●平成24(行ケ)10243 審決取消請求事件 特許権「配線構造の形成方

 本日は、『平成24(行ケ)10243 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「配線構造の形成方法,配線構造およびデュアルダマシン構造」平成25年05月23日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130523165550.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、本願発明の容易想到性についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部裁判長裁判官土肥章大、裁判官大鷹一郎、裁判官齋藤巌)は、


『4本願発明の容易想到性について

(1)本願発明の認定について

ア本願発明に係る特許請求の範囲には,「複合低k誘電体層内の応力を調整する前記応力調整層は,酸素を含有する炭化シリコン(SiaCbOc)で構成され,前記aは0.8〜1.2であり,前記bは0.8〜1.2であり,前記cは0を含まない0〜0.8である」との記載がある。このうち,「前記cは0を含まない0〜0.8である」との記載は,その文言に照らして,cが0に限りなく近い小さな値から0.8の範囲であることを意味するものと認めるのが相当である。


イ原告の主張について

(ア)原告は,本願明細書(【0012】)には「応力調整層は,酸素を含有す
る炭化シリコン(SiaCbOc)…で構成される。」との記載があるから,当業者であれば,特許請求の範囲に記載された「cは0を含まない0〜0.8である」との文言についても,酸素をその効果が発揮できる程度に意図的に含有させたものを示すものと容易に想像することができる旨主張する。


 しかしながら,本願発明に係る特許請求の範囲に記載された「cは0を含まない0〜0.8である」との文言について,その技術的意義が一義的に明確に理解することができないものということはできないし,原告が挙げる本願明細書の記載(【0012】)に照らしても,一見して特許請求の範囲の上記文言が誤記であるということもできないから,本願発明の認定は,特許請求の範囲の記載に基づいてなされるべきである。


 そうすると,本願発明に係る特許請求の範囲の上記文言は,cが0に限りなく近い小さな値から0.8の範囲であることを意味するものというべきであって,原告の主張は,採用することができない。


(イ)原告は,本願発明に係る特許請求の範囲に記載された「酸素を含有する炭化シリコン」とは,意図的に酸素を含有させることを意味し,不可避的に微量の酸素が含まれるような場合を想定しておらず,本願発明の効果は,不可避的に含まれる微量の酸素に加えて酸素を含有させることで得られるものであるから,仮に,Blokが不可避的に微量の酸素を含むものであるとしても,本願発明の「酸素を含有する炭化シリコン」とは異なるものであるなどと主張する。


 しかしながら,本願発明の特許請求の範囲には,「酸素を含有する炭化シリコン」が意図的に酸素を含有させたものであるとは記載されていないし,本願明細書にも,「酸素を含有する炭化シリコン」が意図的に酸素を含有させるものであることの記載や示唆はない


 したがって,原告の主張は,採用することができない。


(2)容易想到性について


ア前記3(1)及び(2)のとおり,Blokが有機ケイ素ガスを用いたPECVD法により形成されたSiC膜であること及びPECVD法によって形成されたSiC膜中に,不可避的に酸素が含まれることは,本件出願に係る優先権主張日当時,集積回路用の配線構造の技術分野において周知の事項ないし技術常識であったものである。


 そして,引用発明において応力再分配層の材料となるSiC膜について,これに不可避的に混在する酸素を考慮して,本願発明と同様の組成式で表すと,SiaCbOc(a≒1,b≒1,c:不可避に混在する程度の微量)となることは当業者にとって自明であるところ,酸素の組成比は,引用発明では不可避的に混在する程度の微量であるが,本願発明においても,前記のとおり,0に限りなく近いもの,すなわち不可避的に含まれるような微量の場合を含むものであるから,本願発明と引用発明との間に,酸素の構成比において実質的な相違はない。


 また,本願明細書には,実施例において,圧縮応力を有する少なくとも1つの応力調整層を形成することにより,配線構造を構成する低k誘電層により生じる引張り応力は調整され,低k誘電体を利用する場合,配線構造の信頼性を向上しつつ,ダマシン構造に発生するような問題を防止することができるとの作用効果は記載されているものの,応力調整層の組成比について,「a=0.8〜1.2,b=0.8〜1.2」との数値限定を設定することの根拠については何ら記載されておらず,その臨界的意義を認めることはできない。


 したがって,相違点に係る本願発明の構成は,当業者であれば,引用発明及び本件出願に係る優先権主張日当時の技術常識に基づき,容易に想到することができたものである。


イ原告の主張について

(ア)原告は,周知例には,PECVD法によって形成されるBlokフィルムが,引用例に記載された応力再分配層として使用できることについての記載も示唆もないから,当業者がBlokフィルムを引用例の応力再分配層に使用することの動機付けはないなどとして,本件審決の判断は誤りである旨主張する。


 しかしながら,本件審決には,「Blokが,有機ケイ素を用いてPECVD法により形成されたSiC膜(プロセス上,不可避の元素を含む)であることは,以下の周知例にもあるように当該技術分野において,周知である。」との記載があるとおり,本件審決は,Blokが有機ケイ素ガスを用いてPECVD法により形成されたSiC膜であるという当業者の技術常識を立証するために周知例を提示したものであり,Blokフィルムを引用例に記載された応力再分配層に使用する動機付けがあることを示すために提示したものではない。


 したがって,原告の主張は,採用することができない。


(イ)原告は,周知例はBlokが有機ケイ素ガスを用いたPECVD法によって形成されたSiC膜であることを教示しているのみで,具体的にどのような種類のガスを用いるのかについての記載や示唆はないから,当業者は,Blokが不可避的に酸素を含むという事実を確認することはできないなどと主張する。


 しかしながら,有機ケイ素ガスを用いてPECVD法により形成されたSiC膜中に,不可避的に酸素が含まれるという技術常識は,用いる有機ケイ素ガスの種類によらないものであるから,PECVD法にどのような種類のガスを用いるかは,完成したBlokが不可避的に酸素を含むものであるという前記3(2)ウの認定を左右するものではない。


 したがって,原告の主張は,採用することができない。


(ウ)原告は,本願発明では,「応力調整層は,酸素を含有する炭化シリコン(SiaCbOc)で構成され,前記aは0.8〜1.2であり,前記bは0.8〜1.2であり,前記cは0を含まない0〜0.8である」ことに技術的特徴があり,仮に,炭素Cの添え字bが1.2を超えるならば,応力調整層の応力が低くなり,応力を調整する機能を発揮しなくなり,また炭素Cの添え字bが0.8未満になると,炭素の組成が高くなることにより,応力調整層に対するリークの問題が起こる可能性があるなどとして,応力調整層の構成比の数値限定は,臨界的意義を有すると主張する。


 しかしながら,本願明細書(【0012】)には,a及びbの数値範囲をそれぞれ0.8〜1.2とし,cの数値範囲を0を含まない0〜0.8とすることの技術的意義は何ら記載されていない。


 したがって,原告の主張は,本願明細書の記載に基づかないものであり,これを採用することはできない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。