●平成22(ワ)42609 特許権使用差止等請求事件「法面等の加工機械」

 本日は、『平成22(ワ)42609 特許権使用差止等請求事件 特許権 民事訴訟「法面等の加工機械」平成25年8月30日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130919172200.pdf)についてと取り上げます。


 本件は、特許権使用差止等請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、争点1(構成要件H充足性)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第29部 裁判長裁判官 大須賀滋、裁判官 小川雅敏、裁判官 西村康夫)は、


『1 争点1(構成要件H充足性)について

 本件発明の構成要件Hは,「前記車体あるいはベース板の一方の両側部に互いに距離を置いて取付けられた一対のウインチであって,該車体を支持し,かつ上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る一対のウインチとからなることを特徴とする」というものである。


 原告において構成要件Hにいう「ウインチ」に対応すると主張するイ号物件の後側ドラム6aは,車体後方の両側部に互いに距離を置いて取付けられ,車体を支持する一対のワイヤー(鋼索W)のそれぞれを巻き取ることができるところ,これが「前記車体あるいはベース板の一方」に取付けられているといえるか,また「上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る」ウインチといえるか争いがあるので,以下検討する。


(1) 「前記車体あるいはベース板の一方」について


ア まず,「前記車体あるいはベース板の一方」につき,原告は,「『車体』あるいは『ベース板』のどちらか一方」を意味すると主張するのに対し,被告らは,「『車体の前方』あるいは『ベース板の前方』」を意味すると主張するので,その意義について検討する。


 特許請求の範囲に記載された用語は,明細書全体を通じて統一して使用されるべきところ(特許法施行規則24条,様式29備考8),本件明細書における「一方」という用語の使い方は以下のとおりである。


 ・・・省略・・・


(エ) 本件明細書において,「一方」という用語を,1つの部材における位置関係を示すのではなく,「2つの選択可能な物のどちらか」という意味で使用している箇所は存在しない。


(オ) そうすると,構成要件Hにいう「前記車体あるいはベース板の一方」とは,「車体あるいはベース板のうち,枢支ピンが存在する側」の意味に解するのが相当である(また,構成要件Eの「車体の他方」とは,枢支ピンを支点とする回動を生じさせる回動機構が存在する側と解するのが相当である。)。


イ これをイ号物件についてみると,イ号物件の後側ドラム6aは車体の回動機構が存在する側(後方)に取り付けられ,車体の枢支ピンが存在する側(前方,「車体の一方」)にも,ベース板の枢支ピンが存在する側(前方,「ベース板の一方」)にも取り付けられていないから,イ号物件は,「前記車体あるいはベース板の一方……に……取付けられた……ウインチ」を充足しない。


(2) 「上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る」について
ア 次に,「上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る一対のウインチ」の意義については,この要件が当初の請求項2の「ワイヤーを巻き取る一対のウインチ」(甲1)から減縮訂正されたものであること(甲6,8)から考えると,上方が拡開する状態で張設された(いわゆる逆ハの字の)ワイヤーを巻き取ることが不可能ではないという程度では足りず,一対のウインチが,「上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る」のに適した構造を有していることを要求しているものと解するのが相当である(甲8・16頁,乙19・18頁)。


イ そこで,イ号物件が逆ハの字のワイヤーを巻き取るのに適した構造を有しているといえるか検討する。


イ号物件において構成要件Hの「ウインチ」に対応する後側ドラム6aは,それ自体としては特に逆ハの字のワイヤーを巻き取るのに適した構造を有しているとは認められない(なお,甲7・8頁の図は,10頁に「施工機にはウィンチ1台に主ワイヤー1本と補助ワイヤー2本があり」とあることなどからして,左右一対のウインチを有するイ号物件に関するものとは認められない。)。


ウ イ号物件は,車体前方にフェアリーダーを設置して使用されていたことが認められる(乙20)が,構成要件Hは,ウインチ自体の構造として逆ハの字のワイヤーを巻き取るのに適した構造を要求しているのであるから,イ号物件における後側ドラム6aが逆ハの字のワイヤーを巻き取るのに適した構造を有しておらず,構成要件Hにいう「上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る一対のウインチ」といえない


 以上,イ号物件が構成要件Hを充足するとはいえない。


(3) 以上によれば,イ号物件は構成要件Hを充足しない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。