●平成23(行ケ)10436 審決取消請求事件 商標権「クールボス」

 本日は、『平成23(行ケ)10436 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「クールボス」平成24年7月18日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120720132134.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標登録無効審判の棄却審決の取り消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、取消事由3(11号該当性の判断の誤り)および取消事由4(15号該当性の判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 池下朗、裁判官 古谷健二郎)は、

『1取消事由3(11号該当性の判断の誤り)について

(1)本件商標は,「クールボス」の片仮名を標準文字で同書,同大,等間隔に書され外観視覚上極めてまとまりよく一体に表されているものである。


 また,本件商標は,これより生ずると認められる「クールボス」の称呼も冗長でなく無理なく一気一連に称呼し得るものである。そして,「クール」の語は「涼しい,格好いい,素敵な」といった意味を有し,商品についての説明的記述に係るものである。


 したがって,本件商標は,その構成全体をもって一体不可分の造語として認識し把握されるとみるのが自然であり,その構成文字全体に相応して「クールボス」の称呼を生じさせる。また,「ボス」が通例の認識からすれば「親分」「上司」の意味を持つことからすると,「クールボス」と一体としてみるべき本件商標からは,「クールなボス」程度の観念を生じさせる。


(2)引用商標は,単独の「BOSS」の文字よりなるものか,「BOSS」の欧文字を顕著に表わし,その下段に「HUGOBOSS」の欧文字を小さく表わしてなる構成のものであるから,引用商標からは,その構成各文字に相応して「ボス」若しくは「ヒューゴボス」の称呼を生じ,日本人の通常の感覚からは,「親分」「上司」の観念が生じる。


(3)本件商標と引用商標との対比

 本件商標より生ずる「クールボス」の称呼と引用商標より生ずる「ボス」若しくは「ヒューゴボス」の称呼とは,「ボス」の部分において共通するものの,構成音数若しくは音構成において著しい差異を有するものであるから,明確に聴別することができる。したがって,本件商標と引用商標とは,称呼上,明らかに区別し得るものである。


 また,本件商標と引用商標とは,上記(1),(2)のとおりの構成態様からなるものであるから,外観上,判然と区別し得るものであり,また,観念については「親分」「上司」において共通するものがあるとしても,「クールな」が加わることにより,本件商標は引用商標と一部異なってくる。そうすると,本件商標と引用商標とは,称呼,外観の差が大きいので,観念において一部共通するにしても,類似するものということはできない。


 したがって,本件商標は11号に違反しないから,取消事由3には理由がない。


2取消事由4(15号該当性の判断の誤り)について

(1)本件商標と引用商標とが非類似であることは上記1で判示したとおりであるが,引用商標に係る商品の取引実態についてみるに,甲1〜15,甲20〜27,甲32(いずれも枝番を含む)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。


・・・省略・・・


(2)上記認定の事実によれば,「BOSS/HUGOBOSS」商標は,フーゴ・ボスAGにかかる紳士服及び紳士用品について使用されるものとして,本件商標登録出願日及び現在において,海外及び我が国で著名となっているものと認められる。


 ここで,「BOSS」の欧文字は,2段に構成された「BOSS/HUGOBOSS」商標中で上段に顕著に表された部分であり,フーゴ・ボスAGが用いる多数のブランドの大部分で共通する部分であり,「BOSS/HUGOBOSS」商標の要部と認められる。「BOSS」の欧文字からは,「ボス」の称呼を生じ,「親分」「上司」の観念を生じる。


(3)本件商標の取引の実情をみるに,甲98,甲100〜103によれば,被告は本件商標を付した小型ファン付き作業服を販売し,その開始は,本件商標の出願とほぼ同時期である。そのパンフレット(甲98)には,上方に大書された「クールボス」の文字の下方に,大きな文字で「涼しい」「作業服」との記載があり,「涼しい」の文字と「作業服」の文字は,「涼しい」の文字の下から「作業服」の文字の上にかけて記載された「〜」を反転させた形状の曲線によって区分され2行に表記されている。「涼しい」を英語で「クール」と称することは一般的な認識であるから,この記載を見る者は,「クールボス」の文字中の「クール」の部分が「涼しい」に対応し,「ボス」の部分が「作業服」に対応するとの理解に誘導されることになる。「クール」の文字が説明的で出所表示機能を有しないのに対し,「ボス」の文字は,これから生じる「親分」「上司」の観念が作業服とは結び付かず,作業服を「ボス」と呼ぶこともないことからすると,本件商標からは,前記のように紳士服及び紳士用品の商品分野において著名な「BOSS/HUGOBOSS」商標を想起する可能性が高いといえる。このように,「BOSS/HUGOBOSS」商標がフーゴ・ボスAGにかかる紳士服及び紳士用品について使用されるものとして我が国において著名となっていること,作業服の購入者に男性が多いであろうことからからすると,「クールボス」の商標が付された作業服が販売されれば,その作業服がフーゴ・ボスAG又はこれと営業上何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,出所について混同を生じるおそれがあることになる。


(4)被告は,「クールボス」の商標が付された作業服とフーゴ・ボスAGの紳士服及び紳士用品は,需要者及び販売経路が異なると主張するけれども,上記認定のとおり「BOSS/HUGOBOSS」商標はカジュアルウェアやスポーツウェアにも付されることからすれば,販売経路が接近する可能性を否定できない。上記認定にかかる「BOSS/HUGOBOSS」商標の著名性に鑑みると,本件商標を指定商品である「通気機能を備えた作業服,洋服,コート」に使用すると,「BOSS/HUGOBOSS」商標との間に混同を生じるおそれがあり,本件商標登録は,15号に違反してされたものと認められる。


 したがって,「被告が本件商標をその指定商品に使用しても,これに接する取引者,需要者が引用商標を連想又は想起するものとは考え難く,さらに,その商品が原告あるいは原告と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,当該商品の出所について混同を生じさせるおそれはないので,本件商標は,15号に違反して登録されたものではない。」との審決の判断は誤りである。』

と判示されました。


詳細は、本判決文を参照して下さい。