●平成18(ネ)10003 著作権存在確認等請求控訴事件 著作権 (1)

 今日は、『平成18(ネ)10003 著作権存在確認等請求控訴事件 著作権』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070104101733.pdf)について取り上げます。


 著作権法弁理士試験の試験科目に入る前の旧試験制度時代に弁理士になったことや、実務上あまり著作権にタッチしないこともあり、著作権法は苦手というか、勉強してもほとんど頭に残りません。


 著作権法は、どうやって勉強したら一番良いのか分りませんが、とりあえずは、少しずつ判例等により勉強していこうと思います。



 なお、本日、会社にて「パテント2006年12月号」を受け取りました。ちょうどタイミング良く、この「パテント2006年12月号」の中に、日本弁理士会著作権委員会会長の中川裕幸様の「弁理士のための著作権法FAQ」という論文が掲載されており、今週末は、できる範囲で、上記判決とこの論文を読んでみようと思います。


 さて、本事件は、控訴人の請求は棄却されましたが、プログラムの著作性や、控訴人が著作者になるか、それとも控訴人の使用者である法人(宇宙開発事業団)が著作者になるのか等、色々な争点について判断されていますので、分けて取り上げていきたいと思います。


 まず、知財高裁は、本件プログラム5,11ないし13及び15は著作物といえるか(争点3)について、

『(1) 法2条1項1号が,「著作物」の意義について,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と規定していることからすれば,法によって保護されるのは,直接には「表現したもの」自体であり,思想又は感情自体に保護が及ぶことがあり得ないのはもちろん,思想又は感情を創作的に表現するに当たって採用された手法や表現を生み出すもとになったアイデア(着想)も,それ自体としては保護の対象とはなり得ないものというべきである。


 また,ある表現物を創作したというためには,対象となる表現物の形成に当たって,自己の思想又は感情を創作的に表現したと評価される程度の活動を行ったことが必要であり,当該表現物において,その者の思想又は感情を創作的に表現したと評価される程度に至っていない場合には,法上の創作には当たらない,言い換えると,著作物性を有しないものと解すべきである。


 そして,この点は,当該表現物がプログラムである場合であっても何ら異なるところはないが,小説,絵画,音楽などといった従来型の典型的な著作物と異なり,プログラムの場合は,「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(法2条1項10の2)であって,元来,コンピュータに対する指令の組合せであり,正確かつ論理的なものでなければならないとともに,プログラムの著作物に対する法による保護は,「その著作物を作成するために用いるプログラム言語,規約及び解法に及ばない。」(法10条3項柱書1文)ところから,所定のプログラム言語,規約及び解法に制約されつつ,コンピュータに対する指令をどのように表現するか,その指令の表現をどのように組み合わせ,どのような表現順序とするかなどといったところに,法によって保護されるべき作成者の個性が表れることとなる。


 したがって,プログラムに著作物性があるといえるためには,指令の表現自体,その指令の表現の組合せ,その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅が十分にあり,かつ,それがありふれた表現ではなく,作成者の個性が表れているものであることを要するものであって,プログラムの表現に選択の余地がないか,あるいは,選択の幅が著しく狭い場合には,作成者の個性の表れる余地もなくなり,著作物性を有しないことになる。


 そして,プログラムの指令の手順自体は,アイデアにすぎないし,プログラムにおけるアルゴリズムは,「解法」に当たり,いずれもプログラムの著作権の対象として保護されるものではない。

(2) 本件プログラム15(軌道伝播解析プログラム〔B010プログラム〕)について

ア 前記1(2)によれば,本件プログラム15は,12個のサブルーチンからなる軌道伝播解析プログラムであり,衛星軌道面座標系と慣性座標系により座標変換する式 による軌道伝播要素の公式を基礎とP.M.Fitzpatrickして,「地球重力による摂動」,「大気抵抗による摂動」,「大気密度」を考慮しつつ,衛星軌道要素の時間的変化を求めるものであり,上記理論式を軌道伝播解析という目的に合わせて展開し,入出力その他の条件を設定した上で,これをプログラミングしたものであるが,中心となる「GENPER」は131ステップ,「KEPLER」は47ステップのサブルーチンであり,式の展開,入出力その他の条件を設定に対応して,各ステップの組合せ,その順序,サブルーチン化などで,多様な記載が可能であるところ,作成者の工夫がこらされており,その個性が認められるから,著作物性を有するものというべきである。



イ 被控訴人らは,本件プログラム15の理論式は公知のものであり,「GENPER」,「KEPLER」にも控訴人の独自性が表現されていないなどとし,本件プログラム15には著作物性がない旨主張する。


 しかし,衛星軌道面座標系と慣性座標系により座標変換する式による軌道伝播要素の公式は公知のものであっても,これP.M.Fitzpatrickを軌道伝播の解析に使用するに当たって,式の展開,入出力その他の条件の設定に対応して,各ステップの組合せ,その順序,サブルーチン化などで,多様な記載が可能であり,その中で,控訴人なりの表現をしているのであるから,著作物性があるというべきである。

 被控訴人らの上記主張は,採用することができない。


(3) 本件プログラム5(DOPPLER〔B063〕)について

・・・

 上記のとおり,本件プログラム5は,多数のサブルーチン,多数のステップのプログラムであり,式の展開,入出力その他の条件の設定に対応して,各ステップの組合せ,その順序,サブルーチン化などで,多様な記載が可能であるところ,作成者の工夫がこらされており,その個性が認められるというべきであるから,著作物性を有するものというべきである。
・・・

(4) 本件プログラム12(KALMAN〔オリジナル,6次元〕)及び13(KALMAN〔オリジナル,9次元〕)について

・・・


ア 前記1(6 )オによれば,本件プログラム12は,控訴人が,昭和56年10月に完成させたランデブー解析プログラム「TAKAKO」の一部分を構成するもので,30個のサブルーチンからなり,それ自体は,軌道上の衛星等の状態量(位置,速度)を,確率論的手法であるカルマンフィルタを用いて推定し,その推定値の誤差分散も求めるプログラムである。


 本件プログラム12は,公知の確率論的手法であるカルマンフィルタを基礎とするものであるが,サブルーチン「ANGLE」(16ステップ),「ELM1」(20ステップ),「ELM2」(76ステップ),「EULER」(19ステップ)などによって特徴付けられていることが認められ,式の展開,入出力その他の条件の設定に対応して,各ステップの組合せ,その順序,サブルーチン化などで,多様な記載が可能であるところ,作成者の工夫がこらされているというべきであり,その個性が認められるから,著作物性を有するものというべきである。

・・・

 本件プログラム13は,公知の確率論的手法であるカルマンフィルタを基礎とするものであるが,「ANGLE」,「DENPA1」,「ELM1」,「ELM2」,「EULER」,「MOTOR」,「TMXA」のサブルーチンに特徴があり,特に「TMXA」は,169ステップの大きなサブプログラムで,誤差変換行列(9次元)の計算を行っており,式の展開,入出力その他の条件の設定に対応して,各ステップの組合せ,その順序,サブルーチン化などで,多様な記載が可能であるところ,作成者の工夫がこらされており,その個性が認められるから,著作物性を有するものというべきである。

・・・

ウ 被控訴人らは,原審で,本件プログラム12及び13の基礎式は,カルマン基本理論式,宇宙システムに応用するために東京工科大学名誉教授nが著書で発表した基本理論式とほぼ同一であり,特段の独自性を有するものではないとし,本件プログラム12及び13には著作物性がない旨主張している。


 しかし,ここで問題となるのは,カルマンフィルタが独自性を有するかどうかではない。本件プログラム12,13は,公知のカルマンフィルタを単にプログラムに書き換えただけのものではなく,公知のカルマンフィルタを利用してまとまったプログラム体系を構築し,記載したところに創作性が認められるから,被控訴人らの主張は,採用することができない。

(5) 本件プログラム11(STAT〔オリジナル〕)について

ア 証拠(甲16,114)及び弁論の全趣旨によれば,本件プログラム11の各ステップの記載は,以下のとおりであると認められる(別紙2参照)。

・・・


イ 本件プログラム11の第1ないし第7のステップは,変数を列挙するとともに,変数に代入する数字を定めている。変数に代入する数字は,計算式とは別に定まるものであるから,ここで選択する余地があるのは,変数とする記号として何を選ぶかという程度である。

第8ステップは,

・・・

 これをFORTRAN言語で表現したものであるが,式の展開に工夫の余地はほとんど認められず,同ステップは,変数によって必然的に導かれるものであって,選択の余地はないというほかない。


 第9ないし第12ステップの記載は,下記の公知のルミヤンステフの式(乙203)をプログラムに書き換えたものであるが,同各ステップは,式の展開に工夫の余地がほとんど認められず,かつ,選択の余地もほとんどない。


 第13ステップは,計算に使った変数及び解を印刷するための基本的なFORTRAN言語であるWRITE文(乙204の1)であって,選択の余地がない。


 第14ステップは,プログラムを終了させるための基本的なFORTRAN言語であるEND行(乙204の1)であって,選択の余地がない。


 さらに,各ステップの論理的順序をみても,変数へのデータ設定,計算,データ出力の3段階からなるありふれた流れであって,選択の幅は,著しく狭いものである。


 そうすると,本件プログラム11は,全体として表現に選択の余地がほとんどなく,わずかに表現の選択の余地のある部分においても,その選択の幅は著しく狭いものであるから,上記計算式を基礎にFORTRAN言語でプログラムを作成しようとする場合,本件プログラム11のようになることは避けられず,作成者の個性を反映させる余地はないものとして,その著作物性は否定すべきである。


ウ 控訴人は,本件プログラム11は,式も量的にも簡単なプログラムであるが,公知の基礎方程式を自由に計算し,解析できるようにしたものであり,作成した時点で,このようなプログラムはなかったのであるから,著作物性が認められるべきであると主張する。


 しかし,本件プログラム11は,控訴人も認めるとおり,式も量的にも簡単なプログラムで,公知の基礎方程式をプログラムに置き換えて,コンピュータにより計算し,解析することができるものであって,当該プログラムの記載に選択の余地がないものであるから,仮に,作成した時点で,このようなプログラムはなかったとしても,著作物性があるとはいえない。』


と判示されました。



 プログラムが著作権法上の著作物に該当するめには,多数のサブルーチンや,多数のステップがあって、指令の表現自体,その指令の表現の組合せ,その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅が十分にあり,かつ,それがありふれた表現ではなく,作成者の個性が表れているものであることを要するに対し,プログラムの表現に選択の余地がないか,あるいは,選択の幅が著しく狭い場合には,作成者の個性の表れる余地もないので、著作物性を有さない、ものとまずは理解しました。


 でも、多数のサブルーチンや多数のステップとか、またはプログラムの全体に選択の幅が十分にあると言われても、幾つ以上あれば選択の幅が十分なのか明確に示されていませんので、簡単なプログラムについては著作物に該当するのか、個人的には明言できないものと思いました。



追伸:<気になったニュース>
●『秋草会長 年頭所感』(JEITA
http://www.jeita.or.jp/japanese/hot/2007/0105/index.htm
●『会長からのご挨拶』(日本弁護士連合会)
http://www.nichibenren.or.jp/ja/jfba_info/kaityou_aisatsu/kaityou_aisatsu.html
●『「包括ライセンス契約による通常実施権の登録制度の創設について」に対する意見』(日本ライセンス協会)
http://www.lesj.org/contents/japanese/image/03jyoho/word/ikensyo.doc
●『「SED量産工場白紙」報道,キヤノンは否定も肯定もせず』
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070104/126047/
●『特許侵害に関する独ODSの主張に反論=米MPEG LA〔BW〕』
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070105-00000085-jij-int
●『ソーテック、前社長に知財権の返還を請求』
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0701/05/news070.html
●『【CESプレビュー】UWB無線搭載のベンツが登場へ,DaimlerChryslerが試作』
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070105/126049/
●『【CESプレビュー】韓国Samsung,両面表示可能なモバイル向け液晶パネルを開発』
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070104/126046/
●『大手家電メーカーが支援する「Marlin」DRM向けの暗号鍵管理団体が運営を開始』
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070105/126048/
●『「経済産業省告示(弁理士法施行規則第四条第二号及び第五号の経済産業大臣が認める者を定めた件)の一部改正案」に対する意見募集の結果について』
http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/iken/iken_benris_kisokui2.htm
●『違法投稿に日本ピリピリ ユーチューブと著作権団体が協議へ』
http://www.business-i.jp/news/ind-page/news/200701050013a.nwc
●『海賊版ブランド製品:「根絶すべき」は55.2%』
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2007&d=0105&f=research_0105_001.shtml
●『“得其意忘其形”その2:商標登録の失敗例と成功例』
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2007&d=0105&f=column_0105_002.shtml
●『産業天気図07/(晴ところにより雨)デジタル家電
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070104-00000002-nkn-ind

●『条件なしで月額基本料980円に--ソフトバンク予想外割に続く新プラン発表』
http://japan.cnet.com/news/com/story/0,2000056021,20340234,00.htm
●『「今回はひっかけ無し」,ソフトバンクモバイルが月額980円の新料金プランを発表』
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070105/126063/
●『【速報】ソフトバンクモバイルが月額980円の「ホワイトプラン」発表』
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070105/258143/?ST=service
●『【続報】「ホワイトプランを主力に」と孫社長,競合他社は当面静観』
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070105/258153/?ST=service
●『反省して学習した「ホワイトプラン」が狙う携帯市場――ソフトバンク孫社長
http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/0701/05/news086.html

・・・知財ネタとは関係ありませんが、ソフトバンク孫正義さんのやることは凄いですね!ドコモやAUはどうやって立ち向かうのでしょうか?携帯も大競争が始まりそうです!!

●『YouTubeの日本ビジネス展開、権利者側は協議拒否の方針』
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0701/05/news066.html
●『Time WarnerBlu-rayHD DVD両対応のディスク発表へ』
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0701/05/news072.html
●『PC向けHD−DVDドライブ、東芝がサンプル出荷へ』
http://www.asahi.com/digital/
●『中国の次世代DVD規格「EVD」再始動で,Blu-ray/HD DVD両陣営も動く』
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20061222/125751/
●『EVD』
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/WORD/20061218/125577/
●『鳥インフルエンザ・チップが実用化へ、米Quidel社が市場投入』
http://www.eetimes.jp/contents/200701/13857_1_20070105184316.cfm

●『米財団,Bluetoothの特許侵害で松下,SamsungNokiaを訴える』
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070105/126065/
・・・本訴訟の特許番号が明らかにさていると共に、訴状等がリンクされています。
●『コダックソニー、特許係争で和解 』
http://www.usfl.com/Daily/News/07/01/0105_001.asp?id=52030