●平成24(行ケ)10196 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「孔なし

 本日は、『平成24(行ケ)10196 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「孔なし且つむき出しのエラストマー層を含有する使い捨て吸収性物品」平成25年1月21日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130124111237.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、取消事由2(相違点2に関する判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 岡本岳、裁判官 武宮英子)は、


『1取消事由2(相違点2に関する判断の誤り)について

 原告は,相違点2に係る本願発明の構成の容易想到性について,?引用発明には,本願発明の解決課題が存在し得ず,引用発明を基礎にして本願発明に至ることはない,?引用刊行物1にも,周知技術を示す文献として審決が引用する甲3及び甲4にも,引用発明に,エラストマー層へのブロッキング防止処理工程を含ませるべきことを開示又は示唆する記載はないとして,相違点2に係る本願発明の構成は当業者が容易に想到し得る旨判断した審決は誤りである旨主張するので,以下,検討する。


 ・・・省略・・・


 以上によれば,引用発明は,エラストマー部材を有する伸縮性複合体ないしその製造方法に関するものであって,伸縮性積層体が「カット・アンド・スリップ」プロセスで,製品の望ましい位置に粘着剤で貼り付けられる必要があり,異なる伸縮性の伸縮性積層体を用いたり,これらを製品の異なる位置に貼り付けたりするには,複数のカット・アンド・スリップユニットが必要なことがあるため,プロセスが厄介で複雑なものになるとの課題があり,これを解決する手段として,エラストマー構成成分を形成する工程とエラストマー構成成分を基材に結合する工程とが1つの工程の連続したプロセスに組み合わされた,新しいプロセスを提供するものであることが認められる。


 すなわち,引用発明の課題及びその解決手段は,異なる伸縮性の伸縮性積層体を「カット・アンド・スリップ」プロセスで製品の望ましい位置に貼り付ける工程を効率化する目的で,エラストマー構成成分を形成する工程と基材に結合する工程を1つの工程の連続したプロセスに組み合わせるというものであって,本願発明の課題及びその解決手段である,エラストマーフィルムから剥離ライナーを分離,除去し,巻き上げるためのプロセスを促進する目的で,不織布層を含むかかるフィルムの積層プロセスを促進するのに必要とされるブロッキング防止を助ける機構を備えることとは全く異なるというべきである。また,引用刊行物1には,エラストマー材をグラビア印刷等により基材に直接付加する方法と,エラストマー材を中間体の表面に配置した後,オフセット印刷のように間接的に基材に移す方法が挙げられるところ,前者の方法は,流体状のエラストマー材が基材に直接付加されるため,エラストマー層がブロッキングすることはなく,後者の方法は,エラストマー材はいったん中間体の表面に配置されるものの,引き続き中間層ごと基材に圧着,転写されるため,やはりエラストマー層がブロッキングすることはないから,引用発明における伸縮性複合体の製造方法で,エラストマー構成成分を形成した後,基材に結合する前にブロッキングが生じるおそれはないといえる。


 そうすると,引用発明における伸縮性複合体の製造方法において,エラストマー構成成分を形成後,基材に結合する前に,ブロッキング防止処理を適用する動機付けはないというべきであり,これにブロッキング防止処理工程を含むとすることは,当業者が容易に想到することではないから,引用発明から,相違点2に係る本願発明の構成である「当該エラストマー層の1以上の表面への粉末の塗布を含むブロッキング防止処置を当該エラストマー層に施す工程を含む方法によって得られ」との構成に至ることは,当業者にとっても容易ではないというべきである。


 したがって,相違点2について,「引用発明において,伸縮部材を得る方法についての特定に,エラストマー層表面へのブロッキング防止処置工程を含むとすることは,当業者が容易に想到しうる」とした審決の判断は誤りである。


イこれに対し,被告は,引用刊行物1には,伸縮性複合体を製造するのに,エラストマー構成成分の形成工程と基材への結合工程とが連続している製造に関して,より適した方法であるとの記載があるとしても,一般的な製造方法としてエラストマー形成工程後に保存して基材に結合する方法も当然認識され,記載される旨主張するとともに,吸収性物品の技術分野や多層積層樹脂フィルム製造においては,各種ブロッキング防止処理が周知慣用技術である旨主張する。


 しかし,上記ア認定のとおり,引用発明は,異なる伸縮性の伸縮性積層体を「カット・アンド・スリップ」プロセスで製品の望ましい位置に貼り付ける工程を効率化することを目的(課題)とするものであって,引用刊行物1において,当該発明が,伸縮性複合体の製造方法に関する一般的課題を解決しようとするものであることが記載ないし示唆されているとは認められないから,引用刊行物1記載の発明における製造方法に,エラストマー構成成分を形成後,基材に結合する前にブロッキング防止処理を適用する動機付けがあるとはいえない。そして,引用刊行物1記載の発明における製造方法に,ブロッキング防止処理を適用する動機付けが認められない以上,ブロッキング防止処理が周知慣用技術として存在するとしても,引用発明に,当該周知慣用技術を適用して本願発明に想到することが容易であると判断することはできないというべきである。


 したがって,被告の上記主張は失当である。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。