●平成24(行ケ)10400 審決取消請求事件 特許権「筋力トレーニング

 本日は、『平成24(行ケ)10400 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「筋力トレーニング方法」平成25年8月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130829112317.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審判の棄却審決の取消を求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、まず、取消事由1(本件発明は,特許法2条1項所定の「発明」に該当するとした判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 八木貴美子、裁判官 小田真治)は、


『2取消事由1(本件発明は,特許法2条1項所定の「発明」に該当するとした判断の誤り)について


(1)原告は,特許法上の発明であるためには,その技術内容が,当該技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする効果を挙げることができる程度まで具体性・客観性を有するものであることが要件とされ,また自然法則を利用したものであることが要件とされているが,本件発明については,そのような要件を充足していないと主張する。


 しかし,原告の主張は,以下のとおり採用の限りでない。すなわち,

ア本件発明の特許請求の範囲(請求項1ないし3)には,第2の2のとおり,「筋肉に締めつけ力を付与するための緊締具を筋肉の所定部位に巻付け,その緊締具の周の長さを減少させ,筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ(ること)」及び「筋力トレーニング方法(であること)」などの構成が具体的に記載されている。


イ本件明細書には,本件発明の推測されるメカニズムとして,筋肉増強は,疲労の回復過程での超回復によりなされるところ,筋肉の疲労はエネルギー源や酸素の供給,乳酸の処理に大きく関係しており,これらは筋肉への血行に大きく左右されており,特定的に増強しようとする目的の筋肉部位への血行を緊締具により適度に阻害してやることにより,疲労を効率的に発生させて,目的筋肉をより特定的に増強できることが,説明,開示されている(【0008】,【0009】)。


 また,効果を確認するため,緊締具を用いたグループと緊締具を用いないグループのそれぞれにつき一回2時間のトレーニングを週2回の周期で6か月間行い,緊締具を用いるグループには,図1のように三角筋と該上腕二頭筋の間に緊締具を施して,該上腕二頭筋部位への血流を適度に阻害してやることにより,疲労を効率的に発生させ,トレーニングを始めてから6か月後の該上腕二頭筋部位における周囲寸法を計測したところ,緊締具を用いたグループの筋肉増強効果は,緊締具を用いないグループに比べ,約3倍であることが確認できたことが,説明,開示されている(【0016】,【0017】)。


ウ上記の各記載によれば,本件発明は,推測されるべき機序及び効果が示されており,その技術内容は,当該の技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして示されているといえる。また,本件発明は,緊締具の周の長さを減少させ,筋肉に流れる血流の阻害とそれに対する生理反応を利用するものであって,生理反応は自然法則に基くものであるから,発明全体として自然法則を利用しているというべきである。


 したがって,本件発明が,具体性・客観性を有しないこと,及び自然法則の利用がないことを理由として,特許法2条1項所定の「発明」に該当しないとする原告の主張は,採用の限りでない。


(2)原告は,本件発明は,「筋肉増強」という新たな効果の発見にすぎず,特許法2条1項の「発明」に該当しないとも主張する。


 しかし,この点の原告の主張も,採用の限りでない。


 原告の主張は,要するに,本件特許の出願前に,筋肉を加圧するトレーニン運動療法に関連した文献(甲44文献)が存在した点を指摘するにすぎないのであって,同主張に係る事実によっては,本件発明が特許法2条1項所定の「発明」に該当しない根拠とはなり得ない。


 本件発明は,前記のメカニズムにより,目的筋肉を増強できるとの着想に基づき,特許請求の範囲の請求項1に記載した構成を採用したことによって,一定の効果を得る方法を開示するものであるから,単なる自然法則の発見ではない。


 この点に係る原告の主張は採用できない。』


 と判示されました。


 なお、本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲(請求項1ないし3)は、次のとおりです。

『【請求項1】
 筋肉に締めつけ力を付与するための緊締具を筋肉の所定部位に巻付け,その緊締具の周の長さを減少させ,筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ,もって筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法であって,筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が,筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するものである筋力トレーニング方法。
【請求項2】
 緊締具が,筋肉に流れる血流を阻害する締め付け力を付与するものであり,締め付けの度合いを可変にするロック手段を備えた帯状体又は紐状体とされた請求項1記載の筋力トレーニング方法。
【請求項3】
 緊締具が,更に締め付け力の表示手段が接続されたものとされ,少なくとも皮膚に接触する側に皮膚を保護するための素材を配したものとされた請求項2記載の筋力トレーニング方法。』