそれが認められていなかった。改正では、著作権法で許諾を得ずに複製や編集が認められる例外項目に「検索のための複製や編集」を盛り込む方針。』
とのこと。


 また、
『「米国発」の検索サービスを日本国内の利用者が日常的に使っており、日本の著作権法の規定がすでに形骸(けいがい)化しているという事情もある。

 いま世界の検索市場を分け合っているのはグーグル、ヤフー、マイクロソフトの米3社。いずれも検索システムを米国に置く。経産省は日本企業とともに文字や動画、音声などネット上のあらゆる情報を検索できる次世代技術を開発中で、3〜5年後の実用化をめざしている。ただ、これが成功しても著作権法が今のままでは心臓部のシステムの米国依存が続いてしまう、という懸念が政府にはあった。』
とのこと。


 「文字や動画、音声などネット上のあらゆる情報を検索できる次世代技術」とは、今ひとつ不明ですが、MPEG-7やMPEG-21等におけるメタデータ等を利用した検索技術とすれば、かかる次世代検索技術でも国際標準技術のし烈な主導権争いが始まりそうです。