●平成24(ネ)10080 特許権侵害行為差止等請求控訴事件「飲料ディス

 本日は、『平成24(ネ)10080 特許権侵害行為差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟「飲料ディスペンサ用カートリッジ容器」平成25年4月25日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130430094950.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権侵害行為差止等請求控訴事件で、その控訴が棄却された事案です。


 本件では、均等侵害についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 齋藤巌、裁判官 荒井章光)は、


『4均等侵害について

(1)特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても,?当該部分が特許発明の本質的部分ではなく,?当該部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,?このように置き換えることに,当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,?対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,?対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,当該対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。


(2)第1要件について

均等の第1要件における特許発明の本質的部分とは,特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうち,当該特許発明特有の課題解決手段を基礎づける特徴的な部分,すなわち,上記部分が他の構成に置き換えられるならば,全体として当該特許発明の技術的思想とは別個のものと評価されるような部分をいうものである。


イ本件明細書には,本件発明の従来技術として,空になったカートリッジ容器を効率よく運送できるように,少なくとも容器の側壁部に柔軟性を持たせて,側壁部を折り畳み可能とした甲15発明が記載されているところ,本件発明は,運送時に折り畳み可能であるのみならず,支持枠により側壁部を囲わなければ側壁部が側方に傾き,カートリッジ容器の一部が筒口部より下になって飲料の排出が困難となるような状態になる程度の高い柔軟性を有する側壁部を前提として,飲料充填時に用いる係止部を設け,支持枠で側壁部を囲い,これを支持する構成を採用することにより,課題を解決するというものである。


 これに対し,イ号物件の側壁部は,PET素材に蛇腹部を設けることにより運送時に折り畳み可能な程度の柔軟性を有するものの,支持枠によって囲わなければカートリッジ容器の一部が筒口部より下になって飲料の排出が困難となる程度の柔軟性を有しているものではないから,本件発明とは課題解決手段が異なるものであり,側壁部の柔軟性の程度について,作用効果を異にするものというほかない。


ウ本件発明は,前記のとおり,運送時に折り畳めるように側壁部に柔軟性を持たせた甲15発明を従来技術とした上で,側壁部が柔軟性を有することにより生じる筒口部を上向きにして飲料を充填する際に非常に手間がかかるという課題を解決するために係止部を設けたのみならず,支持枠によって囲わなければカートリッジ容器の一部が筒口部より下になって飲料の排出が困難となる程度まで側壁部の柔軟性を高めたことにより,カートリッジ容器が飲料を排出する際,飲料の排出が困難となるような上記の状態が発生することを防止するために支持枠で側壁部を囲い,これを支持する構成を必要とするような高い程度の柔軟性を有するものである。


 したがって,本件発明における側壁部の高い程度の柔軟性は,特許発明特有の課題解決手段を基礎づける特徴的な部分,すなわち本質的部分であるというべきである。


エこの点について,控訴人は,本件発明の作用効果につき,側壁部に柔軟性を持たせて折り畳み可能とし,筒口部を上向きの状態で吊り下げ係止する係止部を設けて,空容器の運送効率を良くするとともに,係止部で筒口部の位置を安定に保持し,注入される飲料の重量で側壁部が自然に伸張するようにして飲料を容易に充填できるというものであると主張する。


 しかしながら,本件発明の作用効果は,本件明細書の記載からすれば,控訴人が主張する上記効果のみならず,側壁部の柔軟性の程度をも含むものというべきであるから,控訴人の上記主張は,採用することができない。


 また,控訴人は,本件発明の本質的部分は,係止部を設けて飲料を容易に充填できるようにした点にあると主張する。


 しかしながら,前記のとおり,本件発明の本質的部分は係止部を設けて飲料を容易に充填できるようにした点に尽きるものではないから,控訴人の上記主張も,採用することができない。


オしたがって,イ号物件の側壁部は,均等の第1要件を充足するものということはできない。


(3)第5要件について

 ア本件特許に係る拒絶理由(甲24)において,「空のときに軸方向圧縮で押し潰し得るプラスチックボトル」の発明に係る特表平10−502038号公報(甲28)が引用文献3として引用されているところ,同文献には,ミネラルウォーター等の飲料を収容するPET素材等のプラスチックボトルにおいて,側壁部に複数の横ひだの溝と外方突出状の折込開始部とを形成することによって蛇腹部を設け,容器が空のときに軸方向圧縮を加えて縮小させ,小さい体積の残余物にすることが記載されている。


イこれに対し,控訴人は,拒絶理由を回避するために,補正(甲25)により構成要件F及びGに相当する構成を加えた上で,本件特許の出願に係る拒絶査定不服審判請求の審判請求書(乙1)において,同文献に記載された発明は,PET素材等で薄肉に形成した一般的なプラスチックボトルの側壁部に蛇腹部を形成して押し潰し可能としたものであり,本件発明とは使用形態も構成も異なること,同文献には,本件発明のように係止部を設けて吊り下げ方式を採用することや,容器を下向きに支持できるように筒口部の周りの頂部を厚肉に形成するとともに,柔軟性を持たせた側壁部が下方へ崩れないように支持枠で囲うことを示唆する記載もないと主張していることが認められる。


ウそうすると,控訴人は,本件発明に係る特許出願手続において,本件発明の側壁部は支持枠によって囲わなければカートリッジ容器の一部が筒口部より下になって飲料の排出が困難となる程度の柔軟性を有するものであるとして,PET素材等のプラスチックボトルの側壁部に蛇腹部を設ける構成を特許請求の範囲から意識的に除外したものというべきであり,均等の第5要件に係る特段の事情が存在するものというほかない。


エしたがって,イ号物件の側壁部は,均等の第5要件を充足するものということはできない。


(4)小括

 以上によれば,本件各物件は,少なくとも,均等の第1要件及び第5要件を具備しないものというべきであるから,本件各物件における側壁部の柔軟性が本件発明における側壁部の柔軟性に均等なものとして,本件発明の技術的範囲に属するものと認めることはできない。』

 と判示されました。