●平成22(ワ)44638 損害賠償等請求事件 特許権「CATV用光受信

 本日は、『平成22(ワ)44638 損害賠償等請求事件 特許権 民事訴訟「CATV用光受信機のAGC方法」平成25年2月27日東京地方裁判所)(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130524164344.pdf)について取り上げます。


 本件は、損害賠償等請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、イ号製品が方法発明の技術的範囲に属すると認められたものの、進歩性無しの特許無効の抗弁が認められた点で参考になる事案かと思います。


 つまり、東京地裁(民事第29部 裁判長裁判官 大須賀滋、裁判官 小川雅敏、裁判官 森川さつき)は、


『イ本件発明と乙5発明との対比

 本件発明と乙5発明とを対比すると,乙5発明における差動増幅器は,本件発明における「制御回路」に相当するとみることができる。


 したがって,両者は,


パイロット信号を含まない光信号をCATV用光受信機に設けられた受光素子で受光して光/電気変換し,変換された電気信号を受光素子に設けられたモニタ端子から取出し,モニタ端子から取出されたモニタ信号を制御回路に入力し,
この制御回路から前記光信号のレベルに応じたAGC電圧を発生し,
AGCをかける回路において,前記光信号のレベルに応じたAGC電圧で,前記受光素子で光信号から電気信号に変換された後に前記AGCをかける回路を通る該電気信号にAGCをかけるようにしたCATV受信機のAGC方法。」

である点で一致し,次の点で相違する。


「AGCをかける回路に関し,本件発明は,RFアンプ及び可変減衰器を備えており,受光素子で光信号から電気信号に変換されそしてRFアンプで増幅された後に,可変減衰器を通る該電気信号にAGCをかけるようにしたものであるの対し,乙5発明は,可変利得増幅器を備えており,受光素子で光信号から電気信号に変換されそして可変利得増幅器を通る該電気信号にAGCをかけるようにしたものである点」


ウ相違点の検討

 乙10の6〜7頁の第2図に関する記載によれば,乙10には,テレビVHF〜UHF帯域の信号を増幅する増幅器を,増幅回路13及び減衰回路Aを含む回路で構成し,かつ,減衰回路Aの減衰量を種々の値に設定することで,増幅器の総合利得を種々変化させることが開示されている。ここで,増幅回路13は,VHF〜UHF帯域の無線周波数(RF:RadioFrequency)の信号が入力されるから,RFアンプであるということができ,減衰回路Aは,減衰量を種々の値に設定できるから,可変減衰器であるということができる。また,乙11の155頁の図8には,「μPC1652G」という型番の広帯域増幅用ICと,PINダイオードとを併用したAGC増幅器について記載されており,その回路図によれば,第1段目の広帯域増幅用ICの後段にPINダイオードが接続されている。ここで,当該広帯域増幅用ICは「UHF帯からマイクロ波帯」(152頁)であり,無線周波数帯のものであるから,RFアンプであるということができる。また,図8のPINダイオードの陽極側に「VAGC」と記載された端子が存在するが,乙17(101頁)の「PINダイオードは直流バイアスによってその抵抗分が大きく変化し,純抵抗に近い特性をもっているため,良好な可変減衰器をつくることができる。」との記載や,乙6の3頁の第1図及び第4図に関する記載(「第1図の・・・可変利得制御増幅器の具体的構成例を第4図に示す。・・・図で制御入力CTに加わる電流値によって可変抵抗ダイオードD1の抵抗値が変化し,その結果利得が変化する。」)を併せれば,当業者は,乙11の図8のPINダイオードは可変減衰器であって,上記端子によってその減衰量が制御できるものであると理解することができる。


 以上によれば,「無線周波数帯域で用いられる可変利得増幅器を,可変減衰器において,RFアンプで増幅された後に前記可変減衰器を通る該電気信号にAGCをかけるもので構成すること」は本件特許出願の出願時における周知技術である。


 そして,乙5発明と上記周知技術とは,テレビ信号の帯域の高周波信号を処理する電気回路技術に属する点で技術分野が共通し,乙5発明における可変利得増幅器の具体化は当業者が当然行うことであるから,上記周知技術を適用し,本件発明のように,「可変減衰器において,前記光信号のレベルに応じたAGC電圧で,前記受光素子で光信号から電気信号に変換されそしてRFアンプで増幅された後に前記可変減衰器を通る該電気信号にAGCをかける」と構成することは,当業者が容易に想到し得たことである。


 したがって,本件特許は,乙5発明から当業者が容易に想到し得たものである。


(3)小括

以上のとおり,本件特許は,進歩性を欠くものであるから,特許無効審判により無効にされるべきものである。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。