●平成24(行ケ)10043 審決取消請求事件 特許権「偉人カレンダー」

 本日は、『平成24(行ケ)10043 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「偉人カレンダー」平成25年03月06日 知的財産高等裁判所』』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130314102218.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、本願発明の特許法29条1項柱書要件該当性についての判断の誤り(取消事
由1)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 岡本岳、裁判官 武宮英子)は、


『1 本願発明の特許法29条1項柱書要件該当性についての判断の誤り(取消事
由1)について

(1) 審決は,本願発明の創作的特徴は情報の単なる提示にすぎず,情報の内容をどのようにするかは人間の精神活動そのものであって,上記情報の提示に技術的特徴を見いだすことができず,自然法則を利用した創作ということができないとして,本願発明は,特許法2条1項にいう「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当せず,同法29条1項柱書に規定する要件を満たしていないと判断したものであるところ,原告は,発明とは,同法2条1項で定義されているとおり,?自然法則を利用したものであること,?技術的思想であること,?創作であること,?高度のものであることが要件であり,本願発明は発明の要件を具備しており,審決の判断は誤りであると主張する。そこで,本願発明が,特許法2条1項に規定された「発明」に該当するかについて,以下に検討する。


(2)ア 特許法2条1項は,発明について,「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう」と規定する。ここにいう「技術的思想」とは,一定の課題を解決するための具体的手段を提示する思想と解されるから,発明は,自然法則を利用した一定の課題を解決するための具体的手段が提示されたものでなければならず,単なる人為的な取決め,数学や経済学上の法則,人間の心理現象に基づく経験則(心理法則),情報の単なる提示のように,自然法則を利用していないものは,発明に該当しないというべきである。そして,上記判断に当たっては,願書に添付した特許請求の範囲の記載全体を考察し,その技術的内容については明細書及び図面の記載を参酌して,自然法則を利用した技術的思想が,課題解決の主要な手段として提示されているか否かを検討すべきである。


イ これを本願発明についてみるに,本願の特許請求の範囲【請求項1】の記載は前記第2の2記載のとおりであり,本願明細書には,図面(別紙参照)とともに以下の記載がある。


 ・・・省略・・・


 しかしながら,表紙において偉人情報を提示する際,提示すべき事項としてどのような情報を選択するかは,発明者の主観に基づく単なる人為的な取決めにすぎず,また,その結果として特定された提示項目の集合についても,情報の単なる提示の域を超えるものではない。また,「偉人図又は写真」の近傍に「偉人名記載欄」を配置すれば,これらの情報の関連の視認性(見やすさ,分かりやすさ)が高まるといった一定の効果が認められるものの,そのような提示形態自体は,何ら自然法則を利用した具体的手段を伴うものではなく,情報の単なる提示の域を超えるものではない。


 また,本願発明のカレンダー部は,本願明細書の【図2】に例示されているように,(a)カレンダー部の「上部」に,当該偉人の読み方を併記した名記載欄と偉人図又は写真,当該偉人に縁のある写真又は絵図表示欄,偉人の出身地を示した地図,偉人の生存期間記載欄を設け,(b)カレンダー部の「中央部」に,代表的な業績を読み方とともに記載した偉人伝要約欄,偉人の生涯,業績,エピソードを読み方とともに記載した偉人伝概説欄を設け,(c)カレンダー部の「下部」に,年度欄,月表示欄,曜日欄,日付欄を設けたものである。


 しかしながら,カレンダー部において上記(a)〜(c)の情報を提示する際,提示すべき事項としてどのような情報を選択するかは,発明者の主観に基づく単なる人為的な取決めにすぎず,その結果として特定された提示項目の集合についても,情報の単なる提示の域を超えるものではない。また,偉人情報に関する特定の事項と,カレンダー情報とを「上部」,「中央部」及び「下部」の3段組で配置すれば,情報を外観上整理して提示でき,その結果として,見やすさ,分かりやすさといった一定の効果が認められるものの,そのような提示形態自体は,何ら自然法則を利用した具体的手段を伴うものではなく,情報の単なる提示の域を超えるものではない。


 したがって,そのような提示形態を上記(a)〜(c)の情報の配置に用いたとしても,情報の単なる提示の域を超えるものではない。

? 表紙及びカレンダー部よりなるカレンダーに定着させること


 本願発明は,「偉人カレンダー」とされていることから,カレンダーという物品を特定していると認められるが,その構成については,表紙とカレンダー部とを有することが漠然と特定されているにすぎない。そして,本願明細書の発明が解決しようとする課題(【0006】),課題を解決するための手段(【0007】,【0008】)及び発明の効果(【0009】)の記載によれば,本願発明は,カレンダーを用いて偉人情報を提示するという点に創作性がある発明として出願されたものと認められ,表紙及びカレンダー部のそれぞれは,偉人情報を提示するための紙面を提供するにすぎず,それ以上の情報提示の具体的手段を特定するものではない。そうすると,本願発明は,「表紙及びカレンダー部よりなるカレンダー」と特定することにより物品を形式的には特定しているものの,実質的には,偉人情報とカレンダー情報とが併記された複数枚の紙面,すなわち,情報を提示するための単なる紙媒体と何ら異なるものではない。


 そうすると,「表紙及びカレンダー部とを有するカレンダー」といった,物品の漠然とした特定をもって,本願発明が自然法則を利用したものであると評価することはできない。


? 毎日見るという特性を有するカレンダーとすること

 本願発明は,偉人情報の提示媒体として「毎日見るという特性を有するカレンダー」を用いること,すなわち,偉人情報を特定の提示形態で提示することによって,偉人に関する知識を自然に習得させるという効果を奏するものである。


 偉人に関する知識を自然に習得させるために,毎日見るというカレンダーの特性に着目した点については,一定の創作性が認められるとしても,それは,専ら,人間の習慣(人間は日常生活において日にちや曜日を確認すること),及びカレンダーの利用態様(カレンダーは見やすい場所に設置されること)に基づくものにすぎず,自然法則に基づくものではない。また,偉人カレンダーを情報を提示する媒体とすることにより,ユーザに偉人に関する知識を自然に習得させるという効果は,人間の心理現象である認識及び記憶に基づく効果にすぎず,自然法則を利用したものであると評価することはできない。


(イ) 以上に検討したとおり,本願発明は,その課題,課題を解決するための具体的手段として特定された構成,効果等の技術的意義を検討しても,自然法則を利用した技術的思想が,課題解決の主要な手段として提示されていると評価することができないから,特許法2条1項に規定された「発明」に該当するということができない。


(3) 原告の主張について

ア 登録されたカレンダーの発明及び考案が過去に多数存在するとの主張につき原告は,刊行物1(甲22)の発明が発明として特許されていること,甲2〜19の登録例等を挙げて,本願発明について,発明であることを否定することは,極めて不公平であり,審査の整合性,統一性がないと主張する。


 しかしながら,出願に係る発明についての特許要件の判断は,出願ごとに各別になされるものであるから,ほかにカレンダーに係る発明,考案の登録例が存在することは,本願発明の特許要件の判断を左右するものではなく,原告の主張は理由がない。


イ 審査基準によれば本願発明は発明に該当するとの主張につき

 原告は,審査基準の「第?部 第1章 産業上利用することができる発明」(甲21)の判断については,「発明を特定するための事項に自然法則を利用していない部分があっても,請求項に係る発明が全体として自然法則を利用していると判断されるときは,その発明は,自然法則を利用したものとなる」(2頁)と記載されているが,審決は,審査基準の上記記載と齟齬する判断手法を採用した誤りがあると主張する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


 しかしながら,審査基準は,特許庁の判断の公平性,合理性を担保するのに資する目的で作成された判断基準であって,法規範ではないから,当裁判所の判断を拘束するものではなく,原告の上記主張は,主張自体失当である。


 なお,仮に上記審査基準によっても,本願発明が全体として自然法則を利用していると判断することができないことは,上記(2)に説示したところから明らかである。


ウ 本願発明は情報の単なる提示ではないとの主張につき

 原告は,本願発明は,偉人情報等の集合,情報等の配置(手段・方法)に特徴があり,審査基準が情報の単なる提示に当たらないとするケースに該当すると主張する。


 しかしながら,審査基準に基づく主張が失当であることは上記イのとおりである。

 また,仮に上記審査基準によっても,本願発明の特定する提示形態は,情報の単なる提示の域を超えるものでないことは,上記(2)に説示したとおりである。


(4) 以上のとおり,本願発明は特許法2条1項に規定された「発明」に該当するということができないから,本願発明について,特許法2条1項にいう「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当せず,同法29条1項柱書に規定する要件を満たしていないとした審決の判断に誤りはない。

 したがって,取消事由1は理由がない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。