●平成24(行ケ)10166 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「表底」

 本日は、『平成24(行ケ)10166 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「表底」平成25年1月17日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130204141519.pdfについて取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消しを求めた審決取消請求事件でその請求が認容された事件です。


 本件では、進歩性の容易想到性についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 井上泰人、裁判官 荒井章光)は、


『2本件相違点の容易想到性について

 技術分野,解決課題及び作用効果について

 引用発明1と本願発明とは,いずれも運動靴の靴底(表底)に関するものであって,技術分野を同一にする。


 しかしながら,引用発明1は,前記1イに説示のとおり,スパイク付き運動靴が,接地の際に急速に停止する機能を有していることを前提として,その機能に起因する課題を解決し,靴底の上部辺が幾分揺れるようにして徐々に停止するという作用効果を有するものであるに対し,本願発明は,前記1イに説示のとおり,既存の運動靴の表底が接地の際に弾性を備えていることを前提として,その機能に起因する課題を解決し,表底をそれ以上変形しない状態にして摩擦結合等を生じさせ,運動靴が接地した地点に堅固に安定させるという作用効果を有するものである。


 このように,引用発明1は,運動靴の接地に伴う急速な安定性を解消して弾性をもたらそうとするものであるのに対し,本願発明は,運動靴の接地に伴う弾性を解消して安定性をもたそうとするものであって,その解決課題及び作用効果が相反している。したがって,引用例1には,本願発明の本件相違点に係る構成を採用することについての示唆も動機付けもない。


 むしろ,引用発明1は,接地による荷重が掛かった際に上部辺が前後に揺れるように構成されているものであるから,引用例1には,これとは相反する本願発明の本件相違点に係る構成を採用することについて阻害事由があるということができる。


 ・・・省略・・・


引用発明1に引用発明2を組み合わせることについて

ア引用発明1及び2は,いずれも運動靴の靴底(表底)に関するものであって,技術分野を同一にする。


 しかしながら,引用発明1は,前記1イに説示のとおり,スパイク付き運動靴が,接地の際に急速に停止する機能を有していることを前提として,その機能に起因する課題を解決し,靴底の上部辺が幾分揺れるようにして徐々に停止するという作用効果を有するものであるのに対し,引用発明2は,前記イに説示のとおり,ランニングシューズの靴底が接地の際に弾性を備えていることを前提として,その機能に起因する課題を解決し,上層に設けられた突起が直ちに下層に接することで足を内側に巻き込むローリング現象を防止するという作用効果を有するものである。


 このように,引用発明1は,運動靴の接地に伴う急速な安定性を解消して弾性をもたらそうとするものであるのに対し,引用発明2は,運動靴の接地に伴う弾性を解消して安定性をもたそうとするものであって,その解決課題及び作用効果が相反している。したがって,引用例1には,引用発明1に引用発明2を組み合わせることについての示唆も動機付けもない。


 ・・・省略・・・


ウ被告は,引用発明1及び2が,クッション性を確保した靴底である点で共通していると主張する。


 しかしながら,引用発明1は,それによる作用効果として運動靴の接地に伴う急速な安定性を解消して弾性がもたらされるものであるのに対し,引用発明2は,運動靴の接地に伴う弾性を解消して安定性をもたらすことを解決すべき課題としているから,両者がクッション性(弾性)を確保した靴底である点で共通していると評価することはできない。


 よって,被告の上記主張は,採用できない。


エ被告は,引用発明1が強度不足の改善を図るものであり,引用発明2が突起により強度不足を改善するものであるから,当業者が両者を組み合わせることを容易に想到し得たと主張する。


 しかしながら,引用例1には,空洞部に柔軟な充填材を挿入することで強度不足を調節する旨の記載があるものの,引用発明2の突起は,接地の際にそれが直ちに下層に接することでローリング現象を防止するものであって,その機能を異にしているから,両者は,異なる部材であるというほかなく,引用例1に強度不足の改善に関する記載があるからといって,引用発明2を組み合わせることを動機付けることにはならない。


 よって,被告の上記主張は,採用できない。


小括

 以上のとおり,引用発明1及び2と本願発明とは,いずれも運動靴の靴底(表底)に関するものであって,技術分野を同一にするが,引用発明1は,運動靴の接地に伴う急速な安定性を解消して弾性をもたらそうとするものであるのに対し,引用発明2及び本願発明は,運動靴の接地に伴う弾性を解消して安定性をもたらそうとするものであって,その解決課題及び作用効果が相反しているから,引用例1には,本願発明の本件相違点に係る構成を採用すること又は引用発明2を組み合わせることについての示唆も動機付けもないばかりか,引用発明1は,接地による荷重が掛かった際に上部辺が前後に揺れるような構成を採用しているため,これとは相反する本願発明の本件相違点に係る構成を採用することについて阻害事由があるということができ,さらに,仮に引用発明1に引用発明2を組み合わせたとしても,それによって本願発明の本件相違点に係る構成が実現されるものではない。


 したがって,引用例1に接した当業者は,これに引用発明2を適用して本願発明の本件相違点に係る構成を容易に想到することができたということはできない。


3結論

 以上の次第であるから,原告主張の取消事由には理由があるから,本件審決は取り消されるべきものである。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。