●平成24(行ケ)10111審決取消請求事件特許権「シンチレータパネル」

 本日は、『平成24(行ケ)10111 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「シンチレータパネル」平成25年1月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130201110826.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審判の棄却審決の取消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、取消事由1(本件発明1と甲1発明の相違点1の判断における理由不備)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 西理香、裁判官 知野明)は、

『1取消事由1(本件発明1と甲1発明の相違点1の判断における理由不備)について

(1)蒸着対象に係る認定について


 ・・・省略・・・


ウ検討


(ア)上記イの各種刊行物の記載内容から判断すると,「蒸着により膜形成を行う場合,蒸着させる対象の表面の材質,構造により膜の成長がうまくいくかどうかが左右されること」は,当業者にとって常識的な事項であることが優に認められる。原告は,審決は,何ら主張立証のないまま,「蒸着により膜形成を行う場合,蒸着させる対象の表面の材質,構造により膜の成長がうまくいくかどうかが左右されることは,当業者にとって常識的な事項である」と認定し,これを相違点1に係る容易想到性判断の当然の前提としており,この点において理由不備の違法があるとと主張する。


 しかし,発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者の技術上の常識又は技術水準とされる事実などこれらの者にとって顕著な事実について判断を示す場合は,その判断の根拠を証拠による認定事実に基づき具体的に明示することを必ずしも要しない(最高裁昭和59年3月13日第三小法廷判決・裁判集民事141号339頁参照)ところ,「蒸着により膜形成を行う場合,蒸着させる対象の表面の材質,構造により膜の成長がうまくいくかどうかが左右されること」は,当業者にとって常識的な事項であるから,この点について判断を示す場合は,その判断の根拠を証拠による認定事実に基づき具体的に明示することは必ずしも必要ではない。


 したがって,原告の上記主張は理由がない。


(イ)原告は,審決は,何ら理由を述べることなく,「甲第7号証に開示された上記技術から,引用発明における拡散反射層上に形成するCsI:Tlの針状結晶膜を,二酸化チタンおよび結合剤を溶剤中に混合分散して塗布液を調製した後,これを支持体上に塗布乾燥することにより形成された拡散反射層上に直接蒸着により形成することを導き出すことは,当業者にとって容易になし得たことではない。」と判断しており,この点において理由不備の違法があると主張する。


 しかし,審決は,甲第7号証に,ガラス製の基板26上に真空蒸着法により形成された反射膜としてのAl膜13の表面に蒸着法によってTlドープのCsIによる柱状構造のシンチレータ16を形成することが記載されていることを認定した上(審決書30頁25行〜31頁1行),「蒸着により膜形成を行う場合,蒸着させる対象の表面の材質,構造により膜の成長がうまくいくかどうかが左右されること」が当業者にとって常識的な事項であること参酌した結果,上記判断に至っているものであり,上記判断に至る理由は述べられている。


 したがって,原告の上記主張は理由がない。


エ小括

 よって,蒸着対象に係る審決の認定に理由不備があるとの原告の主張は理由がない。』

 と判示されました。