●平成24(行ケ)10168 審決取消請求事件 特許権「ニードルアセンブ

 本日は、『平成24(行ケ)10168 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ニードルアセンブリ,これを具えた皮内移送装置」平成25年1月30日知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130205104543.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、進歩性についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 岡本岳、裁判官 武宮英子)は、


『ウ上記の認定によれば,本願補正発明は,熟練や経験のない人が皮内注射を行う場合でも患者が苦痛を感じることなく,かつ,経済的合理性に対する要望にも対処することを目的(解決課題)として.皮下注射用の針を用いて皮内注射を行うニードルアセンブリであるのに対し,引用発明は,皮内注射に適した針を用いて注射器針の透過深度をコントロールするか調整することにより,皮内注射の際の患者の苦痛を緩和ないし除去することを目的とした装置であるということができる。そして,上記の引用発明の目的からすると,引用例に接した当業者が,引用発明の「皮内注射を行うのに使用する針」,すなわち皮内注射に適した針を,敢えて,本願補正発明の「皮下注射用の針」に変更しようと試みる動機付けや示唆を得るとは認め難いから,当業者にとって,相違点に係る本願補正発明の構成を容易に想到し得るとはいえない。


エこれに対し,被告は,?皮下注射用の針を皮内注射に用いることは,従来より慣用されており,「皮下注射用の針」が,大量生産され市場に広く流通しているのであれば,引用発明における「針3」として「皮下注射用の針」を選択することは,当業者が当然に試みることである,?引用発明において,内部に収容される内部円筒状ボディー6や針3の長さに合わせて,外部円筒状ボディー5の長さが決められるのであり,針3は,その全長に比して「短い長さ」分だけ表面20から突き出させて構成されるから,「針3」として,全長の長い「皮下注射用の針」を選択することの動機付けも存在する旨主張する。


 しかし,上記の引用発明の目的,及び,引用例に「装置1は患者の皮膚8と接触するように,つまり表面20の端部が患者の皮膚8と接触させられるように,用いられます。この位置では,装置1は針3が所定長さ皮膚に入ることを可能にするために皮膚8をわずかに変形するためにわずかに押されます。」,「表面20の端部24または縁が,患者の皮膚8にわずかに押し付けられるから,それは,針3刺し傷を囲む領域を敏感にすることができ,それにより,皮内注射の間に患者に作用する軽い痛覚はより減少され,・・・繰り返される注射の場合に,患者に対する,より大きな痛み除去を確実にします。」と記載され(上記(1)イ),注射を行う際の皮膚に対する押付け力はわずかなものとされていることにかんがみると,たとえ,皮下注射用の針を皮内注射に用いることが従来から慣用されている事実を認め得るとしても,引用発明の皮内注射に適した「針3」を,技術常識からみて皮膚への刺入に要する力がより大きいと理解される皮下注射用の針に変更する動機付けはなく,当業者が当然に試みることともいえない。このことは,皮下注射用の針が大量生産され市場に広く流通しているとしても同様である。よって,被告の上記主張は失当である。


オしたがって,本願補正発明の「皮下注射用の針」と引用発明の「皮内注射を行うのに使用する針3」とは,単なる適用部位の相違であり,本願補正発明の構成は,当業者が容易に想到できるとした審決の相違点に関する判断は誤りであり,原告の主張には理由がある。


2取消事由3(本願補正発明の効果の看過)について

 原告は,本願補正発明の「針」及び「皮膚接触面」と,引用発明の「針3」及び「皮膚8に接触する表面20」とでは,皮膚に対する作用を異にしており,また,引用発明は,「皮内注射を行うのに使用する皮下ニードルアセンブリ」といえず,本願補正発明の,皮下ニードルを用いて,皮内注射を可能としたという顕著な効果を示唆しているとはいえないにもかかわらず,審決は,本願補正発明の顕著な作用効果を看過した誤りがある旨主張する。


 上記1のとおり,本願補正発明は,相違点に係る構成を採用することにより,単に皮膚に垂直に装置を押し付けることにより物質を注入できるので,薬剤やワクチン等の物質を皮内に注射する場合などに適し,かつ,リミッタ部分とハブ部分により患者の皮膚に突き刺す針の有効長さより全長の大きい針の使用が可能となるので,小径の皮下注射針を使用するなどして,薬剤注入装置を安価な構成にて提供することができるとの効果を奏するものである。かかる効果は,皮内注射に適した針を使用する引用発明からは予測できないものであり,顕著な効果ということができる。


 したがって,本願補正発明による効果は,引用発明から当業者が予測し得た程度のものであって,格別のものとはいえないとした審決の判断は誤りであり,原告の上記主張には理由がある。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。