●平成23(行ケ)10404 審決取消請求事件 商標権「3MS」

 本日は、『平成23(行ケ)10404 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「3MS」平成24年7月26日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120727160301.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標登録の無効審決の取消を求めた審決取消請求事件で、その請求が認容されて、無効審決が取り消された事案です。


 本件では、商標法4条1項15号における出所混同のおそれについての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 八木貴美子、裁判官 小 田真治)は、


『2 出所混同のおそれについて

 そこで,本件商標は,他人(原告)の業務に係る商品又は役務と出所混同のおそれがあるかについて,判断する。


(1) 引用商標1の周知著名性,本件指定役務に関する分野における使用状況等ア 原告は,1902年(明治35年)に設立されたアメリカ合衆国の法人である。現在の社名は英語で表記すると「3M Company」であり,日本では「スリーエム」又は「スリーエム社」と称されている(甲3の1及び3の2,320の1ないし320の19,弁論の全趣旨)。なお,「3M」は,原告の旧会社名である「Minnesota Mining & Manufacturing Co.」に由来する(甲320の14)。


 ・・・省略・・・


オ 以上によると,本件出願前から,原告及び住友スリーエムの名称の一部である「スリーエム」は,世界的にも日本国内においても著名であるといえる。また,引用商標1は,原告の会社名の一部でもある「3M」の数字及び欧文字からなる商標であり,原告や関連会社のハウスマークとして使用されている。


 原告は,昭和35年に日本法人を設立後現在に至るまで,関連会社を通じて日本国内で原告の製品を販売しており,関連会社が日本国内において販売している製品は,文具製品・オフィス製品に限られず,多分野,多品種に及んでおり,その中には,衣服に使用される反射材製品,中綿素材,芯地素材や衣類・布製品,革用の防水スプレーも含まれている。そして,これらの製品のほとんどには引用商標1が付され,その販売や広告宣伝等に当たっても引用商標1が使用されている。したがって,引用商標1は,本件出願がなされた平成19年11月16日時点においても,その後現在に至る間においても,文具製品・オフィス製品を始めとする多くの分野において,原告や関連会社の業務に係る商品を表示する商標として著名であると認められる。


(2) 小括

 上記のとおり,?本件商標と引用商標1とは,外観及び称呼において類似し,類似の商標であること,?本件出願前から,原告や住友スリーエムの商号中の「スリーエム」部分は,日本国内において著名であること,?原告の関連会社は,日本国内において,引用商標1を使用して,文具製品・オフィス製品を始め,多分野,多種類に及ぶ製品を販売し,原告の関連会社が販売する製品の中には,被服に使用される中綿素材や反射材製品,衣類・布製品及び革に使用される防水スプレーも含まれていること,?衣服等の布製品においては,素材の開発から加工技術の開発まで同一の企業や関連会社が行う場合があり(甲401ないし404),上記中綿素材,反射材製品及び防水スプレーは,本件指定役務に含まれる「布地・被服又は毛皮の加工処理(乾燥処理を含む。)」と密接に関連するといえること,が認められる。


 上記の事実を総合すると,本件商標を本件指定役務に使用すると,取引者・需要者において,当該役務が原告又は原告と組織的・経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であると混同するおそれがあると認められ,本件商標は商標法4条1項15号に該当する。


(3) 被告の主張に対して

 被告は,原告は本件指定役務に関する業務は行っておらず,本件商標を本件指定役務に使用しても,混同が生じるおそれはない,布地・被服等の加工品に引用商標が表示されたタグ等が付されていても,これらのタグ等は加工業者を示すものとは認識されないと主張する。


 しかし,以下のとおり,被告の主張は失当である。


 原告や引用商標1が著名であることに加え,原告の関連会社が販売する商品は,多分野,多種類に及んでいること,引用商標1は原告や関連会社のハウスマークとして使用されていることからすると,たとえ,原告や関連会社が本件指定役務に含まれる業務を実施していないとしても,取引者・需要者において,原告又は原告と組織的・経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であると混同するおそれがあるというべきである。


 また,衣服等においては,素材の開発から加工技術の開発まで同一の企業や関連会社が行う場合もあることからすると,布地・被服等の加工品に引用商標1が表示されたタグ等が付されていれば,取引者・需要者が原告又は原告と何らかの関係を有する者がこれらの加工を行ったと認識する可能性はある。


3 結論

 以上のとおり,本件商標は商標法4条1項15号に該当し,これに基づく原告主張の取消事由は理由があり,審決には,結論に影響を及ぼす誤りがある。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。