●平成24(行ケ)10271 審決取消請求事件 特許権「超音波モータと振

本日は、『平成24(行ケ)10271審決取消請求事件特許権行政訴訟「超音波モータと振動検出器とを備えた装置」平成25年6月11日知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130612092143.pdf)について取り上げます。


 本件では、取消事由4(進歩性の認定・判断の誤り)についての判断も参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 池下朗、裁判官 新谷貴昭)は、


『4取消事由4(進歩性の認定・判断の誤り)について

(4)対比・判断の総論

 審決は,相違点1,3に係る本件発明1,6の構成は容易想到と判断したが,相違点2,4に係る本件発明1,6の構成は容易不想到とした。原告は,この後者の審決判断を争っているので,相違点2,4に係る容易想到性についてみると,超音波モータと振動ジャイロとをカメラに同時に搭載する際に,振動検出素子の共振周波数と超音波モータが与える不要な振動の周波数とがともに超音波周波数域であるとしても,それらが重なる蓋然性が高く,重なる場合には振動ジャイロは誤出力してしまうという,それらの振動の周波数に関わる特有の課題が存在することについては,これを開示する証拠はない。そして,上記特有の課題を開示する証拠がない以上,それを解決するための手段を採用する動機付けがあるとは認められない。


 また,所定の帯域あるいは範囲を含め,超音波モータの共振周波数あるいは駆動周波数を,励振センサの共振周波数に関係した帯域に関連して設定することが,公知であったことを示す証拠もない。一般的に,関連する技術分野の発明や技術事項を組み合わせることは,当業者が容易に着想し得ることであるから,ともにカメラに用いられる甲10記載のような振動ジャイロや甲11記載のような超音波モータを,引用発明(甲4)のカメラに適用することを,当業者は着想し得るといえる。


 しかし,モータや振動を検出するセンサには様々な態様のものが存在しているのであって,超音波モータも多種多様に存在しており,甲11はその一例に過ぎず,また,圧電振動ジャイロも多種多様のものが存在しており,甲10はその一例に過ぎない。上記(3)に判示したとおり,甲10には,振動ジャイロを,超音波モータを備えたカメラに用いることの記載はなく,振動ジャイロ(振動検出素子)の共振の半値幅帯域と超音波モータの周波数制御範囲とを別の帯域に設定したことは何ら記載されておらず,また,上記(3)に判示したとおり,甲11には,励振された振動検出素子からなるセンサについては記載がなく,振動検出素子の共振の半値幅帯域と超音波モータの周波数制御範囲とを別の帯域に設定したことは記載されておらず,さらに,超音波モータがすでに備えられている引用発明に,甲11記載発明の超音波モータを適用しようとする動機があるとはいえず,超音波モータと振動ジャイロとをカメラに同時に搭載する際の特有の課題,解決手段,及びそれを採用する動機のいずれも公知とは認められないことを踏まえると,個別特定の公知技術である甲10記載発明と甲11記載発明とをともに適用することが,当業者にとって容易に想到し得ることであるとはいえない。


 原告が主張するように,甲10記載発明の振動ジャイロと甲11記載発明の超音波モータとをともに適用すれば,超音波モータの周波数制御範囲が振動ジャイロの1次と2次の共振の半値幅帯域に重ならないものとなり,上記相違点2に係る本件発明2の構成を満足することとなるが,甲10記載発明と甲11記載発明とを単に事後分析的に選択したに過ぎないといえる。


 したがって,引用発明において,上記相違点2に係る本件発明2の構成とすることは,引用発明(甲4)並びに甲10記載発明及び甲11記載発明に基づいて当業者が容易になし得たものであるとはいえない。相違点4に係る本件発明6の構成は,本件発明2において単に「振動検出素子の共振の半値幅帯域と別の帯域」と特定していたものを,本件発明6においては「振動検出素子の1次の共振の半値幅帯域と2次の共振の半値幅帯域との間」と更に限定して特定したものに相当すると解される。よって,本件発明6のこの構成も,当業者が容易になし得たものとすることはできない。


(5)原告主張についての付言

 原告は,当業者が,振動ジャイロの共振周波数に超音波モータの駆動周波数が近くなると,振動ジャイロが誤出力するおそれがあるということを当然に認識できたのであるから,振動検出素子(振動ジャイロ)の共振周波数と超音波モータが与える不要な振動の周波数とが重なると振動ジャイロは誤出力してしまうという課題の存在を直接記載した文献がないからといって,この課題を認識できないというものではない,と主張する。


 しかし,超音波モータと振動ジャイロ(振動検出素子)とをカメラに同時に搭載する際に,振動ジャイロの共振周波数と超音波モータが与える不要な振動の周波数とが重なる場合には,振動ジャイロは誤出力してしまうという,特有の課題が存在することについては,証拠がなく,当業者が認識できていたとはいえない。また,振動ジャイロの振動検出素子の共振周波数に近い周波数成分を含む外乱振動が加わると,振動ジャイロは誤出力することは,本件出願時の振動ジャイロの共振周波数に関する技術常識であるとしても,そのことから直ちに,超音波モータと振動ジャイロ(振動検出素子)とをカメラに同時に搭載することを想定し,振動ジャイロが誤出力してしまうことを認識できるとはいえない。振動ジャイロと超音波モータを同じ機器に搭載する場合には誤信号を出力してしまうという課題を認識したとしても,超音波モータと振動ジャイロの組合せを避けるのが合理的な考えであるといえる。


 原告は,甲10に記載されたカメラの手振れ検出に適した共振周波数の振動ジャイロに対して,カメラ用に選択した超音波モータを組み合わせたときには,超音波モータの周波数制御範囲が振動ジャイロの共振の半値幅帯域と重なる場合よりも,重ならない場合の蓋然性の方が高い,と主張する。


 しかし,超音波モータと振動ジャイロとを任意に選択すれば,本件発明に係る振動ジャイロの共振周波数と超音波モータが与える不要な振動の周波数とが重ならない構成を満たす振動ジャイロと超音波モータが選択されるとの根拠はない。また,甲10記載発明の振動ジャイロをカメラ用に選択した超音波モータと組み合わせたときには,超音波モータの周波数制御範囲が振動ジャイロの共振の半値幅帯域と重なる場合よりも,重ならない場合の蓋然性の方が高い,との根拠もない。


 すなわち,超音波モータには多種多様のものが存在しており,甲11記載発明の超音波モータは一例にすぎず,甲10の振動ジャイロの1次の共振(24.0kHz)の半値幅帯域に重なる周波数制御範囲を有する超音波モータの例(乙3)も,2次の共振(66.1kHz)の半値幅帯域に重なる周波数制御範囲を有する超音波モータの例(乙2)も存在していたので,特に甲11の超音波モータが選択されるという根拠や動機は見出だせない。振動ジャイロにも多種多様のものが存在しており,甲10の振動ジャイロの1次共振周波数(24.0kHz)と異なる1次共振周波数の圧電振動ジャイロの例(乙4)も認められる。


 原告は,2つの技術の組合せの動機付けの有無は,本件発明の課題とは無関係であって,複数の技術を組み合わせる動機付けは,本件発明の課題に限られるものではないと主張する。


 しかし,甲10記載発明や甲11記載発明の組合せは,原告が本件発明の構成を念頭において,それらの構成に沿うような個別の公知発明・技術を組み合わせたものであって,本件発明の課題から離れて検討したとしても,引用発明(甲4)に甲10記載発明と甲11記載発明をともに組み合わせる動機付けがあるとはいえない。すなわち,甲4の補正光学素子(手ぶれ補正レンズ)駆動用の超音波モータ112,113として,甲11の(ディスク型とは異なる棒状のペンシル型で,かつオートフォーカス用レンズ駆動用である)超音波モータを適用する根拠や動機がない。


 原告は,仮に,本件発明の課題及び効果が新規なものであるとしても,それは,甲4,甲10及び甲11記載のものから容易に構成できるものの効果を発見したにすぎず,本件発明が新たな物の構成を発明したというものではない,また,本件発明と同一の構成を備えたものが本件出願前に知られていた技術から容易に想到することができるものであれば,進歩性は否定されると主張している。


 しかし,本件出願時における振動ジャイロと超音波モータを一緒にカメラに搭載した例を記載した証拠はない。モータや振動を検出するセンサには様々な態様のものが存在しており,その中の超音波モータや振動ジャイロも多種多様のものが存在している中において,個別特定の公知技術である甲10記載発明と甲11記載発明とをともに適用することが,当業者にとって容易に想到し得ることであるとはいえない。


 原告は,振動ジャイロと超音波モータを同じ機器に搭載することは,相違点1として容易想到であると審決で判断されているのであって,振動ジャイロが共振しないように超音波モータの周波数制御範囲を定めることは,設計変更にすぎない旨を主張している。


 しかし,振動ジャイロと超音波モータを同じ機器に搭載することと,その際に振動ジャイロが共振しないように超音波モータの周波数制御範囲を定めることは,異なる技術思想である。また,振動ジャイロの共振周波数と超音波モータが与える不要な振動の周波数とが重なる場合に,振動ジャイロが誤出力してしまうという課題を認識し,それを解決するために本件発明のごとく振動ジャイロが共振しないように超音波モータの周波数制御範囲を定めることが設計変更であるといえる根拠もない。

(6)小括

 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由4には,理由がない。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。