●平成24(行ケ)10299 審決取消請求事件 特許権「液体調味料の製造

 本日も、『平成24(行ケ)10299 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「液体調味料の製造方法」平成25年4月11日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130412160743.pdf)について取り上げます。


 本件では、取消事由2(実施可能要件に係る認定判断の誤り)についての判断も参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 井上泰人、裁判官 荒井章光)は、


『3 取消事由2(実施可能要件に係る認定判断の誤り)について

(1) 実施可能要件について

 特許法36条4項1号は,発明の詳細な説明の記載は「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載したもの」でなければならないと規定している。


 特許制度は,発明を公開する代償として,一定期間発明者に当該発明の実施につき独占的な権利を付与するものであるから,明細書には,当該発明の技術的内容を一般に開示する内容を記載しなければならない。特許法36条4項1号が上記のとおり規定する趣旨は,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をすることができる程度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰し,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになるからであると解される。


 そして,方法の発明における発明の実施とは,その方法の使用をする行為をいうから(特許法2条3項2号),方法の発明については,明細書にその発明の使用を可能とする具体的な記載が必要であるが,そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその方法を使用することができるのであれば,上記の実施可能要件を満たすということができる。また,物の発明における発明の実施とは,その物の生産,使用等をする行為をいうから(同項1号),物の発明については,明細書にその物を製造する方法についての具体的な記載が必要であるが,そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造することができるのであれば,上記の実施可能要件を満たすということができる。


(2) 本件発明の実施可能要件の適否について

 本件発明1ないし8は,いずれも方法の発明であるが,その特許請求の範囲の記載にある「生醤油」(【0012】),「コーヒー豆抽出物」(【0018】),「アンジオテンシン阻害活性を有するペプチド」(ACE阻害ペプチド。【0027】【0029】)及び「液体調味料」(【0011】)については,いずれも本件明細書に具体的にその意義,製造方法又は入手方法が記載されている。また,本件発明1ないし8の方法は,上記「生醤油」を含む調味料と,「コーヒー豆抽出物」及び「アンジオテンシン阻害活性を有するペプチド」(ACE阻害ペプチド)から選ばれる少なくとも1種の原材料(本件発明1〜5)あるいは専ら「コーヒー豆抽出物」(本件発明6〜8)を混合し,特定の温度(及び時間)で加熱処理し,あるいは混合しながら同様に加熱処理し,更にその後に充填工程を行うというものであるが,これらの具体的手法は,液体調味料の加熱処理方法(【0065】)や,加熱処理が充填工程の前に行われること(【0035】)を含めて,いずれも本件明細書(【0035】【0036】【0038】)に記載されている。


 したがって,本件明細書の発明の詳細な説明には,これに接した当業者が本件発明1ないし8の使用を可能とする具体的な記載があるといえる。


 また,本件発明9は,本件発明1ないし8のいずれかの方法により製造した液体調味料という物の発明であるが,以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,これに接した当業者が本件発明1ないし8の使用を可能とする具体的な記載がある以上,当業者は,本件発明9を製造することができるものといえる。


(3) 原告の主張について

 原告は,本件発明はACE阻害ペプチドの由来や配合量等によって液体調味料の風味に大きな変化をもたらす可能性があり,かつ,血圧降下作用を示すとは限らないばかりか,風味変化と血圧降下作用を有する物質の配合量とが相反関係にある以上,ACE阻害ペプチドを使用する場合についての実施例が発明の詳細な説明に記載されていない限り,実施可能要件を満たさないと主張する。


 しかしながら,本件明細書に本件発明1ないし8の使用を可能とする具体的な記載があり,かつ,当業者が本件発明9を製造することができる以上,本件発明は,実施可能であるということができるのであって,原告の上記主張は,サポート要件に関するものとして考慮する余地はあるものの,実施可能要件との関係では,その根拠を欠くものというべきである。


 よって,原告の上記主張は,採用することができない。


(4)小括

 以上のとおり,本件発明は,特許法36条4項1号の実施可能要件に適合するものであって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。』

 と判示されました。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。