●平成21(ワ)44391 特許権侵害差止等請求本訴事件「ごみ貯蔵機器」

 知財高裁のHPに明日の2/1の13;30から大合議事件(http://www.ip.courts.go.jp/documents/g_panel.html)として、『平成21(ワ)44391 特許権侵害差止等請求本訴事件 特許権 民事訴訟「ごみ貯蔵機器」平成23年12月26日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120214121549.pdf)の控訴審の言い渡しがあるようなので、再度、本件を取り上げます。


 なぜ本件の控訴審を大合議事件として取り扱うかは不明ですが、おそらく一審で「本件発明1のごみ貯蔵カセットは,「ごみ貯蔵カセット回転装置に係合されて回転可能に据え付け,かつ,ごみ貯蔵カセット回転装置から吊り下げられる」構成であるが,かかる用途等に限定されるものではないと解するのが相当である。」と判示した点について、大合議での解釈を示すのではないかなと思っています。


 本件では、まず、争点(1)本件発明1に係る特許権の侵害の有無などについての判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第29部 裁判長裁判官 大須賀滋、裁判官 菊池絵理、裁判官 小川雅敏)は、


『1争点(1)本件発明1に係る特許権の侵害の有無,(1)−1本件発明1の構成要件充足性(直接侵害),(1)−1?本件発明1の構成要件A(A),構成要件F(B−5),構成要件G(C)の解釈について


(1)本件発明1の構成要件A(A),F(B−5),G(C)に関して,被告は,本件発明1のごみ貯蔵カセットは,「ごみ貯蔵カセット回転装置に係合されて回転可能に据え付け,かつ,ごみ貯蔵カセット回転装置から吊り下げられる」との用途等に限定されるものと解されるとするのに対し,原告は,上記用途等に限定されるものではないと解されると主張するので,この点について検討する。


ア特許請求の範囲

本件特許の特許請求の範囲によると,本件発明1(請求項14)において,「ごみ貯蔵カセット」は,「回転可能に据え付ける」「ため」に「ごみ貯蔵機器の上部に備えられた小室に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置に係合され」(構成要件A(A)),「ごみ貯蔵カセットの支持・回転の」「ために」,「ごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように」,「外側壁から突出する構成」を備え(構成要件F(B−5)),「ごみ貯蔵カセット回転装置から吊り下げられるように構成」(構成要件G(C))されているから,本件発明1における「ごみ貯蔵カセット」は,ごみ貯蔵カセット回転装置に係合されて回転可能に据え付けられ,かつ,ごみ貯蔵カセット回転装置から吊り下げられる構成であることが認められるものの,特段,それ以外の用途に使用されることを排除するような記載は存在しない。また,本件特許の特許請求の範囲について,本件発明1(請求項14)以外の請求項(請求項1〜13,15〜20)においても,ごみ貯蔵カセットを回転させるために,ごみ貯蔵カセットに係合し,ごみ貯蔵カセットを吊り下げるように構成されたごみ貯蔵カセット回転装置を備えた「ごみ貯蔵機器」(請求項1〜8,11〜13,19),又は,回転可能に据え付けるため,ごみ貯蔵カセット回転装置と係合し,ごみ貯蔵カセット回転装置から吊り下げられるように構成された「ごみ貯蔵カセット」(請求項9,10,15〜18,20)として構成要件が記載されているが,特段,それ以外の用途に使用されることを排除するような記載は存在しない。


 したがって,特許請求の範囲の記載からみる限り,本件発明1における「ごみ貯蔵カセット」については,上記用途等に限定されるものではないと解するのが相当である。


 被告は,本件発明1の構成要件A(A),F(B−5)に「ために」と記載されていることから,用途が限定されていると主張するが,上記「ために」との記載は,「回転可能に据え付ける」又は「ごみ貯蔵カセットの支持・回転」というごみ貯蔵カセットをごみ貯蔵カセット回転装置に係合させることの目的を表すにすぎず,それ以上に他の用途を排除するものと解することはできない。また,被告は,本件特許のすべての請求項の記載からも,上記用途に限定されるとするが,上記のとおり,本件発明1以外の請求項においても,その他の用途を排除する記載は存在しない。したがって,被告の主張を採用することはできない。


イ発明の詳細な説明,図面


・・・省略…


(イ)以上の記載によると,本件発明は,例えばおむつのようなごみを貯蔵するごみ貯蔵機器に関する発明であり(段落【0001】),ごみ貯蔵カセットは,異なる容器の大きさに対応でき,また,カセットの回転抵抗を最小にすることが望ましいところ(段落【0013】),本件発明のごみ貯蔵機器は,ごみ貯蔵カセットを回転させることができるよう,把持部をもつ外側の回転可能な円板を備え,回転可能な円板はごみ貯蔵カセットと係合しており(段落【0017】),さらに,ごみ貯蔵カセットは,その外側円筒状壁周りの環状フランジから吊るすように設計されている結果,多数の異なるタイプの容器に据え付けることができ,回転するために低抵抗であること(段落【0020】),実施例においても,同様の構成が開示されていること(段落【0023】,【0026】)からすると,本件明細書において,ごみ貯蔵カセットは,ごみ貯蔵カセット回転装置に係合して吊り下げられる構成が開示されていると認められる。


 しかしながら,他方,本件明細書においては,上記の構成のみに限定し,それ以外の用途に使用される構成を含むことを排除するような記載は特段存していないこと,回転装置が欠落したごみ貯蔵機器にも適合することが本件発明1のごみ貯蔵カセットとしての技術的意義を損なうことをうかがわせるような記載は存在しないことからすると,本件発明1のごみ貯蔵カセットについては,ごみ貯蔵カセット回転装置に係合して吊り下げられる構成ではあるが,かかる用途等に限定されるものではないと解するのが相当であり,このように解することが,本件明細書の記載にも整合するというべきである


 したがって,本件明細書の記載によっても,本件発明1のごみ貯蔵カセットは,上記用途に限定されるものではないと解するのが相当であり,これに反する被告の主張を採用することはできない。


ウ出願経過,出願当時の技術水準

 被告は,出願経過及び出願当時の技術水準に照らすと,本件特許の出願人(原告)は,回転装置欠落ごみ貯蔵機器に取り付けて使用することができるようなごみ貯蔵カセットについては,本件発明1より意識的に除外したと主張する。


 そこで検討すると,本件特許の出願当時の技術水準については,本件特許の出願日前に頒布された乙14文献では,環状ボディと環状フランジで形成されるごみ貯蔵カセットが開示されているが,ごみ貯蔵カセット回転装置の有無や,ごみ貯蔵カセットとごみ貯蔵カセット回転装置との関係等については開示されていないことが認められる。また,本件特許の出願経過によると,特許庁は,平成21年9月3日付け拒絶理由通知(乙25)により,本件特許の出願日前に頒布された特開2000−247401号公報(乙26)に係る発明である「フィルムカセットを受け入れる小室と,小室内でフィルムカセットを回転させるために,小室内に回転可能に据え付けられ,フィルムカセットに嵌合するように形成されたごみ貯蔵カセット回転装置とを備え,フィルムカセット回転装置はフィルムカセットの回転のためのフィルムカセットを支持する構成を備えたごみ貯蔵機器」を主引用例とし,同様に本件特許の出願日前に頒布された特開2002−226003号公報(乙21),実開平07−028104号公報のCD−ROM(乙22),米国特許出願公開2002/0162304号公報(乙20)に各記載された技術思想を適用すると,本件特許の請求項1〜15に係る発明は,当業者が容易に発明することができた旨を通知したこと,これに対し,原告(出願人)は,特許庁に対し,同年10月2日付けで手続補正書(甲5)及び意見書(乙27)を提出し,本件発明1に係る請求項14のごみ貯蔵カセットについては,ごみ貯蔵機器の「上部に備えられた小室」に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置に係合され回転可能に据え付けられ,ごみ貯蔵カセット回転装置から「吊り下げられるように構成された」(構成要件F(C))ものとしてその構成を補正し,意見書(乙27)においても,上記の引用例においては,上記補正後の構成の開示や示唆はないと述べたことがそれぞれ認められる。


 したがって,本件特許の出願当時の技術水準及び本件特許の出願経過によれば,本件発明1にかかるごみ貯蔵カセットは,ごみ貯蔵カセット回転装置と係合して据え付けられ,ごみ貯蔵カセット回転装置から吊り下げられる構成として特定されたと認めるのが相当である。そして,他方において,上記の出願経過において,回転装置欠落ごみ貯蔵機器について特段の言及がないこと等からすると,原告(出願人)において,ごみ貯蔵カセットについて,補正により上記の構成とした以上に,回転装置欠落ごみ貯蔵機器に取り付けて使用することができるような構成のごみ貯蔵カセットを意識的に排除したと解することはできないというべきである。したがって,これを前提とする被告の主張は,いずれも採用することはできない。


(2)以上によると,本件発明1の構成要件A(A),F(B−5),G(C)に関して,本件発明1のごみ貯蔵カセットは,「ごみ貯蔵カセット回転装置に係合されて回転可能に据え付け,かつ,ごみ貯蔵カセット回転装置から吊り下げられる」構成であるが,かかる用途等に限定されるものではないと解するのが相当である。』