●平成23(ワ)36736 不正競争防止法4条に基づく損害賠償請求事件

 本日は、『平成23(ワ)36736 不正競争防止法4条に基づく損害賠償請求事件(不正競争) 平成24年12月25日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130107093535.pdf)について取り上げます。


 本件は、不正競争防止法4条に基づく損害賠償請求事件で、その請求が一部認容された事案です。


 本件では、争点1(不競法2条1項3号の不正競争行為該当性)における原告商品1の形態模倣に係る損害賠償請求と、不競法2条1項3号の「商品の形態」該当性についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第46部 裁判長裁判官 大鷹一郎、裁判官 上田真史、裁判官 石神有吾)は、


『1争点1(不競法2条1項3号の不正競争行為該当性)について

(1)原告商品1の形態模倣に係る損害賠償請求について

 本件の原告の請求は,被告による被告商品の販売が原告各商品の形態模倣の不正競争行為(不競法2条1項3号)に該当し,これにより原告の営業上の利益を侵害したことを理由に,同法4条に基づいて,被告に対し,同法5条1項により算定される原告の損害額の損害賠償を求めるものである。


 ところで,不競法5条1項は,同法2条1項1号から9号まで又は15号に掲げる不正競争によって営業上の利益を侵害された被侵害者が,その侵害の行為を組成した物の譲渡数量に,その侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じた額を,被侵害者の当該物に係る販売その他の行為を行う能力に応じた額を超えない限度において,被侵害者が受けた損害の額とすることができる旨を規定したものであって,被侵害者において侵害の行為を組成した物の譲渡がなければ自己の物を販売することができたことによる得べかりし利益(逸失利益)の損害が発生していることを前提に,その損害額の算定方法を定めたものである。


 そうすると,侵害の行為を組成した物に該当すると主張する物と自己の物とが,市場において,代替性がなく,相互に補完する関係にないのであれば,上記得べかりし利益の損害が発生したものとはいえないから,不競法5条1項の規定を適用する余地はないものと解される。


 しかるところ,原告商品1が被告商品と代替性がないことは,前記争いのない事実等(3)アのとおりであるから,原告は,原告商品1との関係では,被告に対し,原告主張の不競法5条1項に基づく損害額の損害賠償を求めることができないというべきである。


 被告による被告商品の販売は,原告商品1の形態との関係で,不競法2条1項3号の不正競争行為に該当しないとの被告の主張は,上記と同様の趣旨をいうものと解される。


 したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告商品1との関係では,原告の請求は理由がないというべきである。


 そこで,以下においては,原告商品2及び3との関係において,被告による被告商品の販売が原告主張の不正競争行為に該当するかどうかについて判断することとする。


(2)不競法2条1項3号の「商品の形態」該当性について


 ・・・省略・・・


イ ありふれた形態

 被告は,原告商品2及び3の形態は,原告商品2及び3の販売開始前から,市場において一般的に見受けられる同種の商品が通常有するところのごくありふれていて特段これといった特徴のない形態,いわゆる「ありふれた形態」であって,不競法2条1項3号の規定により保護される「商品の形態」に該当しない旨主張する。


 ところで,不競法2条1項3号の規定の趣旨は,他人が資金,労力を投下して商品化した商品の形態を他に選択肢があるにもかかわらずことさら模倣した商品を,自らの商品として市場に提供し,その他人と競争する行為は,模倣者においては商品化のための資金,労力や投資のリスクを軽減することができる一方で,先行者である他人の市場における利益を減少させるものであり,事業者間の競争上不正な行為として位置付けるべきものであるから,これを「不正競争」として規制することとしたものと解される。


 このような不競法2条1項3号の規定の趣旨に照らすならば,同号によって保護される「商品の形態」とは,商品全体の形態をいい,その形態は必ずしも独創的なものであることを要しないが,他方で,商品全体の形態が同種の商品と比べて何の特徴もないありふれた形態である場合には,特段の資金や労力をかけることなく作り出すことができるものであるから,このようなありふれた形態は,同号により保護される「商品の形態」に該当しないと解すべきである。


 そして,商品の形態が,不競法2条1項3号による保護の及ばないありふれた形態であるか否かは,商品を全体として観察して判断すべきであり,全体としての形態を構成する個々の部分的形状を取り出してそれぞれがありふれたものであるかどうかを判断し,その上で,ありふれたものとされた各形状を組み合わせることが容易かどうかによって判断することは相当ではない。

 以上を前提に,被告の主張について具体的に検討することとする。


(ア) 被告は,原告商品2及び3の形態がありふれた形態であることの根拠として,原告商品2及び3の販売開始前から,ゲーム機本体に収納可能なタッチペンをコイル状ストラップと結合させた商品が複数の同業他社により販売されていた旨を主張する。


 ・・・省略・・・


d小結

 以上によれば,被告が挙げる同業他社の各商品(前記aないしc)の形態は,いずれも原告商品2及び3の形態と全体としての形態が相違するものであるから,上記各商品が原告商品2及び3の販売開始前から市場に存在していたからといって,原告商品2及び3の形態が同種の商品と比べて何の特徴もないありふれた形態であることの根拠となるものではないというべきである。



 ・・・省略・・・



 しかし,上記写真及び製作方法によれば,当該タッチペンは,タッチペンのペン胴が金属製である上,ペン胴が伸縮可能な構成となっており,ペン胴がプラスチック製で,かつ,伸縮しない原告商品2及び3のタッチペンとは形態が異なり,また,コイル部の接合部が金属製の材質で光沢がある点においても原告商品2及び3と異なっており,原告商品2及び3と全体としての形態が相違する。


g小結

 以上によれば,被告が挙げる一般消費者の各作品(前記aないしf)の形態は,いずれも原告商品2及び3の形態と全体としての形態が相違するものであるから,上記各作品が原告商品2及び3の販売開始前からインターネット上で公表されていたからといって,原告商品2及び3の形態が同種の商品と比べて何の特徴もないありふれた形態であることの根拠となるものではないというべきである。


(ウ)以上のとおり,被告が挙げる同業他社の各商品の形態及び一般消費者の各作品の形態から,原告商品2及び3の形態が同種の商品と比べて何の特徴もないありふれた形態であるものと認めることはできない。


 また,前記(ア)aないしc,(イ)aないしfの認定事実と弁論の全趣旨によれば,ゲーム機本体に収納可能なタッチペンをコイル状ストラップと結合させたことを特徴とする商品には,タッチペンを構成するペン先,ペン胴及びペン尻,コイル状ストラップのコイル部を構成するコイル,接合部等の形状,材質等において多様な選択肢があり得るというべきであるから,上記特徴は,そもそも抽象的な特徴にすぎないものであって,不競法2条1項3号の規定により「商品の形態」として保護される商品の具体的な形態に当たらないものといわざるを得ない。


 したがって,原告商品2及び3の形態が,「ありふれた形態」であって,不競法2条1項3号の規定により保護される「商品の形態」に該当しないとの被告の主張は,理由がない。


ウ商品の機能を確保するために不可欠な形態

 被告は,原告各商品の機能は,?タッチペンの紛失・落下を防止すること,?ストラップが操作の妨げにならないように伸縮すること,?タッチペンがゲーム機本体に収納可能であることにあるところ,上記?の機能を確保するために「タッチペンにストラップを連結する形態」を,上記?の機能を確保するために伸縮性のあるストラップとして「コイル状ストラップ」を,上記?の機能を確保するために「純正タッチペンに類する形態」を採用することは不可欠であるから,原告各商品の形態は,不競法2条1項3号括弧書きの「商品の機能を確保するために不可欠な形態」であり,同号の「商品の形態」に該当しない旨主張する。


 しかしながら,前記イ(ウ)で述べたとおり,ゲーム機本体に収納可能なタッチペンをコイル状ストラップと結合させたことを特徴とする商品には,タッチペンを構成するペン先,ペン胴及びペン尻,コイル状ストラップのコイル部を構成するコイル,接合部等の形状,材質等において多様な選択肢があり得るものであって,被告が主張するところの上記?ないし?の機能を確保するための具体的な形態として,原告各商品の形態を必然的に採用せざるを得ないものと認めることはできないから,被告の上記主張は,採用することができない。




エまとめ

 以上によれば,原告商品2及び3の形態は,不競法2条1項3号の規定により保護される「商品の形態」に該当するというべきである。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。