●平成24(行ケ)10042審決取消請求事件 意匠権「自動二輪車用タイヤ

 本日は、『平成24(行ケ)10042 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟自動二輪車用タイヤ」平成24年7月18日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120720140014.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取り消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、意匠法3条1項3号における意匠の類似の判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 池下朗、裁判官 古谷健二郎)は、


『2 両意匠の対比

(1) 本願意匠の要部について

 本願意匠において,全体としてみて,いずれも略同方向に傾斜した長,中,短の三つの溝を1単位とし,これを,赤道を中心として,左右の斜めに向けて,千鳥配置状に配設した点については,本願意匠の出願前に日米において複数登録されていることを斟酌すると,それだけでは取引者・需要者の注意を引きやすい特徴的な形態であるとはいえず,本願意匠においては,繰返しの単位を構成する三つの溝の,具体的な形状,配列,位置関係等が,取引者・需要者の注意を引きやすい特徴的な部分(要部)であると認めることができる。


 この点について,被告は,いずれも略同方向に傾斜した長,中,短の三つの溝を1単位とし,これを,赤道を中心として,左右の斜めに向けて,千鳥配置状に配設した点に加え,各溝が並ぶ順番,長中二つの傾斜溝の形状と屈曲の方向,中傾斜溝の長さと位置を一体の共通点Aとして捉え,これらのすべてを満たす公知意匠が存在しないことから,それらを一体として審決が認定した共通点Aは,引用意匠との対比において類否判断に支配的な影響を及ぼすと主張する。


 しかしながら,「いずれも略同方向に傾斜した長,中,短の三つの溝を1単位とし,これを,赤道を中心として,左右の斜めに向けて,千鳥配置状に配設した点」は,特定の単位の繰返しという意匠全体の構成に関する基本的な態様であるということができるものの,上記のとおり,それだけでは取引者・需要者の注意を引きやすい特徴的な形態であるとはいえず,各溝の並ぶ順番(溝の長さは相対的な評価なので,溝の長さが変化すると,溝の並ぶ順番も変化し得る関係にある。)や,長傾斜溝,中傾斜溝の形状等については,繰返しの単位内における個別的な形状に関するものとして,取引者・需要者の注意を引く特徴的な形態となり得るものである。


(2) 両意匠の類否判断

 上記観点から両意匠を対比するに,本願意匠は,全体として,三つの溝が略等距離を保ち,整然と配置されている印象を与える点に特徴がある。個別的には,長傾斜溝と中傾斜溝につき,溝間の距離に大きな変化はなく,また,いずれも端部と折曲部との間の長い辺部分が略直線状で,サイドウォール寄り端部も斜辺状,すなわち直線状であって,赤道寄り端部は小半円弧状であるものの,端部に向けて溝幅が狭くなることから鋭角的な印象を与え,折曲部の角部も明確であり,短溝についても,長さが短いため,中傾斜溝との溝間の距離の変化を感じさせず,また,端部及び端部を結ぶ辺部分がいずれも略直線状である点に特徴がある。


 これに対し,引用意匠は,本願意匠と対比してみるときには三つの溝が1単位となっているように観察されるものの,引用意匠それ自体を観察する限りにおいては,全体として,三つの溝がまとまりなく,雑然と配置されている印象を与える点に特徴がある。個別的には,長傾斜溝と中傾斜溝との溝間の距離の変化が大きく,また,三つの溝につき,いずれも一方の端部が毛筆書体における横棒の入り様とした形態であって,足のかかと様に出っ張った部分があり,かつ,この部分の溝幅が広がっていることなどから,当該端部がねじれている印象を与え,さらに,長傾斜溝は他方の端部も丸みを帯びた斜辺の突端をわずかに屈曲させた形状であり,中傾斜溝は溝全体が緩やかに湾曲した形状であり,短溝は毛筆書体における横棒の入り様とした形態が溝全体の約3分の1を占め,他方の端部もわずかに丸みを帯びた斜辺状であって,統一感なくねじれた印象を与える点に特徴がある。


 上記のとおり,本願意匠の三つの溝は,溝縁が直線であり,端部に向けて溝幅が細くなることから,看者に対し,一方の先端がとがった細い直線により構成され,無機的であり,かつ,非常にすっきりとして,サイドウォールから赤道に向けて流れる印象を与えるような美感を生じさせるものといえる。これに対し,引用意匠の三つの溝は,全体として,基本的に溝幅に変化がないことも相まって,看者に対し,同じ幅の溝が曲線的にねじ曲がった印象,例えていえば,先端の丸まった筒状の細菌あるいは細胞をまとまりなく配した印象を与えるような美感を生じさせるものといえる。


 なお,両意匠は,略同方向に傾斜した三つの溝を1単位とする形状(模様)が,タイヤの赤道を中心として,左右の斜めに向けて,千鳥配置状に配設されている点が共通するが,この点は,既に説示したとおり,公知意匠との関係で,本願意匠の要部には当たるとはいえない。また,両意匠は,三つの溝が,長,中,短の順番で配設されている点,中傾斜溝が長傾斜溝と短溝の略中間に配設されている点,サイドウォール付近において,短溝のサイドウォール寄り端部が,中傾斜溝と隣の1単位に属する中傾斜溝との略中間に位置している点が共通するが,三つの溝を配設する場合に,長さ順に配設することや,溝の間隔が均等となるように配設することは,調和の観点から選択されやすい形状である。その他にも,両意匠は,長傾斜溝が,溝の中間よりサイドウォール寄りの部分に折曲部を有する略「へ」字状である点,中傾斜溝が長傾斜溝よりやや短い点,長傾斜溝と中傾斜溝の間隔が溝全体としては若干広がっている点などの共通点を有するが,他方で,短溝の長さが異なり,長傾斜溝と中傾斜溝の拡幅度合いが異なるなどの相違点も存する。


 以上を総合すると,本願意匠は,共通点を考慮したとしても,全体として取引者・需要者に引用意匠と異なる美感を生じさせるものと認めるのが相当であって,引用意匠とは類似しない。


第6 結論

 以上のとおりで,引用意匠との対比において本願意匠の意匠法3条1項3号該当性を肯定した審決の判断は誤りであって,取り消されるべきである。


 よって,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。