●平成24(行ケ)10418 審決取消請求事件 特許権「引戸装置の改修方

 本日は、『平成24(行ケ)10418 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「引戸装置の改修方法及び改修引戸装置」平成25年7月24日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130806114147.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審判の無効審決の取り消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由1(サポート要件に関する認定判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 設樂隆一、裁判官 西理香、裁判官神谷厚毅)は、


『1 取消事由1(サポート要件に関する認定判断の誤り)について


 ・・・省略・・・


(2)ア特許制度は,明細書に開示された発明を特許として保護するものであり,明細書に開示されていない発明までも特許として保護することは特許制度の趣旨に反することから,特許法36条6項1号のいわゆるサポート要件が定められたものである。したがって,同号の要件については,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明の欄の記載によって十分に裏付けられ,開示されていることが求められるものであり,同要件に適合するものであるかどうかは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であるか,すなわち,発明の詳細な説明の記載と当業者の出願時の技術常識に照らし,当該発明における課題とその解決手段その他当業者が当該発明を理解するために必要な技術的事項が発明の詳細な説明に記載されているか否かを検討して判断すべきである。


イ前記(1)認定の本件明細書の記載によれば,本件発明は,従来技術において,(ア)改修用下枠が既設下枠に載置された状態で既設下枠に固定されるので,改修用下枠と改修用上枠との間の空間の高さ方向の幅が小さくなり,有効開口面積が減少してしまうという問題(以下「課題(ア)」という。),及び,(イ)改修用下枠の下枠下地材は既設下枠の案内レール上に直接乗載され,その案内レールを基準として固定されるため改修用下枠と改修用上枠との間の空間の高さ方向の幅がより小さくなり,有効開口面積が減少してしまうという問題(以下「課題(イ)」という。)があったため,これらの問題を,?既設下枠の室外側案内レールを切断して撤去する(以下「構成?」という。),?既設下枠の室内寄りに取付け補助部材を設けるとともに,この取付け補助部材を既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取り付け,取付け補助部材を基準として改修用引戸枠を既設引戸枠に取り付ける(以下「構成?」という。)ことにより解決したものであり,構成?を採ることにより,改修用下枠と改修用上枠との間の空間の高さ方向の幅が大きく,広い開口面積が確保でき,構成?を採ることにより,既設引戸枠の形状,寸法に応じた形状,寸法の取付け補助部材を用いることで,形状,寸法が異なる既設引戸枠に同一の改修用引戸枠を取付けできるという効果を奏するものであると認められる。そして,本件明細書【0100】には,既設下枠56の室内側案内レール115を切断して撤去する場合における構成?及び?の具体的な構成(実施形態)が記載されている。


ウ他方,本件特許の請求項1,2,4及び5の文言に照らすと,本件発明には,上記イ(本件明細書【0100】,図14)に記載した,既設下枠56の室内側案内レール115を切断して撤去する構成のみならず,既設下枠56の室内側案内レール115を切断せず残存させる(撤去しない)構成(背後壁固着要件を充足する構成)も含まれると解釈できるところ,本件明細書には,既設下枠の室内側案内レールを残存させる(撤去しない)構成とした上で,背後壁固着要件を充足する実施形態は記載されていない。


 しかし,上記イに認定したところによれば,本件発明において,課題(ア)及び(イ)を解決するためには,構成?及び?を採用すれば足り,既設下枠の室内側案内レールを切断して撤去するかどうかは上記課題の解決には関係しないし,室内側案内レールを切断して撤去しなければ本件発明の効果を奏しないということもない。加えて,本件明細書の図6の実施形態(甲1【0067】,【0069】,【0070】)等に,既設下枠56の室内側案内レール115を残存する(撤去しない)構成が開示されていることも併せ考えると,当業者であれば,本件明細書の記載から,構成?とする際に,既設下枠56の室内側案内レール115を切断して撤去する構成のほかに,既設下枠56の室内側案内レール115を残存させる(撤去しない)構成も想定できるといえる。


 以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,当業者において,特許請求の範囲に記載された本件発明の課題とその解決手段その他当業者が本件発明を理解するために必要な技術的事項が記載されているものといえる。


 したがって,本件発明は,本件明細書において十分に裏付けられ,開示されているものと認められ,特許法36条6項1号のサポート要件違反の有無に関する審決の判断の結論に誤りはない。』

 と判示されました。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。