●平成24(行ケ)10292 審決取消請求事件 特許権「強接着再剥離型粘

 本日は、『平成24(行ケ)10292 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「強接着再剥離型粘着剤及び粘着テープ」平成25年6月27日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130702135137.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由1(サポート要件に係る判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 大鷹一郎、裁判官 齋藤巌)は、


『2取消事由1(サポート要件に係る判断の誤り)について

(1)法36条6項は,「第三項四号の特許請求の範囲の記載は,次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し,その1号において,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。


 特許制度は,発明を公開させることを前提に,当該発明に特許を付与して,一定期間その発明を業として独占的,排他的に実施することを保障し,もって,発明を奨励し,産業の発達に寄与することを趣旨とするものである。


 そして,ある発明について特許を受けようとする者が願書に添付すべき明細書は,本来,当該発明の技術内容を一般に開示するとともに,特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲(特許発明の技術的範囲)を明らかにするという役割を有するものであるから,特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには,明細書の発明の詳細な説明に,当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならないというべきである。


 法36条6項1号が,特許請求の範囲の記載を上記規定のように限定したのは,発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載すると,公開されていない発明について独占的,排他的な権利が発生することになり,一般公衆からその自由利用の利益を奪い,ひいては産業の発達を阻害するおそれを生じ,上記の特許制度の趣旨に反することになるからである。


 そして,特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり(前記知財大合議判決参照),この点に関する原告の主張は,採用することができない。


(2)そこで,上記の観点に立って,以下,本件について検討する。


 ・・・省略・・・


 そうすると,粘着剤が請求項1に記載された組成を満たしているとしても,それ以外の多数の要因を調整しなくては,請求項1に記載された粘弾特性を満たすようにならないことは明らかであり,実施例1ないし4という限られた具体例の記載があるとしても,請求項1に記載された組成及び粘弾特性を兼ね備えた粘着剤全体についての技術的裏付けが,発明の詳細な説明に記載されているということはできない。また,そうである以上,請求項1に記載された粘着剤は,発明の詳細な説明に記載された事項及び本件出願時の技術常識に基づき,当業者が本願発明の前記課題を解決できると認識できる範囲のものであるということもできない。


ウ以上によれば,本願発明に係る特許請求の記載の範囲の記載は,サポート要件に適合しないというべきである。


(3)原告の主張について

 原告は,tanδのピークは,アクリル系粘着剤に一般的に使用されている各種モノマーの中から適宜選択して組成に基づく計算により推定できるとか,アクリル系粘着剤のTgやアクリル系粘着剤と粘着付与樹脂の配合量を適宜調整することなどによって,貯蔵弾性率G’が所定の値である粘着剤Aを製造することは,本件出願時の技術常識から当業者にとって容易であったなどと主張する。


 しかしながら,請求項1に上位概念で必須成分と記載されたモノマー(カルボキシル基を持つビニルモノマー,窒素含有ビニルモノマー,水酸基含有ビニルモノマー)には粘弾特性に与える影響(側鎖の長さ等)を異にする多種類のものが含まれる上,必須成分とされていない任意のモノマーは,請求項1の記載によれば,最大48.99重量部(100−(50+1+0.01)=48.99)まで含まれ得るものであるから,請求項1に記載されたアクリル共重合体を構成するモノマーの候補は極めて多岐にわたる。また,前記(2)のとおり,原告が挙げるモノマーの種類や粘着付与樹脂の量などのほかにも,アクリル共重合体の分子量などの要因が粘弾特性の各パラメータに複合的な影響を与えることが知られている。これらの点を考慮すると,粘弾特性の各パラメータの制御の仕方についての記載がなくとも,請求項1に記載された組成で,かつ,粘弾特性を兼ね備えた粘着剤に関する開示が十分であるとまでは認めることができない。


 なお,原告は,粘着剤の分野において,粘着組成物の組成の大枠と物性が特定されていれば,当業者は過度の試行錯誤を要することなく,当該物性を備える粘着剤を製造することのできる証拠として,甲24ないし36の特許公報又は特許出願公開公報を提出する。


 しかしながら,上記各書証は,いずれもtanδのピーク,特定温度での貯蔵弾性率G’及び特定温度でのtanδを調整することを示すものではなく,本件とは事案を異にする上,甲26及び28ないし36は,未だ審査を経ていない発明に係る特許出願公開公報であるから,サポート要件に係る当裁判所の判断を左右するものではない。


 したがって,原告の主張は,採用することができない。


(4)小括

 よって,取消事由1は理由がない。』

 と判示されました。