●平成23(行ケ)10389 審決取消請求事件 実用新案権「室内芳香器」

 本日は 『平成23(行ケ)10389 審決取消請求事件 実用新案権 行政訴訟「室内芳香器」平成24年7月25日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120813152553.pdf)について取り上げます。


 本件は、実用新案登録無効審判の無効審決の取消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が認容され、無効審決が取り消された事案です。


 本件では、取消事由1(本件考案1の容易想到性に係る判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 高部眞規子、裁判官 井上泰人、裁判官 齋藤巌)は、


『3 取消事由1(本件考案1の容易想到性に係る判断の誤り)について

(1) 相違点1について

 本件考案1と引用考案との相違点1は,造花に関して,本件考案1では,「ソラの木の皮で作製した」ものであるのに対して,引用考案は,花芯付属品(おしべ等),花弁,額とからなる花形の形態からなる点である。


(2) 容易想到性

ア 前記2によれば,引用考案の気散管は,?芳香剤を上昇浸透させて上端部に導き,?すそ広がり状に形成された上端部から芳香を発散させ,?当該上端部を着色し人造花芯(人工花芯)とし,花の一部として装飾する,という機能を有する。気散管は,中空のノズル内に収容され,キャップに取り付けられた花弁等と接することはない。芳香の発散は,専ら気散管の上端部のみによって行われ,花弁の材質にかかわりなく,花弁からは芳香が発散されない。このように,引用考案は,芳香剤は気散管から気散するものであって,花形の形態から気散するものではない。


 これに対し,ソラの木の皮で形成されたソラフラワーは,花全体に芳香剤が浸透して,花全体から芳香が発散されるものと解され,ソラの木の皮から成る花弁部の細かい組織により,液体芳香剤が緩やかな速度で根本から先端の方へ浸透していくのであるから,芳香を発散しない引用考案の花弁とは機能的に相違する。


イ また,引用考案において,花の一部となる人造花芯は,気散管を形成する繊維をほぐして線状化することによって形成されるものであるところ,このような手法では,繊維をほぐしても線状にしかならず面状にはできないから,花弁のような面状のものを形成することはできない。


 このように,引用考案は,気散管の上端部の繊維をほぐして花の一部とすることを前提とし,気散管の上端部をほぐすことによって形成された花芯のみから芳香を発散させることを技術的思想の中核とするものである。


 したがって,引用考案においては,芳香の発散も,花の一部から行われるにとどまり,花弁や花全体から芳香を発散させるという技術的思想は存在しない。


ウ しかも,引用考案における気散管が,花弁等と接しないように構成されているのは,気散管を挿抜する際,気散管中の芳香剤が花弁等に付着しないようにするという積極的な理由に基づくものであり,そのために,気散管を敢えて中空のノズル内に収容しているものと認められる。花弁への芳香剤の付着を防止することは,花弁を含む花全体からの芳香の発散を否定することを意味するのであるから,この点において,花弁を含む花全体から芳香を発散させるソラフラワーを適用することの阻害要因が存在する。


エ 以上のように,機能及び技術的思想が異なることに照らせば,仮にソラフラワーが周知であったとしても,これを引用考案に適用することの動機付けがないばかりか,むしろ阻害要因があるというべきである。


 したがって,本件考案1は,引用考案に基づいてきわめて容易に想到できたものということができず,これをきわめて容易に想到できるとした本件審決は誤りである。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。