●平成24(ネ)10028 職務発明の対価請求控訴 同附帯控訴事件 特許

 本日は、『平成24(ネ)10028 職務発明の対価請求控訴 同附帯控訴事件 特許権 民事訴訟 平成25年4月18日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130430093251.pdf)について取り上げます。


 本件は、職務発明の対価請求控訴,同附帯控訴事件で、原判決が変更された事案です。


 本件では、消滅時効の成否および遅延損害金の始期についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 池下朗、裁判官 古谷健二郎)は、


『2消滅時効の成否について

(1)第1次控訴審判決判示のとおり,本件各発明に係る相当対価の支払請求債権は遅くとも平成10年10月7日に請求可能な状態に至ったものであり,この日が消滅時効の起算点となる。

 原告は,平成19年5月18日,本件各発明に係る相当対価の一部として150万円の支払を請求する本件訴えを提起したが,平成21年8月17日付け訴え変更申立書により請求を追加的に変更し,請求金額を2億0535万9500円に拡張した(その後,原告は,平成22年2月10日付け訴え変更の申立書(2)により請求金額を2億4281万1241円に拡張し,平成23年9月27日付け訴えの変更申立書(3)により2億4281万1239円に減縮した。)。


(2)被告は,原告の請求のうち,当初の請求額である150万円を超える部分(増額部分)の消滅時効は平成10年10月7日から進行し,上記150万円の訴訟提起によってもその時効は中断せずに進行を続け,平成20年10月6日の経過をもって時効期間が満了し,被告の消滅時効の援用により増額部分の請求債権は時効消滅したと主張する。


 しかし,数量的に可分な債権の一部につき訴えを提起したとしても,当該訴訟においてその残部について権利を行使する意思を継続的に表示していると認められる場合には,請求されている金額についてその残部の訴訟物が分断されるものではなく,また,残部について催告が継続的にされていると認めることができるから,当該残部の債権についても消滅時効の進行が中断するものと解すべきである。そして,当該訴訟係属中に訴えの変更により残部について請求を拡張した場合には,消滅時効が確定的に中断する。


 本件において,原告は,訴状において,相当対価の総額として主張した約20億6300万円から既払額を控除した残額の一部として150万円及びこれに対する遅延損害金の支払を請求するとしつつ,「本件請求については時効の問題は生じないものと考えられるが,被告からいかなる主張がなされるか不明であるので,念のため,一部請求額を『150万円』として本訴を提起したものであり,原告は追って被告の時効の主張を見て請求額を拡張する予定である」と記載していたのであるから,本件訴訟で時機をみて残部についても権利を行使する意思を明示していたと認められる。したがって,当該残部の請求債権の消滅時効の進行は,遅くとも上記訴状を第1回口頭弁論期日において陳述した平成19年6月26日に催告によって中断し,この催告は原告の特段の主張がない限り本件訴訟の係属中継続していたと認めるべきところ,その後,平成21年8月17日に原告が訴えの変更により残部について請求を拡張したことにより,当該残部の請求債権の消滅時効は確定的に中断したものというべきである。


 被告が指摘する最高裁判所昭和34年2月20日第二小法廷判決(民集13巻2号209頁)は,一個の債権の数量的な一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えの提起があった場合に,訴えの提起による消滅時効中断の効力は,その一部の範囲についてのみ生じ残部に及ばない旨を判示したものであって,原告が訴状において残部について権利を行使する意思を明示していた本件とは事案を異にする。被告が指摘する他の最高裁判所判決も,上記判断と抵触するものとはいえない。


 被告は,「仮に催告があったとしても,テスト訴訟において自己に有利に展開することとなったときにという停止条件付き催告であり,当該条件は時効期間満了日である平成20年10月6日までに成就しなかったから,催告としての効力は発生していない。」と主張するが,上記認定の本件訴訟における催告に停止条件が付されていたとは認められない。


(3)以上のとおりであって,被告の消滅時効の主張は,採用することができない。


3遅延損害金の始期について

 本件で原告が請求する職務発明の相当対価は,発明等取扱規則(乙1の1)9条の褒賞金に関するものであるところ,同条は,「会社が,特許権等に係る発明等を実施し,その効果が顕著であると認められた場合その他これに準ずる場合は,会社は,その職務発明をした従業員に対し,褒賞金を支給する。」としており,同規定は,会社が発明を実施しその効果を判定できるような一定期間の経過をもって,職務発明者が同褒賞金にかかる相当対価の支払を求めることができるようになる旨を定めたものと解するのが相当である。そして,被告の特許報奨取扱い規則(甲9)の6条には職務発明者に「営業利益基準」に基づき一定の報奨金が支払われることが,1条には上記「営業利益基準」が報奨申請時の前会計年度から起算して連続する過去5会計年度における対象事業の営業利益を基準とするものであることが規定されている。


 しかし,被告の発明等取扱規則又は特許報奨取扱い規則には,褒賞金の支払期限に関する定めはなく,上記の規定が,職務発明者の請求がなくとも被告が上記期間(当裁判所が拘束される第1次控訴審判決の判断における期間は5年である。)の経過をもって直ちに褒賞金の支払の履行がされるべき旨を定めたものと解することはできない。そして他に,褒賞金の支払期限が確定期限であるとの約束がされたことを認めるに足りる証拠もない。したがって,本件各発明に係る相当対価の支払請求債権は期限の定めのないものと認めざるを得ず,原告が主張するように,本件各発明が実施された平成5年10月7日から5年を経過した平成10年10月7日の翌日である同月8日からの遅延損害金の発生は認めることができない。


 期限の定めのない債権の債務者は,履行の請求を受けた時から遅滞の責めを負うところ,被告が原告から本件各発明に係る相当対価の支払請求債権の履行の催告を受けたのは平成19年2月1日であるから(甲7の1,甲39),被告は同日をもって遅滞に陥る。したがって,本件各発明に係る相当対価の支払請求債権の遅延損害金は,その翌日である平成19年2月2日から発生する。


第4結論

 以上によれば,原告の請求は,本件各発明に係る相当対価5900万円及びこれに対する平成19年2月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は棄却すべきである。


 よって,被告の本件控訴に基づき,原判決を主文第1項のとおり変更することとし,原告の附帯控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。