●平成23(ワ)6878 特許権侵害差止等請求事件「着色漆喰組成物の着色

 本日も、『平成23(ワ)6878 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟「着色漆喰組成物の着色安定化方法」平成25年8月27日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130911131655.pdf)について取り上げます。


 本件では、争点2−1(不正競争行為(不正競争防止法2条1項13号)該当性)についての判断も参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第21民事部 裁判長裁判官 谷有恒、裁判官 松阿彌隆、裁判官 松川充康)は、


『5争点2−1(不正競争行為(不正競争防止法2条1項13号)該当性)について


 被告が製造販売していた被告製品2は,商品名を「しっくいHR」(被告表示2)とするものであるが,石灰を含有していなかった。また,被告は,被告製品1と同じ「しっくいペイントAg+」(被告表示1)の商品名で,石灰を含有しない内装左官仕上材(被告製品1’)を製造販売したことがある。このように石灰を含有しない製品について,「しっくい」の文字を含む商品名である被告表示1又は被告表示2を付することが,不正競争防止法2条1項13号の定める不正競争行為(品質等誤認惹起行為)に当たるかを,以下検討する。


(1) 漆喰の意味

 掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,「漆喰」の用語について,以下の事実が認められる。漆喰について,法令上の定義はないが,日本漆喰協会では,漆喰を消石灰あるいはドロマイトプラスターを主たる固化剤とする塗壁材料(屋根漆喰も含む)で,全重量比で消石灰及びドロマイトプラスターの重量が30%以上のものと定義している(乙10)。日本漆喰協会会長が用語監修をした書籍も,漆喰とは消石灰を原料とする塗壁材であり,「漆喰」という言葉が「石灰」という言葉の唐音に当て字されたものと言われている旨説明するほか,石灰石マグネシウムなどが化合したドロマイトを原料とする左官材をドロマイト漆喰と呼ぶ旨説明しており(甲33),他の建築関連の文献やウェブサイトにも同旨の記載がある(甲34,56,57,乙3)。また,「広辞苑(第4版)」(岩波書店)において,「(「石灰」の唐音という)わが国独特の塗壁材料。消石灰にふのり・苦汁などを加え,これに糸屑・粘土などを配合して練ったもの。広義には,石膏・石灰・セメントなどをそのまま,または砂などをまぜて作ったモルタル漆喰をもいう。白土。」と説明されている(乙9)ほか,「日本国語大辞典(第2版)」(小学館)などにおいても,漆喰は「石灰」の唐音であるなど同旨の記載がされている(甲55,58)。


(2)市場の実情

 被告は,市場の実情としては,上記(1)で認定の定義などに該当しない製品も,石灰を原料とする塗壁材たる漆喰と同様の機能を備えているものは,漆喰として扱われ,表示されている旨主張する。


 しかし,その根拠とする製品のうち「アレスシックイ」(乙11)は,消石灰を含有する製品であり,被告主張の根拠になるものではない。また,商品名を「水性しっくい風かべ塗料」とする製品(乙12)は,石灰を含有するか否かが不明である上,「風」の文字を「しっくい」の後に加えることで,漆喰そのものではないことを示唆しているため,やはり被告主張の根拠とはならない。


 一方,商品名を「漆喰美人」とする製品(乙13)は,石灰を含有していないにもかかわらず,「漆喰」の文字を含む商品名が付されているが,同製品に係るウェブサイトでは,同製品について,「漆喰のように美しく」,「漆喰より調湿する素材にしたかった」など,同製品が漆喰ではないことを前提とした説明がされており,石灰を含有しなければ漆喰ではないとの理解に立っているといえる。他に被告の上記主張を認めるに足りる証拠はない。


(3)「しっくい」の文字を含む商品名が品質等について誤認させるような表示に当たるか


 上記(1)及び(2)の事情に照らせば,被告製品1’及び被告製品2の需要者及び取引者は,商品名に「しっくい」の文字が含まれていれば,「しっくい風」など漆喰そのものでないことを示す文字等と一体の場合でない限り,石灰又はドロマイトプラスターを含有するものと認識するのが通常と考えられる。


 ところが,被告製品2は,その具体的成分は必ずしも明らかでないものの,石灰又はドロマイトプラスターを含有するものでない(弁論の全趣旨)にもかかわらず,「しっくい」の文字を含み,かつ,漆喰そのものでないことを示す文字等を含まない「しっくいHR」との表示(被告表示2)が付されていた。そのため,被告は,需要者及び取引者に対し,石灰又はドロマイトプラスターを含有する製品である旨その内容について誤認させるような表示をしたといえるから,不正競争防止法2条1項13号の定める不正競争行為を行ったといえる。


 また,被告は,やはり石灰又はドロマイトプラスターを含有するものでない被告製品1’に,「しっくい」の文字を含み,かつ,漆喰そのものでないことを示す文字等を含まない「しっくいペイントAg+」との表示(被告表示1)を付したものである。この行為も,需要者及び取引者に対し,石灰又はドロマイトプラスターを含有する製品である旨その内容について誤認させるような表示をしたものとして,不正競争防止法2条1項13号の定める不正競争行為に当たるといえる。


6争点2−2(原告は不正競争によって営業上の利益を侵害され又は侵害されるおそれがある者か)について


 証拠(甲29,30,42〜47,59)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,被告製品1’及び被告製品2と市場において競業する製品を製造,販売していることが認められるところ,被告の前記5の不正競争行為によって,「営業上の利益を侵害され,又は侵害されるおそれがある者」(不正競争防止法3条1項)に該当する。したがって,原告は,被告に対し,不正競争行為の差止めを請求することができる地位を有する。


 ところで,被告は,被告表示2を付した製品について,平成24年8月1日ころ以降,販売をしていないと主張するが,本件訴訟における被告の主張内容,経過などからして,なお侵害のおそれは消失しておらず,また,被告表示2を付した製品の在庫が残存している可能性も否定できないため,差止め及び廃棄の必要性が認められる。


 また,被告による被告表示1を付した被告製品1’の販売は,平成22年9月の試験的な販売のみにとどまり,平成24年8月1日以降は,被告表示1の使用自体が行われていないが,原告に対する平成23年3月25日付けの書面において,被告表示1を付した製品につき,「今後はまったく『石灰』を含まない配合とすることといたしました。」と述べていた(甲11)ことのほか,本件訴訟における被告の主張内容,経過などからして,なお侵害のおそれは消失しておらず,やはり差止めの必要性が認められる。


 ただし,原告は,内装仕上材の構成を特に限定することなく,被告表示1の使用を差し止めるよう求めているが,不正競争防止法2条1項13号の定める不正競争行為に当たるのは,あくまで石灰又はドロマイトプラスターを含有しない内装仕上材について,被告表示1を使用することであり,石灰を含有する被告製品1に被告表示1を使用することが不正競争防止法上禁じられるわけではない。そのため,被告表示1に係る差止めについては,その対象を「石灰を含有しない内装仕上材」と限定するのが相当である(一方,被告表示2については,一貫して石灰又はドロマイトプラスターを含有しない製品に使用されていたものであるから,対象製品の構成を主文において限定する必要はない。)。


7結論

 以上の次第で,本件特許権1が物を生産する方法の発明であることを前提とする請求の趣旨1の(1)及び(2)の請求は理由がないが,本件特許権1が単純な方法の発明であることを前提とする請求の趣旨1の(3)の予備的請求は理由があるから認容し(主文第1項),本件特許権2の間接侵害に基づく請求の趣旨2の(1)及び(2)の請求は,原告が被告製品目録1として特定した製品のうち,被告製品1(「しっくいペイントAg+」の商品名を有するもの)についてのみ認容し(主文第2項,第3項),請求の趣旨3の損害賠償請求については主文第4項の限度で認容し,不正競争防止法2条1項13号の不正競争行為を理由とする請求の趣旨4の(1)ないし(3)の請求については,被告表示2を付した被告製品2については理由があるが(主文第6項,第7項),被告表示1を付した内装仕上材については,石灰を含有しないものについてのみ理由があるから,その限度で認容し(主文第5項),その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担については主文第9項のとおり,仮執行の宣言については主文第10項のとおり定めることとする。』

 と判示されました。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。