●平成24(ワ)8221 実用新案権・意匠権侵害差止等請求事件「履物装着

  本日は、『平成24(ワ)8221 実用新案権意匠権侵害差止等請求事件 実用新案権民事訴訟「履物装着用ヒールローラー」平成25年4月19日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130521185837.pdf)について取り上げます。


 本件は、実用新案権意匠権侵害差止等請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、損害および差止め・廃棄の必要性についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第29部 裁判長裁判官 大須賀滋、裁判官 西村康夫、裁判官 森川さつき)は、


『2 損害について

(1) 被告製品の販売数量について

ア 被告製品の輸入

 被告は,平成23年1月8日,被告製品1万0032ペアを輸入した(乙5ないし7,15(枝番含む。以下同じ))。

 被告がこれ以上に被告製品を輸入したり,製造したりした証拠はない。


 ・・・省略・・・


オ ウェブページにおける被告製品写真の掲載について

(ア) 被告の代理店であるミミー有限会社及び有限会社ドリームクリエイションのウェブページには,少なくとも平成24年8月14日時点まで,被告新製品ではなく被告製品の写真が掲載されていた(甲8,16,17)。すなわち,被告製品の反射材には「JDRAZOR」との記載があり(甲15),被告新製品の反射材には「Razor」との記載がある(乙1)ところ,甲8,16,17の写真の反射材には「JDRAZOR」との記載が読み取れる(被告新製品において形状を変更した,固定板(8)や窪み(11)の形状は読み取れない。)。


(イ) ミミー有限会社は平成24年10月7日に,有限会社ドリームクリエイションは遅くとも平成24年10月22日までに,ウェブページ上の写真を被告新製品のものに差し替えた(乙16ないし18)。


(ウ) 原告は,上記被告製品の写真が掲載されていることをもって,現在も被告製品の販売が継続されていると主張する。


 しかし,上記ウ,エの事実及び弁論の全趣旨によれば,上記被告製品の写真が掲載されていた間も,実際に被告がミミー有限会社及び有限会社ドリームクリエイションを通じて販売していたのは,被告新製品であったと認めるのが相当である。


 被告が上記イの数量を超えて被告製品を販売したことを認めるに足りる証拠はない。


(エ) 原告は,仮に実際に販売しているのが被告新製品であろうと,被告製品が譲渡のために展示されている事実が存するのであるから,これによる被告の利益は原告の損害と推定されるべきであると主張する。


 しかし,実用新案法2条3項,意匠法2条3項で「実施」とされる「譲渡のための展示」とは,侵害物品の譲渡に向けられた展示をいい,侵害物品の譲渡に向けられていない展示はこれに当たらない。


 上記(ア)ないし(ウ)によれば,平成24年10月までの被告の代理店のウェブページには被告製品の写真が掲載(展示)されていたが,実際に販売されていたのは被告製品ではなく被告新製品だったのであるから,被告製品の展示は被告製品の販売に向けられたものではなく,実用新案法2条3項,意匠法2条3項にいう「譲渡のための展示」に当たらないと解するのが相当である。


 ・・・省略・・・


(エ) なお,原告は,被告製品から取り外したローラーは「侵害の行為を組成した物」(実用新案法27条2項,意匠法37条2項)であり,廃棄の対象となると主張する。


 しかし,実用新案法27条2項,意匠法37条2項にいう「侵害の行為を組成した物」とは,侵害行為の必然的内容をなす物,すなわち,それなしには侵害行為が成立し得ない物をいうと解するのが相当である。


 被告製品に用いられていたローラーであっても,被告製品から取り外された後は,侵害行為の必然的内容をなすものとはいえず,被告製品に用いられていたローラーを実用新案法27条2項,意匠法37条2項にいう「侵害の行為を組成した物」として廃棄を求めることはできない。


キ 以上によれば,被告が被告製品485ペアを販売したことは認められるが,それ以上の数量を販売したと認めるに足りる証拠はない。


(2) 被告製品の販売により被告の得た利益について

 被告製品1個当たりの利益は420円を下らないと認めるのが相当である(弁論の全趣旨)から,被告製品485ペアの販売により被告が得た利益は20万3700円であり,実用新案法29条2項又は意匠法39条2項により,同額が原告の損害と推定される。


3 差止め・廃棄の必要性について

 上記2(1)ウのとおり,被告は既に被告製品の販売を中止していることが認められるが,同カのとおり,被告が被告製品をすべて廃棄したと認めるに足りる証拠はなく,そうすると被告が被告製品を販売するおそれはいまだ残っているといわざるを得ないから,原告は,被告製品の製造,販売等の差止めを求めることができる。


 また,被告製品をすべて廃棄したとは認められない以上,原告は,実用新案法27条2項又は意匠法37条2項に基づき,本件実用新案権・本件意匠権侵害の予防のため,被告製品及びその半完成品(「半完成品」という語では差止めの対象が不明確であるから,「別紙被告製品目録記載の構造を具備しているが製品として完成するに至らないもの」と定義した上で認める。)の廃棄を求めることができる。』

 と判示されました。