●平成24(行ケ)10280 審決取消請求事件 特許権「動態管理システム

 本日は、『平成24(行ケ)10280 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「動態管理システム,受信器および動態管理方法」平成25年3月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130411144441.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審判の無効審決の取消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、発明者の認定方法についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 高部眞規子、裁判官 齋藤巌)は、


『4 発明者の認定方法について

(1) 本件審決の認定について

ア 被告従業員である B が作成した B メールに記載された「?の方法は『トリガーがトリガーのIDを発信し,そのトリガーに起動されたタグがそのIDをひらって自分のIDとトリガーのIDを受信機に送る』ということだと思います」との部分は,「トリガがトリガのIDを発信し,そのトリガに起動されたタグがそのIDをひろって自分のIDとトリガのIDを受信機に送る装置又は方法」(以下,本件審決に倣い,「甲6発明」という。)を意味するものであること並びに甲6発明と本件発明1,6及び7とに差異がないことについては,原告も認めるところである。そして,これによると, B は,遅くとも B メールを作成した平成15年11月14日には,本件発明1,6及び7に相当する技術的思想である甲6発明を実質的に知得していたものと認められる。


 したがって,本件審決が, B は,遅くとも B メールが送信された平成15年11月14日には,少なくとも本件発明1,6及び7に相当する技術的思想を実質的に知得していたと認定したことに誤りはない。


イ 前記1認定の本件発明の属する技術分野及びその特徴,前記2認定の A と B の本件発明に係る技術分野について有する知見の程度及び原告と被告の関係等の諸事情に照らしても,原告従業員である A が本件発明1の発明者又は共同発明者とはいえないとした本件審決の認定判断に誤りはない。そして,このことは,請求項1を引用する本件発明2ないし5並びに本件発明1の構成を受信器又は方法の形式で請求項とした本件発明6及び7についても,同様である。


(2) 原告の主張について

ア 原告は,本件において, B が発明者であることの主張立証責任は,特許権者である被告にあり,原告は,冒認を疑わせる具体的な事情の内容を十分に主張立証していると主張する。


 なるほど,冒認又は共同出願違反を理由として請求された特許無効審判において,「特許出願がその特許に係る発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたこと」についての主張立証責任は,形式的には,特許権者が負担すると解すべきであるとしても,「出願人が発明者であること又は発明者から特許を受ける権利を承継した者であること」は,先に特許出願されたという事実により,他に反証がない限り,推認されるものというべきである。


 本件においては, Bは,遅くとも Bメールを作成した平成15年11月14日には,本件発明1,6及び7に相当する技術的思想である甲6発明を実質的に知得していたものと認められるから,本件発明1,6及び7に相当する技術的思想を知得した上で先に被告が特許出願したことにより,被告が発明者であること又は発明者から特許を受ける権利を承継した者であることは,他に反証がない限り,推認されるものというべきである。


 この点に関し,原告は,本件添付ファイルに記載された発明が本件発明であり,本件添付ファイルに記載された発明は A が着想したものであることをもって, Aが本件発明の発明者である旨を主張するものであるところ,本件添付ファイルに本件発明が記載されているとはいえないことは,前記3のとおりであるから,原告のかかる主張立証が有効な反証といえるものでないことは明らかであるし,他に上記推認を覆すに足りる証拠はない。


 よって,原告の上記主張は,採用することができない。


イ 原告は,本件発明においては,トリガ信号にIDを含めるという着想さえできれば,それを具体化することは当業者にとっては自明であったとして,トリガ信号にIDを含めるという着想を行った A が本件発明の発明者又は共同発明者の1人に当たると主張する。


 しかし,発明とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいうから(特許法2条1項),真の発明者又は共同発明者といえるためには,当該発明における技術的思想の創作行為に現実に加担したことが必要である。


 これを本件についてみると,前記3(1)のとおり,本件添付ファイルには,受信機に送られる「各トリガのID情報」が,「TAG」(IDタグ)に対する信号である「トリガ信号」と同じものを意味する旨の記載やこれを示唆する記載があるとはいえず,したがって,本件添付ファイルには「トリガ信号にIDを含める」ことが記載されているとはいえない。よって,原告の上記主張は,前提において理由がないものである。


 さらに,前記1(2)のとおり,本件発明は,トリガ信号発信器が,それぞれ異なる特性を有するトリガ信号を出力するとともに,トリガ信号を受信したIDタグが,受信したトリガ信号を特定する情報とともにID番号を出力することにより,IDタグが,どのトリガ信号発信位置をどのように通過したかを知ることができるものである。すなわち,本件発明は,「トリガ信号にIDを含める」とともに,それを受信したIDタグが,(リアルタイムで)トリガ信号のID情報と,IDタグ自身のID番号を出力することにより,IDタグの現在位置(すなわちトリガ信号が発信されている場所)の把握を可能にするものであり,「トリガ信号にIDを含める」ことのみが,本件発明における課題を解決するための具体的な着想ということはできないから, A が本件発明における技術的思想の創作行為に現実に加担したとはいえない。


 なお,前記2(1)のとおり,乙5には,IDタグを起動するためのトリガ信号にブース番号を載せることによりトリガ信号の特性を入場者管理装置(トリガ発信器)ごとに異ならせる構成が開示され,トリガ信号にIDを含めることが記載されており,また,乙6にも,「トリガ信号にブース番号と時刻をのせて発信させ,ID固有番号タグはそれを受信してメモリーに記憶させる」など,トリガ信号にIDを含めることが記載されていることに照らすと,トリガ信号にIDを含めることは,被告の先行技術というべきものである。


 よって,原告の上記主張は,いずれにせよ,採用することができない。


ウ 原告は,本件発明と甲5発明の相違点を検討して結論を導いた本件審決の判断方法自体が誤っているとも主張する。


 しかしながら,本件審決は,甲5発明と本件発明の相違点を検討し,両者は,動態管理を実現するための具体的手段において大きく相違するとして,甲5発明を具体化させたとしても,本件発明とはならないことから,甲5発明の着想者が,本件発明1の創作に実質的に関与した者であるとはいえないと判断したのであり,その判断に違法があるとはいえない。

 よって,原告の上記主張は,採用することができない。


5 結論

 以上の次第であるから,原告主張の取消事由には理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。』

 と判示されました。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。