●平成24(行ケ)10312 審決取消請求事件 特許権「液体インク収納容

 本日は、『平成24(行ケ)10312 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「液体インク収納容器,液体インク供給システムおよび液体インク収納カートリッジ」平成25年03月29日 知的財産高等裁判所(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130404105457.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審判の棄却審決の取消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、まず、取消事由3(サポート要件違反に関する判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 岡本岳、裁判官 武宮英子)は、


『3 取消事由3(サポート要件違反に関する判断の誤り)について

(1) 原告らは,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1及び3が「N−1型プリンタ」を含むかという点はサポート要件の問題であり,審決はこれを看過し,判断を脱漏した誤りがある,審決が前提とする「N−1型プリンタ」の理解には誤りがある,(「N−1型プリンタ」を含む)本件発明1及び2が,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているとすれば,「N−1型プリンタ」も本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているはずであり,「『N−1型プリンタ』が本件発明1及び2に含まれるにもかかわらず,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていないからといって,本件発明1及び2をサポート要件違反であるとすることはできない。」旨の審決の判断過程には誤りがある旨主張する。


 しかし,いわゆるサポート要件に関する特許法36条6項1号は,発明の詳細な説明に記載していない発明について特許請求の範囲に記載すると,公開されていない発明について独占的,排他的な権利が発生することになり,一般公衆からその自由利用の利益を奪い,ひいては産業の発達を阻害するおそれを生じ,特許制度の趣旨に反することになるから,これを防止する趣旨で,特許請求の範囲の記載に際し,発明の詳細な説明に記載した発明の範囲を超えて記載してはならない旨を規定するものである。


 そして,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断されるものである。

 上記の趣旨に照らすならば,「N−1型プリンタ」という特定の構成を有する製品が,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に含まれるか否か,発明の詳細な説明に記載されているか否かは,当該特許請求の範囲の記載のサポート要件充足性の問題には当たらないというべきである。


 したがって,この点につき,サポート要件を満たしているかどうかとは関係のないこととした審決の判断に誤りはなく,原告らの上記主張は理由がない。


(2) 原告らは,「補助的操作」の構成が,本件明細書の発明の詳細な説明によってサポートされているか否かはサポート要件の問題であり,審決はこの点について判断を脱漏した誤りがある,審決は,「補助的操作」が本件発明1及び2に含まれないものであるか否かを判断していないから,「補助的操作」について本件明細書に何ら記載されていないことにより,本件発明1及び2がサポート要件違反にならないかどうかは不明のはずであり,審決の判断過程には誤りがある旨主張する。


 しかし,上記(1) の趣旨に照らすならば,原告らの主張する「補助的操作」との構成(インクタンクが受光部に対向した位置での受光結果のみならず,非対向位置での受光結果をも検出し,対向位置での受光結果と比較する処理をいうものと解される。)が本件明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に含まれるか否か,発明の詳細な説明に記載されているか否かは,当該特許請求の範囲の記載のサポート要件充足性の問題には当たらないというべきである。


 したがって,この点につき,サポート要件を満たしているかどうかとは関係のないこととした審決の判断に誤りはなく,原告らの上記主張は理由がない。


(3) 原告らは,審決は,インクタンクごとにその搭載位置を特定しなくても,装着されるべき位置に正しいインクタンクが全て装着されているときとそうでないときとを判別できればよいと判断するところ,この判断は,審決の認定した発明の課題とは矛盾するから,審決の判断過程には誤りがある旨主張する。


 しかし,審決は,「エ 上記ウの実施の形態では,総てのインクタンクのLED101が点灯したと判断した後に,装着されるべき位置に正しいインクタンクが装着されているかどうかを判断し,前記第1受光部からの入力で発光が検出されなかった色情報が示すインク色のインクタンクは誤った位置に搭載されていることを認識し,装着されるべき位置に正しいインクタンクが装着されていなかった場合には,・・・そのとき前記制御回路300から出力した信号の色情報が示すインク色のインクタンクがその装着されるべき位置に誤って装着されてしまったインクタンクであることを特定するようにして,インクタンクごとにその搭載位置を特定しているが,このような処理でインクタンクごとにその搭載位置を特定できるのは,請求項1及び3に記載されている構成を備えていることが前提になっているのであるから,本件発明1及び2は,他の具体的な構成と相俟って,共通バス接続の方式を採用した場合でも液体インク収納容器の搭載位置の誤り(誤装着)を検出できるようにしたものである。」旨認定した上,「上記エのとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,・・・共通バス接続の方式を採用した場合でも液体インク収納容器の搭載位置の誤り(誤装着)を検出できるようにするための他の具体的な構成も記録されているから,発明の詳細な説明の記載は,本件発明1及び2をサポートしている」,「さらに,インクタンクごとにその搭載位置を特定しなくても,装着されるべき位置に正しいインクタンクがすべて装着されているときとそうでないときとを判別できれば,共通バス接続の方式を採用した場合でも液体インク収納容器の搭載位置の誤り(誤装着)を検出できるといえる。」と判断したものである(審決215頁下から2行目ないし216頁下から5行目)。


 そうすると,審決を全体としてみれば,本件発明1及び2が,共通バス接続方式を採用した場合でも,各液体インクタンクがインク色に従ってキャリッジの所定の位置に正しく装着されているか否かを検出することを課題とした発明であることを前提として,サポート要件を満たすかどうかを判断しているといえるから,その判断過程に誤りがあるとはいえない。』


 と判示されました。